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魔王の器  作者: 北崎世道
97/103

リオーツさん

「別にそうは言っても、大した事は知らんがな」半裸は鼻をほじりながら言った。「あれはブーザマが捕まった日の事だ。ブーザマが外部のジャントルとかそういう奴と組んで、アルカ・フェインっつう男と闘ってる間に、そいつの家族を拉致っちゃおうってなったんだ。それで、アルカ・フェインの家の周りを囲んでたら、突然、黒いコートを着た奴が現れて、俺らをボコしたんだわ。いやぁ正直、アレは闘いにすらならなかったな。いや、こっちは戦闘員二十人くらい用意してたんだ。にも関わらず、手も足も出なかった。たった一人相手に悔しいという気持ちにすらならなかった。むしろ生き残って幸運だったとさえ思うな。中にはボコされ過ぎて、未だに動けないって奴もいる。俺は比較的楽に気絶した方だから、そこまで引き摺ってないがな。黒コートは俺らをボコす前に…………えっと、なんつったかな。あ、そうそう、二度とこの家には近付くなって言った。この家と、その本人もだ。じゃないと今度はマジで殺すって言ったな。アレは俺らがよく使うぶっ殺す、って意味じゃなくて、ガチで命を奪う意味で使ってたね。間違いない。そういう訳で、俺はもう二度とアルカ・フェインには関わらないって心に決めたんだ。本人にも。家族にも。それぐらいだな。俺が知ってる事は。だからまぁ、なんだ。そういう訳だから、忠告しとくぜ。これは本心からの忠告だ。その黒コートが言ったアルカ・フェインって奴には絶対関わらない方がいい。下手に関わると、マジで殺される。別にアルカ・フェインっつう男がどんな奴かは知らんが、そいつの後ろにはとんでもない化け物がいるのは間違いない。だから、お前…………えっと、そう。アルカ・フェインって言ったな。アルカ・フェインはアルカ・フェインに関わるな。これは俺なりの優しさだぜ。分かったな?」


「成程」と僕は言った。


 半裸は言い終えた後に、「ん? あれ?」と首を傾げた。眉間の皺は寄ったまま下から徐々に上がって、八の字眉毛になったところで、


「も、もしかして、お前がそのアルカ・フェインって奴か……?」


「うん。そうみたいだね。ブーザマが逮捕された時に闘ってたというなら間違いないよ。つまりお前は僕の家族に手を出そうとしてたんだね。ふふふ」


 僕は微笑みながら、半裸の男の頭を掴んだ。そのまま頭蓋骨を握り潰して、脳みそを掻き出してやろうとしたところで、


「今更そやつをいじめても仕方あるまい。終わった話じゃぞ」というアウルアラが止めるように言った。その言葉で、僕は我に返った。


「……そうだな。今更、お前を殺しても何の意味もないか。その黒コートの男が言った通り、二度と僕の家族に近付くなよ? 分かった? お前だけじゃなくて、お前に仲間にも徹底しておけよ? いいな? もしもこの約束を破った場合は…………覚悟しとけよ?」


「わ、分かりました……」


 半裸の男は失禁しながら答えた。


 この調子なら、家族に手を出される心配はないだろうと、僕はほっと息を吐く。


 しかしなんだ。ここに来て、予想外の展開になってきた。


 黒コートの男は、僕の家族を護ってくれた。


 哀れな半裸男の言葉を聞けば、そういう事になる。


「うーむ」僕は唸り、考えた。


 家族が狙われていた事は初耳だ。ただまぁ、実際に被害に遭った訳でもない。起きる前に未然に防がれたという訳だから、家族がそれについて知らないのも当然と言えば当然。もしも何かしら被害があったなら、少なからず僕の耳に届いていた事だろう。それが全くなかったという事は、マジで何の被害もなかったという事だ。嘘ではないだろう。


 それじゃ、どういう事だ?


 黒コートの男は僕の事を知っている?


