やれやれ
彼の語った内容は正直ムッサイの語った内容と大差なかった。
黒コートの男はとんでもない。めっちゃ強そう。底知れない。ヤバい。
そういう感想ばかりで、目新しい情報もなく、むしろ途中で逃げた分、ムッサイの話よりも中途半端で、これなら聞かなくてもよかったと思えた。これがなにかしらの物語なら完全カットされてある事だろう。ムッサイの話をもう一度聞かされた方がマシだった。エロ同人みたいな事したいからと催眠アプリを探してた方がまだ有意義だった。
「教えてくれって言われたから教えたのに、つまらないみたいな評価を下されるのは腹立つな」
ごもっともすぎるウェールイの意見。
「だって……」
僕が唇を尖らせつつ言い訳を考えてると、ウェールイが拳を振り上げてきた。が、「チッ」と舌打ちをしつつそのまま静かに降ろした。大人な対応…………というより、僕にビビってる感じの反応だ。
確かに僕はウェールイよりも強い自覚がある。ウェールイがビビっても仕方ないとは思う。一瞬でも暴力を繰り出そうとしたのは、ここが彼のフィールドで、苛立ちの解消法が暴力ってのが通用していたからだろう。
別に殴られても、今回に関しては僕の方が悪いから、殴り返さなかったのに。
きちんと己の非を認めるタイプ。アルカ・フェインです。どうぞよろしく。
「あいだっ?」
なんて思ってたら、無言のまま殴られた。かなり痛い。目玉が飛び出るかと思った。
「人には負けると分かってても殴らないといけない時がある。今がその時だと感じた」とウェールイ。
一理ある。
どんな時でも暴力は許されないというのは誤りだ。暴力が許される時は間違いなく存在する。これは暴力を容認しろという主張ではなく、間違ってる奴がこれは暴力だ、と主張するのを否定しているだけだ。間違ってる奴は殴っていい。問題はその間違ってる奴の定義が人それぞれ違う事。立場が違えば、正しさも誤りも違うからだろう。それを利用して、調子こく、人として間違ってる奴が世の中にたくさんいる。そして、そういう奴等を暴力以外で叩こうとしている奴。そいつも大抵間違いだ。己こそが正義だと頑なに過ちを認めない。思想が強い。思想が強いのは何かしらを拗らせてるからきっと間違いだ。
…………なんだかすごいブーメランを投げてる気がするが、きっと気のせいだろう。僕は決して間違ってない!
「しっかし、かなり本気で殴ったのにお前ピンピンしてるな。さっきの奴だったら間違いなく昏倒してるぜ」
震えた声でウェールイが呟く。どうりで痛い訳だ。僕、半泣き。てか、なんで殴ったウェールイまで半泣きなのか。それが分からない。
見ると、ウェールイの指があらぬ方向に曲がっていた。骨折するまで本気で殴る奴があるか。
「ったく……」僕はため息を吐きながら、ウェールイの折れた手を治療する。
すると僕の回復魔法にウェールイが驚きの眼差しを向ける。
「…………っ」
「なにさ?」
「…………お前、マジでやってないよな? 骨折を一瞬で治す奴とかそうそういないぞ? つうか俺だって、自分の手が折れるとは思わなかったんだ。お前の頭、硬過ぎんだろ」
石頭なつもりはなかったが、そうなのだろうか。
「石頭というより、大概のスペックが規格外過ぎるからじゃろ」
アウルアラが補足をつける。それは…………そうかもしれない。
元々、転生特典が魔力の器がどうとかだった気がするが、今や単なる魔力チートだ。
しかしそんな魔力チートな僕でもアウルアラには敵わないし、きっと今回の事件の犯人である黒コートの男にも敵わない。
黒コートの男はワープを使う。これは今の僕にはできない事だ。できないのは、魔法を知らない、使い方が分からない、ってのが理由に挙がるが、おそらくそれだけではない。根本的に今の技量じゃ使えないからだ。
ここに来る前に、孤児院でアウルアラが壁抜けの魔法を使った。ワープとは違うが、それでも今の僕には技量的に難しいと感じられた。ならば壁抜けよりもレベルが高いワープだとどうなるか。そりゃ間違いなく使えないだろう。
