第38話 救う相手は選ばない
「この箱は何だ?」
俺が尋ねると、ガレスは壁へ寄りかかった。
「崩落後に見つけた。中央本部の調査隊が、迷宮深部で赤晶を掘っていた証拠だ」
箱の中には、採掘道具と未登録の魔石。それに、危険度を偽装した依頼書が束で入っていた。
持ち帰ればバルガスを追及できる。
だが全部は運べない。
《撤収》は、人が身につけた物と手に持つ物だけを帰す。箱ごと運べば魔力が足りなくなる。
「重要書類だけ分ける」
フィンとエマが番号と封印を確認し、袋へ詰める。ドーガは箱の板を一枚外し、証拠の刻印部分だけを背負った。
ガレスが俺を見る。
「証拠を優先して、俺を置いていけばいい。お前にはその権利がある」
「ない」
「俺はお前を見捨てた」
「だから俺も見捨てれば、同じことが二回起きるだけだ」
リゼがガレスの腕を自分の肩へ回した。
「立てますか」
「女に担がれるほど――」
「なら置いていきます」
「……頼む」
弱さを認めるたび、ガレスの鎧から何かが剥がれていくようだった。
帰還を発動しようとした時、通路の奥で獣の声がした。
旧第九層の魔物が集まってくる。
「帰還点までの距離が遠い。人数と荷物で発動に四十秒かかる」
「俺が残る」
ガレスが折れた大剣を握った。
「話を聞いていなかったのか」
俺は剣を下ろさせる。
「リゼ、前方。ドーガ、右壁を落として道を絞る。エマは灯り、ティナはガレスを診てくれ。フィン、四十秒数えろ」
全員が動いた。
誰か一人が残る前提ではない。
盾と瓦礫で魔物を止め、四十秒を全員で作る。
「時間です!」
「《隊列撤収》!」
青い光が石室を満たした。
地上へ戻ったガレスは、南区の空をしばらく見上げていた。
「明るいな」
それだけ言って、泣いた。
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