第34話 無許可の出動
南区の地下は、生活の跡と迷宮が混ざり合っていた。
台所の壁から青黒い石が生え、廊下の先が本来ない階段へつながっている。
「迷宮化は西から広がっています」
フィンが地図へ線を引く。
「人の多い共同倉庫は東。先にそちらです」
ドーガが点検口の内側へ移動式帰還灯を固定した。俺が紋を刻み、第一帰還点にする。
共同倉庫では、三十七人が家具で入口を塞いでいた。
向こう側で、小型の岩鼠が壁を削っている。
「助けに来た! 開ける前に、帰還同意を取る!」
一人ずつ名前を聞く余裕はない。世帯単位で仮登録し、救助札を配る。
「最初の十二人、子どもと負傷者から!」
青い光で第一陣を送る。
再使用まで十二分。
その間にリゼとハンスたちが入口を守り、ティナがけが人を選別する。フィンは次の住居への道を探した。
「北廊下は三分後に塞がります。床の音が変わった」
「全員、南へ移動!」
最後の人が廊下を抜けた直後、天井が落ちた。
二回、三回と帰還を繰り返す。
地上の帰還点では、住民たちが自発的に点呼と炊き出しを始めていた。訓練へ通った子どもたちが、負傷者を治癒所へ誘導する。
残りは、最初に救った少女の母と弟を含む七人。
西側の住居に閉じ込められている。
迷宮化した通路へ入ると、壁そのものが脈打っていた。
「ここから先は中央本部の定義でも迷宮です」
フィンの声が震える。
「戻るか?」
「怖いです。でも道は見えます」
彼の指した壁際だけ、石の色が薄い。
リゼが盾を前に出し、ドーガが壁を補強しながら進む。
七人は行き止まりの小部屋にいた。
母親が子どもを抱きしめ、こちらを見て泣き崩れる。
「地上で娘さんが待っています」
帰還同意を取る。
俺たちを含め十一人。
青い光が広がった時、背後の通路が完全に閉じた。
地上へ戻ると、少女が母親へ飛びつく。
点呼結果、六十四名。
欠員ゼロ。
そして地上では、処分書を手にした監査官が待っていた。
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