だから、ワープを使った黒コートの男には敵わないと思う。そいつがどれくらい魔力を持ってるかは、実際に会った訳じゃないから知らないが、それでも敵わないと感じさせる。それくらい壁抜けの魔法は難しそうだった。
「うむ。話を聞いただけで、相手の実力を推測できるのは賢いな」とアウルアラが言う。彼女も僕と同意見らしい。
「じゃが、お主はまだ自分の実力を見誤っておる。お主は自分で思うほど弱くはない。壁抜けだって、慣れればすぐにできるようになるじゃろう」
…………これはフォローだろうか。それとも漫画の主人公的な、潜在能力スゲーのフラグか。どちらにせよ、現時点で黒コートに敵わないのは確定だ。このまま事件を捜査して、仮に見つけてもどうしようもないんじゃなかろうか。正体だけ伝えればそれでいいのだろうか。
「今のところ、お前はどう見てる?」
不意にウェールイが尋ねてきた。どういう意味だろう。
「犯人は一体何者なのか。見当はついてるか?」
「まさか。全然。判るのは僕より強い事くらい。それ以外はサッパリ」
「やっぱお前より強いのか?」
ウェールイが半信半疑といった様子で聞いてくる。彼のレベルじゃ、僕と黒コートの男の力量差も判断がつかないみたい。
「ワープが使えないからね。僕はまだそれより低レベルな壁抜けすらできないし」
「ワープと壁抜けは全然違う魔法じゃがな」またしてもアウルアラが補足を入れる。使える人にとってはそうなのだろう。
ウェールイは眉をひそめつつ、
「別に、使える魔法がそのまま強さに繋がるもんでもないだろ?」
「それはそうだけど……」と僕は言う。「だけどある程度、能力差は判るよ」
「…………そうか」とウェールイ。門外漢だから、深くはツッコめないようだ。実は僕もはっきりとは分かってないが、アウルアラが肯定したから、そういうもんだと納得してるだけだ。
そう考えてると、小さな声でアウルアラが、「ヤバ。適当言っただけじゃのに」と呟いた。
ちょ。おま。
「そういえば、ジャントルの爺さんはあいつの正体知ってそうだったな」とウェールイが言った。
「そういや、そんな感じだったらしいね」と僕も頷く。
「ジャントルの爺さんはどうして、あいつに自分の殺害を懇願したんだろう。別に自殺願望があるとは思ってなかったんだが」
「やっぱウェールイにも分からない?」
「ああ。見当もつかないな」
「話を聞いた感じじゃ、黒コートの男はブーザマを狙ってたっぽいよね。だけど、ジャントルの方が黒コートの正体を知ってた訳か…………変な感じ」
「そうだな」とウェールイ。「何か関係があるのか……」
「一応ブーザマの方は、あいつの部下に恨みがありそうな人を調べてもらってるけど、ジャントルの方はさっぱり。誰か知り合いに心当たりはない?」
「…………ない事はない」とウェールイが天井を見ながら答える。「あの人の家族、というか親戚だな。昔、一緒に暮らしてた時期もあったそうだが、家を出てからは全く会ってないそうだ。だからあまり期待はできなさそうだな」
「…………一応、その人の名前と住所を教えてもらえる?」
「すまんが、あまり俺も詳しくは知らない。たしかナルテって街に住んでるくらい。あと、元は貴族かなんかだったってくらいだ」
「へぇ、偉い身分だったんだ」
なのにどうして犯罪者になり下がったのか。それもブーザマに雇われるようなしょうもない犯罪者に。
そこら辺もその親戚の人に訊けるだろうか。えっと、ナルテって街だっけか。それって、前にナイルを見送りに行った時の街じゃないか。
港町ナルテ。
とりあえず明日、行ってみようかと思いつつ僕は立ち上がる。
「お? もういいのか?」
「他に話せる事があったら話してほしいけど」
「…………ないな」
「なら、そろそろ行くよ」
「飯はいいのか? 奢るぜ?」
そういえばまだ晩御飯を食べてなかった事に気付くが、おそらく晩飯を用意していただろう母の制止を振り切り家を出た事もあってか、そういう気分になれなかった。
「いや、いい。気持ちだけ受け取っておく」
「そうか。なら気を付けて行けよ。もし何か訊きたい事があったら遠慮なく来てくれ。俺は大体この店に居るから。仮に居なくてもマスターに伝言残してくれればすぐに伝わるから」