 いや、事件はブーザマが捕まった日に起きたと言っていたな。という事は、ブーザマが殺される前? もしくは後に、僕の家族襲撃が起きそうになったという事か。


 全部あの日に起きたという訳か。


「…………マジか」


 あの日の事なんてもう全然覚えてないぞ。アリバイとかも確認しようがないし。


「状況は判った。それじゃ他に、黒コートの男について覚えてる事はない?」


「ん?」と半裸は首を傾げた。


「どうした? いきなり記憶喪失にでもなった?」


「いや、別になんでもない。気にすんな」


 首を横に振る半裸。まぁいいかと僕は流す。


「とりあえず、今回の話で驚くべき情報が聞けたのう」


 そう。


 黒コートの男が僕の知り合いである可能性。


 ブーザマが逮捕されたのは、僕とひと悶着あった日だ。もしかすると犯人は、ブーザマが逮捕されたタイミングを狙ったのではなく、僕とひと悶あった時を狙ったのだろうか。


 僕がきっかけだったのか。僕に関係するのか。


 そういう可能性が生まれてきた訳だ。


「……………………」


「どうするんじゃ?」とアウルアラが尋ねてきた。


 僕は少し悩み、「帰る」と言った。


 残念ながらブーザマに恨みのある人からはあまり有力な情報を得られなかったが、その代わり別の方向から有力な情報が得られた。


 半裸が言った黒コートの男がはたして僕の探している犯人と同一人物かはまだはっきり決まった訳ではないが、それでもなんとなく同一人物な気はしている。僕の勘がそういっている。


 僕の勘が正しいかはさておき、今日はもう遅くなったので帰る事にしよう。


「他に何か言い残した事はない?」


 まるで今から殺す相手に向けて言ってるかのような台詞だが、連中は特に怯える事もなく、普通に考えてから、


「ない」「おそらく」


 と返答した。


「分かった。もしかしたらまた何か情報を求めに来るかもしれないから、よかったら何かしら調べといてね」


「ああ、勿論だ」


 連中のうちの一人が力強く返答するのを聞いて、僕は部屋を出た。


 薄い扉を開いた先には、冷たい空気が待ち構えていた。


 薄暗い通路から、外へと続く階段。それを降りると、暗い夜空が街を覆っていた。


 僕は空を飛ぶ。


 しんしんと冷える空気で頭が冷えると、少し気になった事が思い浮かんでくる。


 もしも僕が、嫌いな奴から何かを尋ねられた時、僕はきちんと何もかも洗いざらい答えるだろうか、と。


 …………考え過ぎだ、と僕は首を横に振る。


 仮に僕の事がむかついても、今回の場合、利害が一致している。僕は彼らが慕っていたブーザマを殺害した犯人を探している。死後に呼び捨てをしなかったくらい慕っていたブーザマのだ。


 だから嘘を吐いたり、情報を隠したりする理由なんてない。ない筈だ。


 きっと僕が追及せずとも、何もかも全て洗いざらい正直に話すだろう。


 だから何か聞き逃しがあったかも、なんてのは、僕の考え過ぎである。


 

 ◆



 帰宅すると案の定、母からまたしても叱られた。「遅かったわね。心配したのよ」「ごめんなさい」と素直に謝罪。しかし母の怒りは収まらない。飯を食いながら小言を聞く羽目に。とはいえ、これは予想の範囲内。飯を片付けられないでよかったと母に感謝する。


「それで、明日も出掛けるの?」


「うん」もぐもぐしながら僕は答える。「とりあえず明日はナルテに行こうかなって思ってる」


「ナルテ…………って、あのナルテ? 港街の?」


「うん」


 僕の首肯に母は驚愕し、その後、ため息を吐く。


「あのね? 馬車に乗るのにお金が掛かるのよ? それに予め予約を入れないといけないんだから」


「え? なんで?」


「なんでって、そりゃ当たり前でしょ。馬車ってそういうものなんだから」


「ああいや、そういう意味じゃなくて」僕は顔の前で掌を振って否定する。「そうじゃなくて、なんで馬車に乗る必要があるのかって。だって、馬車だと時間掛かるじゃん? 空を飛んでった方が圧倒的に早いし」


「…………そうだったわね。あんたは空、飛べるんだったわね」母は呆れた様子で言った。「でも、大丈夫なの? ナルテは遠いわよ? 空を飛んでも相当時間掛かるわよ?」


「そうだね。今ならたぶん二時間弱くらいだと思う。目標は一時間切りだけど、いけるかなぁ」


「……………………」


 母が絶句した。どうやら僕の実力を見誤っていたらしい。 


 僕がふふんと自慢げに鼻を鳴らすと、隣に居た父が苦笑しながら、「アルカはすごいなぁ」と褒めてくれた。うぇっへっへっへっ。照れるぜ。


「すごいどころの騒ぎじゃないわよ……。だとしても、ナルテはここよりも治安が悪くて危険だから、あんまり行かない方が……」 


「大丈夫大丈夫。奴隷屋も潰したし。タトゥーっていう人攫いも捕まえたから、以前よりは安全だよ。仮に捕まったとしても、檻をぶっ壊して、力尽くで脱出すれば問題ないから。前回もそれで解決したし。それにいざとなれば、あそこの偉い人、えっとハーバー氏に話を通せば、たぶんどうにかなるよ。だから平気」


