第19話 命に値段をつけるな?
初討伐の噂が広がると、依頼は増えた。
同時に、苦情も増えた。
「救助登録だけで銀貨一枚? 人の命を商売にする気か!」
倉庫の前で声を上げたのは、革鎧を着た中年冒険者だった。
「本部の救助隊は成功報酬だぞ。お前たちは助けなくても金を取る!」
周囲に人が集まる。
俺は料金表を外さなかった。
「登録料には帰還灯の設置、救助札、月一回の更新が含まれます。出動時の費用は別です」
「だから高いと言っている!」
「灯石一つが銀貨四枚。解毒薬、縄、盾の修理、治癒師と斥候の給金も必要です」
「善意でやれ!」
その言葉に、ティナの顔が曇った。
善意だから無給で働け。治癒師や救助者へ向けられやすい言葉だ。
「善意はあります。でも、善意だけでは次の人を助けに行けません」
俺が答えると、別の声がした。
「なら、払える者だけ助かるのかい?」
採掘夫の妻だ。夫と息子が同じ班で迷宮へ入っているという。
銀貨二枚は、この家族の一週間分の生活費になる。
どちらの言い分も分かる。
その夜、俺たちは机を囲んだ。
「登録料を下げれば、三か月で破産です」
フィンが収支を計算する。
「高いままでは、本当に必要な下級冒険者が入れません」
ティナも言う。
リゼは料金表を眺めていた。
「一人ずつ払うから高いのでは?」
「どういう意味だ?」
「百人が少額ずつ出し、事故に遭った人の救助費へ回す。全員が同時に遭難するわけではありません」
前世にも、似た仕組みがあった。
「共済か」
毎月、銅貨数枚。加入者が救助を必要とした時、積立金から費用を出す。迷宮へ入らない商人や家族も支援会員になれるようにする。
翌日、《生還共済》の募集を始めた。
最初の加入者は、トトとミミの孤児院だった。酒場の主人、農夫、採掘夫の妻が続く。
夕方、一人の商人が大口会員になった。
「迷宮へ物資を運ぶ隊商には、生きて戻ってもらわんと困る。これは慈善ではなく投資だ」
彼の名はマルコ・イグナ。後に《帰還灯》を支えることになる隊商主だった。
三日で加入者は百人を超えた。
そして百一人目は、赤晶鉱山で働く採掘夫だった。
「最近、下層で妙な振動がある。班ごと救助登録を頼みたい」
俺はすぐに鉱山へ事前調査に向かうことを決めた。
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