「分かった。話、ありがとう」
僕は礼を言って、店を出ようとする。
「お? なんだなんだ? 話が終わったかと思ったら、もう出て行くのか? もう少しゆっくりしていけよ」
すると、先程、ウェールイに絡んできた輩が声を掛けてきた。
「えっと……」
「どうやら色々と用事があるらしい」と言い淀む僕の代わりに、ウェールイがフォローを入れる。
「そうか。それは残念だな」絡んできた輩と別の奴が言った。
変に引き留める感じでもない。素直に早く帰るのが残念だと思ってる態度だ。
「…………」
どうやらこの辺りは治安こそ悪いが、雰囲気まではそんなに悪くないらしい。
ここはクソみたいな店名だけど、ウェールイがここに入り浸る気持ちがちょっと解る。
退店する際、店の主人からも「あら、結局なにも食べないの?」と言われた。僕は軽く会釈だけしてそのまま外に出た。
最後に、「またいつでもおいでね。サービスしてあげるから」と優しい声が聞こえてきた。
胸が少しだけ温かくなった。
不意に見上げた夜空は少し曇り始めていた。
◆
ウェールイから話を聞いた後は、ガリオス組の事務所に向かう事にした。これが今日最後の場所だ。ここで話を聞いたら、家に帰ろうと心に決めた。
空を飛んで移動。
夜の暗い街並みだと、ガリオス組の事務所は判り辛い。さっきのところは夜の方が明るくて判りやすかったけど、今回の目的地はそういうところではない。夜は普通に暗いところ。ていうか朝も昼も暗い感じのところだ。
やくざが事務所を構えるような場所なんだから、先程の酒場とは異なる治安の悪さがある。
さっきのが、明るく仲良く喧嘩してやるぜ、みたいな場所なら、今度の場所は、こっそり裏から刺し殺す、みたいな場所。悪の種類が根本的に違う。
一線を越えた悪が栄える場所だ。
とは言っても特に怯える必要はない。一線を越えた悪といっても、人の道を踏み外しただけの、実力的には大した事の無い奴ばかりだ。そもそも能力があれば、わざわざ人の道を踏み外したりはしない。仮に外したとしても、そういうのはやくざなんて職を選ばずに、もっとまともな道を選ぶ。特に、この世界にはダンジョンがあるし、冒険者という手もある。だから大丈夫。一応、僕だって腕にはそれなりに覚えがあるから問題なし。襲われたって平気。
悪が強いのは物語だけ。それも話を盛り上げる必要があるから強くさせてるだけで、悪は憧れを抱くものではない。そういうのは幻想だ。
そういう訳で、なんかいきなり黒コートの男が現れた。
「………………………………………………………………っ?」
絶句。驚愕。混乱。恐怖。様々な感情が心臓を突き刺し、頭の中を走馬灯のように駆け巡る。
まさか、と思うが、一瞬で別人だと悟った。というのも、男から放たれてる魔力が大した事ないからだ。偶々、恰好が同じなだけの人だ。
黒コートの男(偽)はそのまま通り過ぎて行った。
「……………………まさか」とアウルアラが戦慄の眼差しを男に向けながら呟く。
「まさか本物か?」
「いや。偽物。そもそもあれは女じゃ。ただ、コートの下は裸で、性器に大人用の玩具が装着されておった」
「…………」
「どうしようもない変態行為じゃ。にも拘わらずあの女には男の臭いがせぬ。男から強要されて行ったのではない。自発的に行った変態女じゃ……まさか処女であの域に達する女が実在するとはな…………この世もまだまだ捨てたものではないのぅ……」
「…………さいですか」
僕は何事もなかったかのように先へ進んだ。
◆
目的地に到着した。
剥き出しのコンクリ壁に囲まれた背の低いビル。空気が乾いて砂っぽい。一応、明かりは点いてる筈なのに、何故か妙に暗く感じるのは気のせいだろうか。雰囲気だけで人を追い払う効果がありそうだ。
別の店と別の店の間にある狭い入り口を潜り、狭くて急こう配の階段を上がる。一段一段が高めの階段の先に、目的の事務所がある。勿論、ここがガリオス組の本拠地という訳ではない。あくまで末端が構える事務所。人の道を踏み外した人間未満が寄り添い合い、更なる弱者を探し、痛めつける為の地獄への入り口。
