第35話 商人は命を担保にする
「無期限の資格剥奪と、銀貨五百枚の罰金を求める」
監査官が処分書を読み上げる。
南区の広場には、救出された住民がまだ大勢残っていた。
「人命救助でした」
「立入停止命令を破った事実は変わらない」
「中央本部の救助隊はいつ来る予定だった?」
「調査後、適切な時期に――」
「今来たぞ!」
群衆の後ろから声が上がる。
正規救助隊が到着したのは、六十四人を救出して一時間後だった。
住民の怒号に、監査官がたじろぐ。
そこへ隊商主マルコが進み出た。
「罰金五百枚だったな」
彼が指を鳴らすと、商人たちが銀貨袋を積み始めた。
「百二十」「うちは八十」「南市場組合から百」
あっという間に、机の上へ五百枚が並ぶ。
俺は慌てた。
「待ってください。こんな金は受け取れない」
「お前にやるのではない」
マルコは監査官を見た。
「我々は《生還共済》へ投資している。救助組織を潰されれば、荷主と働き手の命が危険にさらされる。その損失を防ぐ経費だ」
「中央本部への反抗と見なすぞ」
「本部の規則は商取引より上かもしれん。だが、助けられた六十四人の証言より上ではない」
救出された少女が、監査官へ言った。
「この人たちが来なかったら、お母さんは死んでた」
母親も前へ出る。
「命令を守った人は、一人も地下へ来ませんでした」
監査官は処分書を畳んだ。
「正式審問まで判断を保留する」
逃げるように去っていく。
俺はマルコへ頭を下げた。
「必ず返します」
「勘違いするな。次にうちの隊商が遭難した時、全員帰せ。それで十分だ」
《帰還灯》はもう、五人だけのギルドではなかった。
その日の夕方、一人の女性が杖をついて倉庫を訪れた。
歩き方にはまだ硬さがある。けれど、見間違えるはずがない。
「エマ……」
《金獅子》から一緒に帰った魔術師が、目の前に立っていた。
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