第31話 卑怯者ランキング一位
攻略率一〇〇パーセントの記事が出た翌日、《帰還灯》の前には行列ができた。
加入希望者ではない。
見物人だ。
「本当に逃げるだけで金がもらえるのか?」
「撤退回数も王国一位らしいぞ」
軒先の看板を指さして笑い、青い灯を背景に記念絵を描かせる者までいる。
ドーガが大槌を持って外へ出ようとしたので、俺とフィンで止めた。
「看板を直すだけだ」
「見物人の頭でか?」
「新しい看板が必要になりますね」
ティナまで真顔で言う。
リゼだけは窓口に座り、淡々と登録作業を続けていた。
「笑われても加入者は増えています。《生還共済》は三百二十七名です」
「気にならないのか?」
「騎士団を追われた日よりは、ずっとましです」
そう答えた直後、外から聞き慣れた声がした。
「おい、臆病者の盾騎士。今度は子どもに逃げ方を教えているのか?」
酒場でリゼを囲んでいた元同僚たちだ。
ハンスが立ち上がる。
「俺たちは臆病者じゃない!」
「いい」
リゼが制した。
彼女は騎士たちの前へ出る。
「先月、北部騎士団の負傷者数は?」
「何?」
「遠征三回で重傷七、死者二。撤退訓練は実施しましたか」
騎士たちが黙る。
「《帰還灯》は依頼六件、死者ゼロです。卑怯者ランキングがあるなら一位で構いません。生還者の数も一位を目指します」
見物人の間から拍手が起きた。
最初は一人。次に、鉱山から帰った採掘夫たち。救出した子どもの家族。《生還共済》の商人。
騎士たちは何も言わずに去った。
リゼが戻ってくる。
「格好よかったぞ」
「手が震えています」
机の下で握った拳が、確かに小さく震えていた。
「それでも言えた」
「はい」
午後、今度は笑わない客が来た。
中央本部の監査官三名。
先頭の男は封蝋付きの書面を開いた。
「《帰還灯》に対する特別監査を開始する。本日より、全迷宮への立入を停止せよ」
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