構図だけなら、死神小学生と角アリ女子高生、それから眠りの名探偵が住んでそうな建物にも見える。あっちの方がよっぽど地獄に近い気もするが。
薄い扉を開いて、声を掛ける。
「どうも。こんばんは。進捗どうですか?」
「色々な人に刺さりそうな訊ね方をするでない!」アウルアラから謎のツッコミが入った。「進捗を訪ねる時はもう少しオブラートに包め!」
一体、誰の気持ちを代弁してるのだろう。無視して、室内を見る。
ヤニ香る室内。前はガラステーブルが中央にあり、それをソファーが挟んでいた。黒くて高そうなものと、黄ばんで安そうなもの。黒いソファーが上座でその奥にワーキングデスクがあり、机の上にいくつかの書類が置かれていた。壁際には奥行きの深い棚が複数並んでおり、そこにはびっしり書類が並んでいた。
それらが今は全て壁際にどかされており、元々壁際にあった棚は中身が床に放り出されていた。
僕はこちらに注目する七人のチンピラ達を見る。
ガリオス組に所属するチンピラ達。そこまで広くもない事務所内によくもまぁむさ苦しい男達が詰め込まれてるなぁ、と変に感心しそうになる。
七人のうち六人が必死に書類と格闘しているのが判る。が、一人だけ様子が違う奴がいる。
僕が声を掛けた後、その一人が威圧しながら近づいてきた。
「おう。こいつがアルカ・フェインっつうガキか。話に聞いた通り、随分と偉そうなクソガキだな。おう、見てろよお前ら。今からこいつを痛い目に遭わせてやるから」
「…………」
記憶にない顔のチンピラだ。僕に怯えてないという事は、前に来た時はいなかったのだろう。
「よう坊主。アルカ・フェインっつうんだっけか? 俺らをあんまり舐めてんじゃねぇぞ。そんな舐め腐った態度をしてたら、怖いお兄さんが坊主に痛い目を見せてや」
ボコスカボコスカ。
「…………ずいまぜんでじだ……」
僕に痛い目を見せてやると豪語した自称怖いお兄さんは服ビリによる半裸土下座で泣きながら床を舐めていた。やっぱりヘイトが溜まる前にやっちゃうと、爽快感よりも滑稽さが目立つ。服ビリによってはみ出た汚い片乳首が腹立たしい。
ちなみに他の六人は、やれやれ言わんこっちゃないといった顔をしている。仕草が一昔前(ふた昔)のやれやれ系主人公で、ラノベ界なら異世界ものである僕よりも先輩である。
嫌な先輩。
「それで、なにか怪しい人は見つかった?」
僕はあまりに見苦しい片乳首半裸土下座の人を気絶させて、訊ねる。すると、一人がピンと挙手して、
「はい、アルカさん。ブーザマさんに被害を被った人は無数にいましたが、その中で死人が出た事件を探してみたところ、全部で四件見つかりました」
「ふむ」
思ったよりも少ない。あの人でなしならもう少し数が多くてもおかしくない気はするけど。いくら人でなしでも死人は極力出ないよう注意をしていたのだろうか。
「とりあえず死人が出たのに的を絞るのはいい考えだと思うよ。犯人はブーザマを殺している。ならば犯人側も死者が出ている可能性は充分あり得ると思うし。すごいね。頑張ったね」
思ったよりも優秀な調査に、僕は素直な称賛の言葉を掛ける。
意外と有能な人達だった。
ただ、あまり他人を誉め慣れてないせいか、称賛の仕方が、我ながら幼稚だと思った。語彙が小学生レベル。僕の方が低能だったか……。
それでも報告した男は嬉しそうに小さく頷き、
「そのうち三件は関係者全員、魔法の実力者らしき人はいませんでした」
「なら最後の一件はどうなの?」
「はい。…………最後の一件、被害者が最後に会ったと思われる人物の中に一人。これは噂ですが、規格外の実力を持ったとされる冒険者がいます。あくまで噂なので信憑性は保障できませんが、それでも現状では一番の有力候補と思われます」
「ふむ」
「被害者の名前はゴルドフ。前にブーザマの部下にいた男です」
「ふむ。…………うん?」
「そして彼が最後に会ったとされる人物。そいつの名前がアルカ・フェイン。年齢不詳の冒険者です。如何でしょうアルカさん。こちらとしてはそいつが最有力容疑者だと思えるんですが……?」