「…………何か今、聞き逃せない単語がいくつかあった気がするんだけど。どういう事か説明してくれる?」


「あれ? 説明しなかったっけ?」


 とぼけつつ、トマトを齧りつつ、僕は前にナイルの見送りに行った時の事を話す。


 話しながら、あの時の事が随分遠い昔に感じてしまう。


 おそらく僕が五歳で一日が長く感じるせいだろう。子供時代の時間の感じ方は大人よりも長い。ジャネーノ法則だっけか。なるほど。子供時代は毎日がSUNDAYみたいなものだから当然じゃねーの。ごめんなさい。あ、トマト。


 おおよそ話し終えたところで(当然ながら、その次のゲルル街については語ってない。あの時の事はかなりヤバいし、なんなら僕も一度死んだくらいだ)、母が頭を抱えた。父は言葉を失ってるようだった。何かを言おうとしているのは判るが、言うべき言葉が見当たらない。泣きそうだった。


 僕は、あはは、と笑って誤魔化し、そのまま部屋に向かった。風呂は……今日は諦めよう。この世界では毎日入浴せずとも問題ない。あれはライフラインが整った世界での常識であり、決して僕が風呂キャンセル勢という訳ではない。


 逃げるように(実際逃げてる)自室に戻ってると、母が憤怒の形相をしながら追いかけてきた。「ひぃいっ」と僕は悲鳴を上げ、部屋に入り、鍵を掛けようとした。が、閉める前に足で阻まれた。「アァァァルゥカァァァァァァァァァァァァアッッッ────────!」「ヒェェエッ!」


 以下略。




 ◆



 そして次の日。


 僕は特に何事もなく朝の支度を済ませて、家を出た。


 まず向かうのは、昨晩両親にも宣告した通りの港町ナルテ。そこで憲兵か(眉毛の繋がった)もしくはお偉いさんであるハーバー氏を頼って、ジャントルの家族だか親戚だかに話を聞くつもりだ。それにどれくらい時間が掛かるか分からないから、その後の事は未定。そもそも人海戦術も使えない単独での調査だから、情報を得たその都度、行先を決めていく必要がある。ミステリーのアドベンチャーゲームみたいだ。あるいは脱出ゲームみたいな。


 いつもの通り、空を飛んで移動する。


 今回は街の外。別の街に行くので、いつもよりも時間が掛かる。といっても、数分が一、二時間くらいになっただけ。徒歩でコンビニだったのから、地下鉄で都市圏になったようなもの。


 けれども、退屈にはなる。


 そのせいか、空を飛んでる最中、不意に自分でもよく分からない不安に襲われてしまった。


 これまで散々空を飛んできたにも関わらず、どうにも自分が空を飛んでる感覚が分からなくなってしまったのだ。今まで普通に出来てた事が、急にそれが出来なくなってしまう感じ。これは自分でもよく分からない。前世でも偶にあった。


 一応、出来ない感覚を保ちつつも、空を飛び続けているので、本当に出来なくなった訳ではない。これまで感覚的にやってきた事を、理性で補い、やっている。経験上、これを暫く続けていたら、そのうち感覚を取り戻すだろう。たぶん。だから大丈夫。


 とはいえ、超スピードで空を飛んでる最中にそんな感覚に襲われると、どうにも困る。マジで怖い。


 一応、魔力で防御力が上がってるから、仮に墜落しても死にはしないだろうけど。それでも生物である以上、本能的な恐怖には抗えない。ふぇぇ。怖いよぅ。


 アウルアラに助けてもらおうかと思ったら、彼女は僕が怖がる姿に発情していた。「このまま興奮しときたいから無理じゃ。自分でなんとかせよ」との事。マジでこのクソビッチが。


