第32話 救助権剥奪
監査は三日続いた。
帳簿、救助札、薬品棚、訓練記録。監査官は細かな不備を探し、見つからなければ同じ書類を角度を変えて調べた。
最後に示された違反は二つ。
資格停止中の俺が地下三層へ入ったこと。
正式認可前にゴブリン討伐を行ったこと。
「どちらも救命上の緊急措置です」
リゼが反論する。
「緊急性を認定するのは中央本部だ」
「認定を待っていれば、子どもたちは死んでいました」
「仮定の話だ」
監査官は無表情のまま処分書を読み上げた。
《帰還灯》の迷宮立入許可を無期限停止。救助依頼は中央本部を通し、指名された時のみ活動可能。
「それでは救助権の剥奪です」
「処分に不服なら、本部長へ上申せよ」
仕組んだ本人へ訴えろということだ。
監査官が帰ったあと、倉庫は静まり返った。
加入したばかりの子どもたちは、不安そうに俺を見る。
「ギルド、なくなるの?」
ミミが尋ねた。
「なくさない。地上の訓練と救護は続ける」
「でも迷宮へ行けないんだろ」
「行けるようにする方法を探す」
俺は平静を装ったが、収入の八割は迷宮依頼だ。立入停止が一か月続けば、家賃も給金も払えない。
マルコが商人仲間を連れて訪れた。
「共済金は預かり金だ。運営費へ勝手に回せんぞ」
「分かっています」
「その上で、支援会員を増やす。地上護衛と救命講習を商品にしろ」
「助かります」
「礼は、潰れずに返せ」
夕方、中央本部の掲示板へ救助依頼が出た。
西迷宮、行方不明二名。
《帰還灯》は指名されていない。
翌日、その二名は遺体で戻った。
救助隊の出発が半日遅れたという。
俺は掲示板の前で、拳を握りしめた。
「怒っているなら、怒ってください」
隣にいたリゼが言った。
「冷静なふりをして、自分を責めるのはやめて」
「俺たちが行けたとは限らない」
「ええ。でも行く選択まで奪われました」
その夜、迷宮都市の南区で地面が割れた。
地下から、救難鐘より大きな音が鳴り響いた。
---




