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5階層に向かう

……………………


 ──5階層に向かう



 俺たちは準備を終えて5階層に向かっている。


 5階層にも大井は進出しており、ポータルまでは簡易な道路が存在する。そこを利用して俺たちは5階層に装甲車とトラックで向かった。


「5階層は久しぶりだな。相変わらず、ここは憂鬱になる光景だ」


 5階層は雪景色だ。山林に雪が深々と降り注ぎ、ひどく寒い。


「ああ。そうだよな。ここは寒いのが気に入らないよ」


 湊は忌々しげにそういう。


 5階層には以前にも来たことがあるが、何も変わっていない。冷たく凍てついた場所であり、未開発でクソッタレの大地だ。


「なれるしかない。まずは拠点の設置だ」


 5階層の拠点は単純な軍事作戦の拠点というだけではなく、この凍てつく5階層の自然環境で生き残るための拠点でもある。この拠点が機能しなければ、俺たちは揃って凍死してしまうだろう。


 俺たちは仮設の兵舎を建て、暖房機器を持ち込み、燃料を持ち込み、ようやく温まることのできる環境を整えた。


 それらの設置が終わってから通信機材や武器弾薬が持ち込まれ、戦うための準備が進められる。


 とはいえ、ここで何と戦うかはまだ決まっていない。


「5階層についての情報部による最新の報告だ」


 俺は湊に情報部から送られて来た情報を送信する。


「5階層には主に大井が活動しているが、それ以外にも怪しい連中が動いているらしい。民間軍事会社(PMSC)と一緒に行動している、何かの科学調査を行っている集団だって話だが……」


「科学調査? それは篠原みたいな科学者の集まりというわけか?」


「分からん。情報部も正確な情報は持っていないみたいだ」


「ふむ。それが脅威になるとは思えない。このまま6階層に向かえないか?」


「5階層の調査も仕事のうちだ。避けては通れん」


 湊は科学者の調査というのに興味はなさそうだったが、俺たちの仕事は5階層の再調査ということもある。ここでしっかりと調査をしていかなければならない。


「しかし、この5階層に科学者とはね。安全な場所ではないんだが」


「ダンジョンは1階層だろうと5階層だろうと危険だ。しかし、わざわざ深部まで潜るのはそれなりに理由があるんだろうな……」


「希少資源の調査やクリーチャーの生態の解明か?」


「そういう人類の役に立つ研究なら歓迎するが、この深層で人の目が届かないのをいいことに好き勝手やってるんじゃないかって気もする」


「確かにな……」


 わざわざ5階層という深部に潜っているのは、ひとえに人目に触れたくない研究をしているのではないかという邪推も生まれる。


 もちろん科学者たちが純粋にダンジョンの謎を解き明かそうとしているということも考えられる。それは人類にとって利益になるだろう。


 しかし、俺たちはダンジョンにかかわる人間がどれだけクソッタレかを知っている。どいつもこいつもクズばかりの中で、科学者だけ倫理を守っているということこそ楽観的な考えではないのだろうか。


「何はともあれ調査はしなければならん。また情報部と行動することになるだろう」


 俺たちは命令に備えて5階層の拠点で待機する。


 それから数日が過ぎて、拠点の設備もかなり整ってきたときに村瀬が篠原とマオを連れて訪れた。


「佐世保、湊。調査してほしいことがある」


 村瀬は開口一番にそう述べた。


「調査してほしいことってのは?」


「お前たちもすでに聞いているだろうが、5階層では科学者グループが行動中だ。そいつらが深刻な犯罪に関与している疑惑がある。それについて調査を行ってほしい」


「科学者が深刻な犯罪に、ね」


 俺たちは何かしらの人体実験でもやってるのだろうかと考えた。


「今は具体的なことは言えないが深刻な状況だと把握している。科学者グループは表向きにはメガコーポの類とは無関係だが、その裏ではつながりがあると我々は踏んでいる。なので、この5階層の最大戦力である大井を敵に回す可能性にも備えてくれ」


