アルテミス
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──アルテミス
それから俺たちは山頂に陣取り、通信傍受を行った。
「……妙な感じだな」
「何がだ?」
俺が呟くのに湊が怪訝そうにそう尋ねる。
「5階層なんて辺鄙な場所で、さらにこんな山奥に科学者がいるって話がだよ」
「まあ、確かに辺鄙すぎる場所だが……」
この山林にはまともな道路も見当たらない。なのに通信は確かに傍受できているのだ。俺にはそれが違和感として感じられていた。
「よほど何か隠したい研究をしているのかもな」
「だとすればやばそうだ」
俺は湊にそう言い、監視を続ける。
それから数日が経ち、二宮たちが腰を上げた。
「通信傍受は完了した。あとは分析するだけだ」
「オーケー。じゃあ、戻るとしよう」
俺たちは任務を終えて山を下り、軍用四輪駆動車で公社の拠点に戻る。
公社の拠点はそれなりに立派なものになっており、中はとても暖かい。俺たちは凍てつくような寒さだった外から戻ってきて、その暖かさを堪能しながら装備を解いた。
「ああ。本当にここでの任務は最悪だ。滅茶苦茶寒いしな」
「言いたいことは分かるが、それでも仕事はしなければならん」
「あたしだって分かってるよ。けど、寒いのは苦手だ」
俺たちは愚痴を吐きながら情報部の傍受した通信内容が分析されるのを待った。
「佐世保、湊。来てくれ」
そこで村瀬から俺たちは呼び出された。
「何か分かったのか?」
「ああ。これから摘発する連中についての情報だ」
村瀬はそう言い、俺たちとODIN経由で情報を共有する。
「科学者どもは自分たちをアルテミス・グループと名乗っている。そして、その連中を警備しているのはウォッチャー・セキュリティという連中だ」
「ウォッチャー? あまり聞いたことのない会社だな……」
「俺も初めて聞いた。どうやらさほど大きな会社ではないらしい」
俺も湊もウォッチャーという民間軍事会社について知っていることはなかった。ここにきて初めて聞く会社だ。
「そのウォッチャーという連中の規模は?」
「通信を分析したところによれば、200名程度とみられている。装備などについては一般的な歩兵装備だろうと考えているところだ」
「軽装というわけか?」
「そうなる。連中が警戒しているのはクリーチャーによる攻撃や、産業スパイの類なのだろう。大規模な戦争をすることは考えていないらしい」
「ようやくいいニュースが入ったな」
村瀬の言葉に俺はそう言った。敵が装甲戦闘車両の類で武装していないというのは、それだけいい知らせだ。
「で、これからどう動く? 早速連中を制圧するために動くか?」
ここで湊がそう尋ねる。
「そうだな。善は急げだ。6階層の探索も残っている以上、このアルテミス問題にいつまでも時間をかけるわけにもいかんしな」
「オーケー。じゃあ、連中の拠点の可能な限りの情報と公社側の部隊を編成してくれ」
「ああ。待っていろ」
俺は村瀬にそう頼み、村瀬はすぐに仕事にかかった。
それから1日で部隊は編制された。俺と湊を含めて8名のチームだ。
「アルテミス・グループの拠点はここだと見られている」
村瀬が情報部が得た、アルテミス・グループの拠点を指さす。それは山の中に作られた核シェルターのような構造のもので、頑丈そうな作りをしていたものである。
「ここにはウォッチャー以外の戦力は存在しないと見ている。なのでやり方はお前たちに任せる。一応航空支援もあるが、隠密をオプションにしてもいい」
「派手にかまそう。最終的に研究施設を制圧するとなると、隠密は無意味になりかねない」
「オーケー。爆弾を積んだハンターキラードローンが上空を飛んでいる。いつでも呼び出して使ってくれ」
湊が即答し、村瀬は航空支援の詳細について送ってきた。
「研究施設までの移動はどうする?」
「隠密はしなくとも不意打ちはしたい。徒歩で静かに近づこう」
「分かった。そうしよう」
俺は途中までは車両、それからは徒歩での移動を提案。これも受け入れられた。
「それでは作戦準備だ。すぐに始めるぞ」
俺たちはすぐさま準備を整え、アルテミス・グループの研究施設に向けて出発。
雪原を移動しながら山岳地帯に迫り、山岳地帯の麓につくとそこからは徒歩で移動した。アルテミス・グループの研究施設は山の中腹にある。ここからは険しい道のりだ。
「湊。斥候を頼むぞ」
「了解だ」
俺たちは冬季用の白い迷彩服を纏っており、雪の降り積もるここではほぼ完全にカモフラージュされている。
だが、その条件は相手も同じであり、俺たちは敵の待ち伏せに警戒していた。
「ウォッチャーの警備に遭遇したら、撃っていいんだよな?」
「ああ。交戦規定は射撃を許可している」
「よし」
公社はどういうわけかアルテミス・グループとウォッチャー・セキュリティを完全な敵とみなしているらしく、最初から射撃許可が降りていた。
「気を付けろ。敵のパトロールだ。数は2名。ドローンはなし。こっちに気づいてない」
「せっかくだ。静かに片付けるか」
隠密はオプションに入っていないが、早々に侵入に気づかれる必要もない。静かに片付けられるなら、やってしまうべきだ。
俺と湊は背後から2名のパトロールに近づく。俺たちと同じように白い冬季迷彩を纏った男たちの背後に回り──その喉笛を掻き切った。
鮮血がほとばしり、白い雪の上を赤く染めると2名のパトロールは地面に倒れる。
「クリア」
「クリア」
俺と湊は敵が片付いたことを知らせる。
「さあ、急ぐぞ。敵が死体に気づくのは時間の問題だ」
「了解」
俺たちは研究所の入り口となっている場所に向けて駆ける。
パトロールがいた場所から5キロほど進んだ場所が、まさに研究施設の入口であった。偽装されていた気づかなかったが、研究施設の入口にはヘリポートがあり、外部との移動はそれで行われているようだった。
「湊。敵の規模は?」
「ここにいる連中は50名程度だな。まだ警戒していない」
「オーケー。ドローンに爆撃させて、それから突っ込むぞ」
「楽しくなってきたな?」
俺たちは上空のドローンに向けて地上の情報を送り、爆撃目標を指示する。
『エクスカリバー、了解。爆弾投下、爆弾投下』
上空を飛行していたドローンが航空爆弾を投下。
地上にオレンジ色の炎が吹き上がり、それによってウォッチャーだろう兵士たちが吹き飛ばされる。すぐさま警報が鳴り響くが、続く爆撃を阻止することはできなかった。
爆弾は次々にアルテミスの施設を爆撃していき、そこにいる警備を吹き飛ばす。
「オーケー。突っ込むぞ!」
十分に混乱が生まれたところで俺たちは突撃する。
警報が鳴り響く中を駆け抜け、俺たちはアルテミス施設の入り口に迫る。
「湊、敵は?」
「入口付近にはいない。クリアだ」
「了解。では、突っ込もう」
そして、俺たちはアルテミスの研究施設に踏み込んだ。
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