第36話 《金獅子》の生き残り
「遅くなって、ごめんなさい」
エマは杖をついたまま頭を下げた。
俺は何を言えばいいか分からなかった。
生きていることは知っていた。治癒院が面会を拒んでから、何度か手紙も送った。返事はなかった。
「足は?」
「歩ける。でも戦闘魔術は、まだ無理」
ティナが椅子を用意し、慎重に脚を診た。
「表面は治っていますが、神経が圧迫されています。時間をかければ改善できます」
エマの目が潤む。
「時間をかけてくれるの?」
「それが私の治療です」
落ち着いてから、エマは革袋を机へ置いた。
中には薄い水晶板がある。
「探索前、私はユアンの帳面を記録魔法で写していた。ガレスに無茶をさせないため、崩落の予測を後で見せようと思って」
水晶へ魔力を流すと、俺の字が浮かんだ。
《第九層以降、外部振動あり。深部採掘との共振を疑う。撤退推奨》
審問室で消えた探索帳の写しだ。
「どうして、今まで?」
「治癒院に本部の監視がいた。証言すれば治療費を打ち切る、あなたも故意の遺棄罪で牢へ入ると言われた」
エマは両手を握った。
「怖かった。帰りたいと言えたのに、今度は真実を言えなかった」
「生きるために黙ったことを、俺は責められない」
「でも、もう黙らない」
南区救助の記事を読み、杖をついて治癒院を抜けたという。
水晶記録があれば、バルガスが審問資料を隠した証拠になる。
「もう一つある」
エマが小さな金色の石を出した。
《金獅子》が緊急時に使う共鳴石だ。仲間の石が近くにあれば光る。
「三日前から、弱く反応しているの」
石は確かに点滅していた。
方向は、南区に開いた新しい迷宮。
「ガレスたちの誰かが生きている?」
「分からない。でも、この反応は登録者の生命魔力にしか出ない」
かつて崩れた迷宮と、南区の地下迷宮がつながった。
そこに《金獅子》の生き残りがいる。
俺は共鳴石を握った。
助けたいのか、会うのが怖いのか。
自分でも分からなかった。
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