「でも童みたいな美女に発情されるのはそう悪い気はしないじゃろう?」


 それはその通りだが、アウルアラが相手だとどうにも腹立たしさが混じる。素直に喜べない。


 ともあれそんな感じで、頭上にてアウルアラが股間を弄る中、僕は空を飛び続け、やがて普段の感覚も取り戻し、普通の状態に戻る。


 結局、何事もなく目的地である港町ナルテに到着する。


「…………何だったんだ、今の時間は」


 時間にして二時間弱。予想通りの時間だが、目標通りにはいかなかった。しかしそれでも速くはなっている。魔法の実力はそれなりに上がっているのだ。


「それじゃ早速、警察のとこにでも向かおうかな」


 まずは偉そうな家を片っ端から訪問する、みたいな作戦だったが、アレはなしだ。実際に街に来ると、躊躇してしまう広さだったからだ。それに見知らぬ家に何回も突撃するのは、精神的にキツイ。こういうのを日常的にやらされてる営業職の人は本当に凄いっていうかヤバい。人として保つべき感覚をぶち壊さないとやってられないでしょ。こんなの。


 という訳で、突撃が一回で済む警察のもとへ向かう。


「警察ではなく憲兵では?」とアウルアラが突っ込む。確かにその通りだが、この街に限っては警察と呼んだ方がしっくりくるのだ。何故ならここに勤めている男の眉毛がマックシンボルみたいな形状でしっかりと繋がってるからだ。率直に言えば、こ○亀の両さん。


 という訳で警察の両さんもとい憲兵のリオーツさんのところへ向かう。


 交番もとい憲兵所。


「こんちわー。ちょっとお伺いしたい事があるんですがー」


 僕が尋ねると、見覚えのあるM字眉毛のおじさんが手を止め、煩わしそうな顔でこちらを睨む。


「あぁん。なんだ? 今、俺は忙しいから、余所に行ってくれ」


 そう言って、リオーツさんは内職に戻る。


 内職というかフィギュア作りだ。土魔法で予め土台を作ってから、やすりで細かく削り、人形を作っている。作り始めたばっかりなのか、今はまだ大まかな部分しかできてない。


 まるで両さんみたいな行動だ。とはいえ異世界要素がある為、まんま両さんとは言い難い。それでも有名な異世界ものでもフィギュア作りはやってたし、おそらく僕が知らない異世界クラフト系でもやってるだろうから、それほど目新しい発想ではない。この世界では新しいというだけで。


 とりあえず僕も真似してやってみる。


 すると予想通り、リオーツさんは食いついた。魔法の技量はそれなりに自信があるから、現在リオーツさんが作ってるくらいの物は簡単にできる。目の前に見本があるから猶更だ。


「…………ぉおおっ! やるじゃねぇかお前! 今のはどうやったんだ?」


「別に、土魔法でぐぃーんとやっただけだよ。正直、おじさんの作ってるのを見本にしたから、ゼロから始めたら、たぶんできない。具体的なイメージがないと難しいと思う」


「そうか。それならちょっと待て」


 そう言ってリオーツさんは急いで憲兵所の奥へと駆け出し、すぐに戻って来る。


 彼の手には、完成形のフィギュアが三体、ショーケースに入った状態で並んでいた。


「こいつらを作ってみてくれないか?」


「こっちの質問に答えてくれたらやってみてもいいよ」


「いいだろう。ちなみにどんな質問だ?」


「この街に、ジャントルっておっさんの実家があるって聞いたから、それを尋ねに来たんだ」


「ジャントル? 家名は?」


「…………分かんない」


「だったら調べようがないぞ。せめて…………いや待て。もしかしてジャントルってあのジャントルか?」


「あの、がどれを指してるかは分かんないけど、たぶん合ってそうな気はする。犯罪者で、結構有名っぽかったから」


「なら間違いなさそうだな。それなら調べなくとも知っとるぞ。教えてやるから、まずはこいつらを作ってみてくれ」


 僕は言われた通り、リオーツさんの出したフィギュアを作ってみる。


 ショーケースのガラス部分を外し、いろんな角度からフィギュアを確認してから、作り始める。


 少しずつ魔法で生成してから、すぐにフィギュアを確認。それからまた魔法で生成。基本はその繰り返しだ。


 それから十分ほどで完成した。


 これは見本があるからできる芸当で、本来だったらこんなに早くはできない。それに元の世界ほど造形レベルが高くない為、そこまで細かなこだわりを付けることもない。宗教に関わる物であれば格段にレベルは上がるが、それ以外の趣味、娯楽用品だとまだ子供の玩具レベル。それも昭和の。


 しかしながら、これをゼロから独りで創り上げたリオーツさんには感服する。


 僕は元の世界の知識があるから、これより上のレベルを認識して作れるのだが、リオーツさんの場合は違う。本当にゼロからのスタートだ。勿論、手掘りの仏像やらなんやらでヒントはあっただろうが、それでもそれをこういう趣味、娯楽に繋げる発想力は見事というほかない。


