第13話 暗闇が怖い斥候フィン
翌朝、倉庫の扉の下に一枚の地図が差し込まれていた。
《帰還灯》周辺の路地図だ。
井戸、治癒院、火災時に塞がりやすい細道。荷車が通れる幅まで、正確に書かれている。
「誰がこんなものを?」
裏返すと、小さな文字があった。
《昨日、治癒師の方が加入したと聞きました。負傷者を運ぶなら、この道が最短です》
その下に、フィン・クレイという署名。
冒険者名簿で調べると、十六歳の銅級斥候だった。所属歴三つ、いずれも一週間以内に脱退。備考欄には《暗所恐怖のため迷宮任務不適》とある。
俺たちは地図に記された住所を訪ねた。
フィンは、市場の片隅で案内図を売っていた。くせのある茶髪に、眠そうな灰色の目。俺たちを見ると、地図の束で顔を隠した。
「地図をくれたのは君か?」
「勝手なことをして、すみません」
「礼を言いに来た。それと、うちで働かないか」
地図の束が下がり、驚いた顔が現れた。
「名簿、見たんですよね。僕は地下へ入ると震えて動けなくなります」
「地上の仕事だけでも助かる」
「それでは斥候じゃありません」
フィンは悔しそうに唇を噛んだ。
「僕は罠も足跡も見つけられる。地図だって誰より正確に描ける。でも暗くなると、壁が近づいてくる気がして……みんなを遅らせるんです」
リゼが市場の人混みを示した。
「今、ここから出口を三つ挙げられますか?」
「北門、大通り、魚屋の裏の荷捌き路です。火事なら大通りは屋台で詰まるので、北門か荷捌き路」
「十分な能力です」
俺も続ける。
「恐怖を感じない斥候より、危険を早く感じる斥候の方が救助には向いている。怖くなった時点で教えてくれ。それを撤退の情報にする」
「怖いと言ったら、止まってくれるんですか?」
「理由を一緒に確認する。異常がなくても、無理はさせない」
フィンは長い間、俺たちを見ていた。
「一つ、条件があります」
「言ってくれ」
「最初は、入口が見えるところまでで」
「そこから始めよう」
フィンはその場で荷物をまとめた。
加入者二号。
これで四人。正式認可まで、あと一人になった。
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