「クソ。そいつは確かにやばそうだ」


 村瀬の言葉に俺たちはそう言い、うんざりした表情を浮かべる。


 大井を敵に回すというのは、それなり以上のリスクだ。それも公社の支援が薄くなる深層で連中とぶつかるのは正直かなり不味い。


「可能な限りの支援は準備する。科学者グループを摘発したからと言って、必ずしも大井と敵対するわけじゃない。迅速にやれば敵対は避けられるかもしれん」


「そうであることを祈りたいね」


「この憶測が気に入らないのは分かるが、こうなっては楽観的に考えるしかない」


 どちらにせよ公社上層部は問題の科学者グループの排除を求めていると村瀬。


「分かった、分かった。では、科学者グループについての情報を集めよう。情報部の連中は来ているのか?」


「ああ。連中も到着した。これからドローンやら通信傍受などで科学者グループの居所を探し出す」


「俺たちはその護衛、だな?」


「そうなる。頼んだぞ」


「了解」


 俺は村瀬の指示に頷き、情報部と合流。


「よう。今回も世話になるぜ」


「ああ、二宮。またあんたらのお守りだ」


 情報部の人間は以前と同じ二宮と相場で、二宮がにっと笑って言うのに湊もにやりと笑って答えた。


「それで、偵察すべき場所は決めてるのか?」


「ああ。どういうわけか情報部に公社上層部から指示があってな。この地点を探れっていう具体的な指示が出ている」


「公社上層部から具体的な指示……?」


「もしかすると公社上層部は科学者グループについてすでに俺たち以上に知っているのかもしれないな」


 どうにも怪しげな話であった。公社上層部はどうして科学者グループについて情報を有しているというのだ? 5階層のことなどこれまでまるで分かっていなかったはずであろうに。


「どうにも妙だな」


 湊も俺と同感なのか、そう言葉を漏らす。


「だが、公社上層部からの情報のおかげで寒い中を駆けずり回らずに済む。ラッキーだと考えておこうぜ」


「楽観的だな」


 情報部らしからぬ暢気さに俺はそう言うが、ここでうだうだ言ってもどうしようもないのも事実。割り切っていくしかなさそうだ。


「それでは早速だが情報収集を始めよう。善は急げだ」


「善かどうかは分からんがな」


 俺たちは情報部を伴って行動を開始。


 寒冷地対応の軍用四輪駆動車で俺たちは雪原を移動し、公社上層部から指示された地点の調査を開始する。


「5階層には確かドラゴンも出没したよな……?」


「ああ。クリーチャーも危険な連中が多い。警戒しておけ」


 湊が思い出すように言うのに俺はそう言った。


 5階層ともなると化け物たちも危険になっていく。油断すれば人間にやられるよりもクリーチャーに食い殺される方が多くなるだろう。


「あの山の付近だ」


 二宮が小高い山を指さした。


「流石にこれで山を登るのは無理そうだな」


 オフロード仕様の軍用四輪駆動車とはいえど、ろくな道もない雪山を頂上まで登り切るのは不可能に近い。


「徒歩で移動するしかあるまい。行くぞ」


 俺たちは車両から降りると車両を森の中に止めて偽装ネットで隠し、それから雪山の頂上を目指して移動を始めた。


 俺たちはこういう訓練も受けている。雪山だろうと何だろうとクソみたいに重い荷物を抱えて移動する訓練だ。


 だから、移動に特に問題はなかった。まして今の俺は四肢を機械化している。これぐらいは朝飯前だ。


「着いたぞ」


 それから俺たちは雪山の頂上に到着。ここからは他の雪山や雪原が見渡せる。


「オーケー。通信傍受を開始する。何か聞こえてくればビンゴだ」


 そう言って二宮たちは仕事を始め、俺と湊は周辺を警戒する。


「ここから見た限り、研究所のようなものはないよな?」


「見た限りではな。どこかに隠されているのかもしれない」


「そうなるとますますろくでもない研究をやってそうだぜ」


 俺と湊はそんなことを話しながら周辺の警戒を続けた。


「ビンゴ。聞こえてきたぞ。どこからかの通信で、大井じゃない」


 そして見事に公社の予想は当たった。


……………………

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