第16話 地図を持って帰る
倉庫へ戻ると、フィンは夜中まで地図を描き直した。
通路の幅、高低差、空気の流れ。ゴブリンと遭遇した位置には赤い印。防音罠には黒い印。
「ここです」
完成した地図の左端を指す。
「排気口の先に、地上の水路が通っています。地図上では離れて見えますけど、高低差を合わせると壁一枚です」
俺は農業用水の図面と重ねた。
確かに、巣の上を細い水路が走っている。
「水を流し込むのか?」
リゼの問いに、首を横に振る。
「子どものゴブリンがいる。溺れさせる必要はない。湿った煙を入れて、出口を限定する」
ゴブリンは煙を嫌う。ただの煙では排気口から逃げるが、水蒸気を混ぜれば低い位置にたまり、巣の奥から広場へ追い出せる。
「広場で首領だけを倒し、残りは北の空洞へ逃がす。畑側の通路はリゼが塞ぐ」
「やれます」
「ティナは後方。俺とフィンは煙と帰還点の管理だ」
フィンが不安そうに地図を見た。
「僕、また入るんですね」
「嫌なら地上で煙の調整を頼む」
「いえ……行きます。一度目よりは、道を知ってるから」
その言葉が、俺にはうれしかった。
地図は敵を倒してくれない。
でも、未知を既知に変える。昨日は暗闇だった場所が、今日は選択肢のある道になる。
翌朝、俺たちは水樽、湿らせた藁、送風用の革袋を荷車へ積んだ。
農夫が眉をひそめる。
「討伐に行く荷物には見えんな」
「料理に行くわけでもない」
ティナがくすりと笑い、リゼも口元を緩める。
入口に帰還点を設置し、全員の救助札を確認した。
「撤退条件を復唱」
俺が言う。
リゼが答えた。
「煙が逆流した場合」
「フィンが続けられないと判断した場合」
「負傷者が二名出た場合」
ティナが最後に続ける。
「ユアンさんを含む誰か一人でも、帰還不能になる危険が出た場合」
俺自身も対象に入っている。
リゼが念を押すようにこちらを見る。
「了解。では、二度目の迷宮へ行こう」
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