第33話 地下街に迷宮が開く
南区は、城壁と下水路の間に造られた貧しい地区だ。
古い地下倉庫を住居にした家が多く、地面が割れた時、六十四人が地下に取り残された。
その半数は子どもと老人。
現場へ着くと、中央本部の職員が縄を張っていた。
「下がれ! 正式な迷宮発生を確認中だ!」
穴の奥から悲鳴が聞こえる。
「確認は済んでる。人がいる」
「《帰還灯》は立入停止処分中だ」
俺たちの前へ槍が交差する。
「正規救助隊は?」
「夜明けに編成する。地形が不明なまま入れば二次被害が出る」
言葉だけなら正しい。
だが、南区は本部へ高い税を払えない。優先度を下げられているのは明らかだった。
穴の中から、小さな手が見えた。
崩れた床材の隙間で、少女が泣いている。
リゼが一歩出る。
「地上部分の救助なら、迷宮立入ではありません」
監視役が止める前に盾を梁の下へ差し込み、俺とドーガが少女を引き上げた。
「中に何人いる?」
「お母さんと、弟と……みんな、下へ落ちた」
フィンはすでに周囲の地下図を広げていた。
「下水路と共同倉庫がつながっています。東の点検口から入れば、迷宮化した範囲を避けて地下住居へ行けます」
「点検口も立入禁止にする!」
職員が叫ぶ。
南区の住民が俺たちを囲んだ。
「待ってくれ! 中には家族がいる!」
「うちの子を助けて!」
本部の救助を待つか。
命令に背き、ギルドそのものを失う危険を冒すか。
迷う時間は長くなかった。
地面の下から、救難鐘が二回鳴った。
魔物の発生を知らせる合図だ。
「リゼ」
「準備できています」
ティナも救護袋を背負う。フィンは地図を丸め、ドーガは移動式帰還灯を担いだ。
誰一人、俺の命令を待っていない。
「無許可で出動する。処分は俺が受ける」
リゼが首を横に振った。
「その言い方は、加入規則違反です」
「全員で受けるぞ、ギルド長」
ドーガが点検口の鍵を大槌で壊した。
---