「僕じゃねぇか!」
ツッコミの為、報告した男の頭に拳を振り落とす。
「ぐぇっ?」
男が呻いた。一応、手加減したので気絶まではしていない。
「僕じゃねぇか」
もう一度ツッコミ。今度は拳は落とさない。
報告者の男は、「はっ!」と声を上げる。「アルカ・フェインさんはアルカ・フェインだった……?」
そいつの気付きに、周囲の男達がざわめき立つ。
「マジかよ、気付かなかった……」「アルカ・フェインさんの正体がアルカ・フェインだと……? 嘘だろ……?」「そんな馬鹿な……」「って事はアルカさんは自分を探していた……?」「自分探し……?」「年齢的には間違ってもない気がするが……」
僕は声を上げて否定する。
「いや、だから違うって! 僕は犯人じゃないよ!」
さっき心の中で有能だと評価したのは撤回しよう。やっぱこいつらは無能だわ。ドが付く無能。ド無能。
僕の否定に、チンピラ達は困惑しながらも、
「ですが、違う自分じゃないと頑なに否定する奴ほど、実は怪しいって統計的にデータが……」
「どんなデータだよ!」
しかもちょっと信憑性がありそうなデータだし。
「僕は犯人じゃないよ! それは絶対! 間違いない!」
「でしたらアルカさんには実はもう一人、人格が?」「そいつが犯行を?」「アルカさんには気付かれない内に……?」
またしても信憑性がありそうな説を出してきやがった。
そんで、見方によったら、もう一人の人格と言えなくもない立場のアウルアラは、
「アルカは多重人格じゃった……?」と戦慄いているし。気付けよ。おい。
「とりあえずそのアルカ・フェインは犯人じゃないから、その可能性は置いといて。他に容疑者はいないの?」
僕が尋ねると、今度は別の一人が挙手して、
「ああ、そういえばさっきアルカさんが来る前に、ちょいと気になる話がありまして。ブーザマさんがこれから敵対する人物の家族を捕らえて、人質にしてやろうと画策していた時の話なんですが」
「マジでクソ野郎だなあいつ……」死んでからも株を落とすなよ。
「その時、黒コートの男が現れて、人質にするのは失敗したらしいんです。こちら側にはたくさん人が居たにも関わらず、そいつ一人に全員やられたという話です」
「…………へぇ、詳しく」
「すいませんが、実際にその目で見たのは、ここには一人しかいないので分かりません」
「それじゃその一人は?」
おもむろに全員の視線が半裸の男に集まる。話を始める前に僕が気絶させてしまったのだった。
「おい、起きろ」
僕は半裸土下座の男の髪を掴み、身体を起こさせる。未だ意識が目覚めないので、水魔法で顔に水をぶっかけて強制的に目覚めさせる。「オラァッ」
「ひでぇ……」と周囲から戦慄の呟きが聞こえるが無視。
「ぐはぁっ? な、なんだなんだ? ぐえぇっ」
慌てて飛び起きる半裸に、一発お見舞いし、にっこり笑顔で尋ねてみる。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「ひぃぃっ」
半裸が怯える。よく見ると汚らわしい乳首から毛が生えているのだが、その毛が項垂れているようにも見える。乳首毛も怯えてるのだろうか。
「かくがくしかじか。黒コートの男について話して」
「わ、分かった。分かったから、殴らないでくれ」
「オッケー」僕は頷き、もう一発殴った。「ぐえぇっ」と男の口から哀れな悲鳴が漏れた。
今度はアウルアラから「ひどいのぉ」という呟きが聞こえてきた。
別にいいじゃん、と僕は心の中で言った。どうせこういう奴は、今の僕より酷い事をワイワイ楽しくやってるのだ。それが彼等にとってなによりもの楽しみだからだ。
それに、悪い者いじめは異世界ものに限らず、現実でも定番だ。だから気にする必要はない。
「話して」
「わ、分かった……」
半裸がぶるぶる震え出した。きっと服が破けて寒いのだろう。
怖がってるんじゃろ、とアウルアラが言うが、それなら敬語を使う筈だ。敬語を使ってないという事は、彼は僕を怖がってないという事だ。QED。
そんな訳で彼は特に文句を言う事もなく、片乳首を曝け出したまま語りだした。




