第12話 治すのが遅い治癒師ティナ
少女はティナ・ベル、十七歳。
治癒院で三年学び、冒険者パーティーを二つ追い出されたという。
「軽傷を治すのに、普通の治癒師の三倍かかります」
面接用の椅子に座ったティナは、膝の上で杖を握りしめている。
「戦闘中に三倍は厳しいな」
「はい。ですから、前のパーティーでは役立たずと……」
「治療が遅い理由は?」
「傷の奥まで魔力を通して、切れた血管や神経を一本ずつつなぐからです。表面だけなら早く閉じられます。でも、中に傷を残すと後で動かなくなることがあって」
俺とリゼは顔を見合わせた。
救助現場で必要なのは、一瞬だけ立たせる治療ではない。搬送中に悪化させず、帰還後の生活まで守る治療だ。
「実際に見せてもらえますか」
リゼが古い手甲を外した。
左手首には、騎士時代のものらしい傷がある。指を握るたび、小指だけがわずかに遅れた。
「古傷なので、完全には……でも、診ます」
ティナは手首へ指を当て、目を閉じた。
柔らかな緑光が、糸のように皮膚へ沈む。派手な輝きはない。十分、二十分。俺たちは黙って待った。
三十分後、ティナが額の汗を拭う。
「昔、切れた腱を表面だけ治した跡があります。癒着を少しほどきました。今日はここまでです」
リゼが手を握る。
遅れていた小指が、他の指と同時に閉じた。
「痛くない……」
「一度に直すと腫れます。三日空けて、あと二回ほど」
ティナは申し訳なさそうに言う。
俺は採用書を机に置いた。
「君を《帰還灯》の治癒師として迎えたい」
「え?」
「救助中に必要なのは、走って戦線へ戻す魔法じゃない。安全に連れ帰り、その後も歩けるようにする治療だ。君の方が合ってる」
「でも、報酬は……」
「正直に言うと、今月は食事と寝床を保証するのが精いっぱいだ」
「ありますよ、寝床」
リゼが倉庫の奥を示した。
そこには藁袋が二つしかない。
「私の分を半分にします」
「半分にしたら寝床じゃなくて藁だろ」
ティナが、くすりと笑った。
「前のところでは、早く治せないなら食事代が無駄だと言われました。治し終わるまで待ってくださるなら、十分です」
彼女は採用書へ名前を書いた。
その日の夕方、正式な加入者一号を祝って、俺たちは固い黒パンを三等分した。
食べ終わるまで、ティナは何度も自分の名が書かれた採用書を眺めていた。
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