第18話 初討伐、負傷者ゼロ
首領の大斧が盾を滑り、石床を割った。
リゼは半歩だけ下がる。力で受け切らず、斧が床へ食い込む位置へ誘導したのだ。
「今!」
俺は角笛を蹴り飛ばした。
フィンが投げた縄が首領の腕へ絡む。戦闘は苦手でも、距離と角度を測る目は正確だ。
「ティナ!」
「はい!」
治癒の杖から弱い光が放たれ、首領の目をくらませる。治療魔法は魔物を傷つけない。だからこそ、予想していなかった光に大きくひるんだ。
リゼが盾の縁を斧の柄へ打ちつける。
武器が落ちた。
俺の短剣では厚い皮を貫けない。狙うのは倒すことではなく、姿勢を崩すことだ。膝裏を浅く切る。
首領が片膝をついた。
「《盾撃》!」
リゼの一撃が、鉄兜ごと頭を打ち抜いた。
大きな体が床へ倒れる。
広場に静けさが戻った。
「周囲確認!」
勝利を喜ぶ前に、フィンが北の通路を見る。
「逃げた群れは戻ってきません。煙は弱くなっています」
「負傷は?」
ティナが全員を診た。
「リゼさんの左腕に軽い打撲。ほかはありません」
「治療は地上で。長居しない」
首領の魔石だけを回収し、巣に残された食料と道具には触れなかった。大量の荷物を抱えれば、緊急帰還の妨げになる。
歩いて入口へ戻る。
地上の光が見えた時、フィンが立ち止まった。
「僕……最後まで歩けました」
「地図のおかげで全員歩けた」
農夫たちが駆け寄ってくる。
「畑側の穴からゴブリンが出てこない。本当に追い出したのか?」
首領の魔石を渡すと、疑っていた顔が崩れた。
「四人で、けが人もなし?」
「一度目に戦わなかったからです」
報酬の銀貨を受け取る。
初めて、メンバーへ給金を払える金額だった。
倉庫へ戻ると、救出した子どもたちが待っていた。リゼが首領の鉄兜を机へ置く。
「討伐成功。負傷者一名、軽い打撲のみ」
ティナが訂正する。
「もう治療しました。負傷者ゼロです」
歓声が上がった。
フィンは自分の地図の隅へ、小さな青い灯を描いた。
その日、《帰還灯》は初めて討伐依頼を完了した。
撤退回数、一回。
生還者、四名。
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