 しかし…………、


「な…………っ!」


 リオーツさんが僕の完成品を見て、声を上げる。


「これは…………見えそうで見えない…………なんというギリギリの境界線だ! 貴様、天才か?」


 褒められた。むしろ、こっちがよくぞ一目で見抜いた、と褒め称えたい気分だ。


 この世界にはまだチラリズムという概念は存在しない。いや、存在してるかもしれないが、フィギュアに応用させる発想はまだない。


 更に言うと、今回のチラリズムは女の子のスカートというベタなものではなく、青年のシャツから覗くおへそというマニアックな代物だ。そもそもフィギュアに性的要素はまだ組み込まれていない。リオーツさんが用意したフィギュアに美少女はなかった。男と男と魔物だ。


 もしもこの世界にロボットアニメがあったら、おそらくここにはロボットフィギュアが並んでいただろう。まだまだそういう段階。ガッシャンガッシャン、ロボットガッシャン、グゴゴゴゴゴ、うぉー、ロケットミサイル発射ァーっ! くらいのレベルなのだ。


 故に、まだ美少女フィギュアは生まれていない。女の子の人形=女児向け着せ替え人形の段階だ。


 それなのに、リオーツさんは僕がちょいと服の皺をアレンジした事によって生み出されたチラリズムを看破したのだ。流石である。


 これならば、フィギュアにエロスを組み込む事は有効だと気付くだろう。リオーツさんならば。変態ジャパンへの道は彼が切り開くに違いない。


 僕はフィギュアの新たな世界が生み出される瞬間をこの目で見ながら、リオーツさんに本来の目的である質問をする。


「それより、ジャントルの実家について訊きたいんですけど、いいですか?」


「え? あ、うん」


 リオーツさんが素に戻って、説明する。


「お前さんが言うジャントルは、おそらくジャントル・グランスの事だ。名家グランス家の跡取り息子で、当時は神童と呼ばれてたらしい。だが、その時の当主が病死したのきっかけに家を出た。そしてそのまま犯罪者の道へと堕ちた。ただ幸いつうか、実力はヤバいくらいあったから、誰かに殺されるっつう事はなかった。実際、かのフュリーラ大戦でも生き残ってた訳だしな」


「フュリーラ大戦?」


「昔、あったとんでもない魔王討伐戦の事だ。計十万以上の人間が死んだとされてる。史上最悪の戦争の一つだな」


「…………魔王?」


 僕は、チラリとアウルアラの方を見た。彼女は「へぇぇ」とめっちゃ他人事のように聞いていた。


 関心は動いてたようだが、感情は動いてなさそうだ。同じ魔王でも、交流などはなかったみたいだ。


「いや、あるにはあったぞ?」 


 と思ったら、否定された。あるにはあったらしい。


「じゃけど、別にどうでもいいかなって。お主が元いた世界で例えるなら、学校のクラスメートの死を知らされた感じじゃな」


 ……こいつ、僕に友達がいない前提で話してやがる。


 前世の僕についてはノーコメント。特に秘密にするような過去はないけど、語るつもりもない。


「とりあえず、俺が知ってるのはそれくらいだな」リオーツさんが立ち上がった。「そんで、お前さんにとって重要なのは、そのグランス家の事だよな。ほら」


 憲兵所を出て、外の浜辺からやや右方向を指さす。


「大体、あっちだな。この方向でまっすぐ行くと、デカくて茶色い屋根の館が見える。そこがお前さんが探してるグランス家の館だ。今の当主はゼンボル・グランスという男で、ジャントルとは従弟の関係になるな」


「ふぅん」


 僕はリオーツさんが指さす方を見ながら頷き、それから礼を言う。


「教えてくれてありがとう。助かったよ」


「おう。こっちも面白いもんが見れて良かったよ。こいつはお前さんに返すよ」


 そう言ってリオーツさんは僕が作ったフィギュアを返却する。


「え? いいの? 普通にあげるつもりだったのに」


「別にいいさ。作る工程が見られただけで満足だ。それに、これをお前さんに渡しといた方が、後にお前さんがフィギュア作りを始めるきっかけとなりそうだし。たぶんそっちの方が俺にとっては有益だ」


「じゃ遠慮なく貰うね」


 僕は自分が作ったフィギュアを受け取り、収納魔法に放り込む。


「それじゃ失礼します」


 最後だけ、僕は丁寧語を使い、この場を飛び去る。


 リオーツさんは僕の収納魔法と飛行魔法に目を丸くしつつも、笑顔でこちらが飛び立つのを見送ってくれた。



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