第11話 加入希望者はゼロ
《帰還灯》開業初日。
俺とリゼは、傾いた机を挟んで向かい合っていた。
「来ませんね」
「来ないな」
外はよく晴れている。
軒先の盾看板には、子どもたちが描いた青い灯が輝いていた。扉も開け放してある。朝から何人も足を止め、看板を読み、俺たちと目が合う前に立ち去った。
依頼の相談は三件あった。
加入希望者はゼロだ。
「昨日は、あれほど拍手されたんだけどな」
「助けてもらうのは歓迎でも、臆病者の一員になるのは嫌なのでしょう」
リゼは淡々としているが、書類をそろえる手が少し速い。
独立ギルドとして認可されるには、戦闘職、探索職、治癒職を一人ずつ含む五名以上の所属が必要だ。今は盾騎士のリゼと、資格停止中の俺だけ。
仮登録期間は三十日。それまでに条件を満たせなければ、看板を下ろさなければならない。
「戦闘なら私が担当できます。あなたを探索補助と数えるとして、治癒師と、あと二人です」
「一番人気の職ばかり残ったな」
治癒師は引く手あまただ。まともな者なら、設立したばかりの貧乏ギルドを選ばない。
昼を過ぎた頃、救出したハンスたちがやって来た。
「俺たちを入れてくれ!」
十一人全員が胸を張っている。
「実習に失敗した俺たちじゃ、普通のギルドには入れない。でも、ここなら役に立てる」
うれしい申し出だった。
だからこそ、俺は首を横に振った。
「今は駄目だ」
「どうして!」
「君たちは救助されたばかりだ。恩を返すために進路を決めるな。それに傷も治ってない」
ハンスが反論しかけ、リゼが口を開いた。
「一か月後、まだ入りたいと思っていたら試験を受けに来てください。その間に基礎訓練をやり直しましょう。無償で教えます」
「本当に?」
「ええ。ただし、撤退訓練からです」
子どもたちは顔を見合わせ、今度は笑ってうなずいた。
夕方、彼らが帰ったあとで、俺は収支帳を開いた。
「家賃、灯石代、訓練用の薬。銀貨二枚は今日で消えた」
「私の貯金が少しあります」
「それには手をつけない。食事代くらい俺が――」
言い終える前に、腹が鳴った。
リゼが無言で干し肉を半分差し出す。
「初任給の前払いです」
「雇われてるのは君の方だろ」
半分を受け取った時、扉の外に人影が立った。
白い外套を着た、小柄な少女だ。治癒師の杖を抱きしめ、何度も看板と手元の紙を見比べている。
「あの……こちらは、治すのが遅い治癒師でも募集していますか?」
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