第27話 死ぬたび強くなる鉱山主
地下へ転点すると、熱風と血の匂いが押し寄せた。
鉱山主は巨大な甲虫だった。
赤晶に覆われた体は小屋ほどもあり、六本の脚が坑道を削っている。アレクシスの聖剣が胸部を深く裂いていた。
「遅いぞ」
勇者は立っていたが、左肩の鎧が砕けている。
周囲には、ゼムが雇ったらしい私兵が三人倒れていた。
「その人たちは?」
「俺より先に入っていた。階層主を起こし、逃げ損ねたようだ」
ティナが駆け寄り、一人ずつ確認する。
首を横に振った。
三人とも、すでに息がない。
鉱山主の傷口へ、赤い光が集まった。
床の赤晶から細い線が伸び、倒れた三人を通って甲殻へ流れ込む。
アレクシスがつけた傷が閉じていく。
「何だと……」
フィンが壁を見る。
「魔力の流れが、遺体から魔物へ向かっています」
鉱山主が咆哮し、脚を振り下ろす。
リゼの盾が受け止めた。衝撃で全員の足元が沈む。
「アレクシス、撤退する!」
「この程度の再生、上回ればいい!」
聖剣が再び金雷をまとう。
「攻撃するほど坑道が崩れる。次に誰かが死ねば、また強くなる!」
「俺は死なない!」
「仲間もか!」
アレクシスの目が、ティナたちへ動いた。
その一瞬で十分だった。
「俺の救助登録を受けろ。今だけでいい」
「逃げた記録をつけろと?」
「生きている記録を残せ」
鉱山主の角が天井を突き、岩が降る。
アレクシスは舌打ちし、俺の左手へ自分の手を重ねた。
「一度だけだ」
《救助同意を確認》
俺たちは地下退避所へ撤収した。
鉱山主は追ってこない。
深部の赤晶とつながり、死者から魔力を吸う。それこそが、あの魔物の領域だった。
アレクシスは閉じかけた肩の傷を見ながら、低く言った。
「逃げたのではない。次に倒すためだ」
「それでいい」
彼がこちらを睨む。
「同じだと言うな」
リゼが小さく笑った。
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