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スラッガー⚾️  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
12/29

父さんと母さんと僕

「父さんは野球がかったのよ。たまが凄く速くてね、高校の野球部のエースだったの。父さんは私達のあこがれだったわ」


って、母さんが遠くを見るように、目をほそめながら言ったんだ。



父さんの野球部は、父さんが高三の夏、

県大会で準優勝したんだって。


決勝戦で、相手のピッチャーが三人も交代し

たのに、父さんは一人で、延長十七回まで投げたんだ。


でも最後にヒットを打たれて、一点差で負けたんだ。その試合に勝てば、甲子こうしえんに行けたのに。


父さんは大学でも野球で活躍して、プロから

スカウトされるくらい凄かったらしいんだ。


だけど、大学三年の時にヒジをこわして、

野球はあきらめたんだって。



父さんと母さんは、同じ高校の同級生でね、

母さんは父さんの大ファンで、野球の応援によく行ったんだって。


たけど母さんはずかしくて、高校の時は父さんと一度もくちをきけなかったらしいんだ。


「父さんはもとのスターだったから、私なんかとても近づけなかったの。同じクラスになったことも無かったしね。たまに学校のろうですれ違う時なんか、私、緊張して目も合わせられなかったわ。父さんは背が高くてハンサムだった。はだの色があさぐろくて、ツヤツヤしてた。足が長くて、スタイルがいの。父さんはいつも輝いて見えたわ。こんな、容姿ようしの私とは絶対にわないって、 私、ずっと思ってた。父さんは勉強も出来て成績はいつもトップクラスだったのよ」


母さんはまぶしそうな目をして言ったんだ。



母さんは高校を卒業するとね、僕が入院したこの私立の総合病院にしゅうしょくして、医療事務の仕事をしてたんだ。


そしたら、父さんが野球でヒジを痛めた時、

母さんがつとめてるこの病院に、よく来たんだって。


二人は高校の時は一度も話した事がなかったけど、かおりだったから母さんのほうから思い切って父さんにアタックしたんだって。


そしたらね、じつは父さんも母さんのことが、ずっと好きだったんだって。



「ある日、父さんが病院のまどぐちに来た時ね、私、自分のれんらくさきを書いた短い手紙を渡したの。ファンレターみたいなかんたん内容ないようの手紙よ。私、緊張で手がふるえてたわ。父さんは優しくニッコリ微笑ほほえんで、手紙を受け取ってくれたの。そしたら次の日、父さんから電話がかかってきたのよ」


母さんはすこし顔を赤くして言ったんだ。



それで二人はい始めてね、二十五歳の時にけっこんして二十七歳で僕が生まれたんだ。


僕が生まれた時、父さんは大喜おおよろこびしたんだって。しかもおとこだったから、


「『偉いぞ、よう、良くやった。これで俺もむすに野球が教えられるぞ!』って、父さんは大喜びだったわ」


母さんが嬉しそうに笑いながら言ったんだ。


「あなたが生まれるとね、父さんはあなたをできあいしたの。『翔太、翔太!』って、いつもくちぐせのようにあなたの名前をんでたわ。家に帰るとあなたのそばからずっとはなれないの。私、父さんこそ、本当のいくメンだと思うわ。オムツもよくえてくれたし、仕事が早く終わる時は、保育園に必ずむかえに行ってくれたの。だから、私は子育てが楽だった。あなたがきしても、次の日仕事なのに、父さんが寝ないであなたをあやしてくれたのよ」


母さんはなつかしそうに笑って言ったんだ。



僕が四歳になると、父さんは休みのたびに僕を小学校のグラウンドにれて行って、野球を教えてたんだって。


[夢に出て来た光景こうけいは、現実げんじつだったんだ]


って思うと、僕は凄く嬉しかった。


僕に最初に野球を教えてくれたのは、

やっぱり父さんだったんだ!



父さんは、大学を二十二歳で卒業するとね、

自動車を作る会社に就職したんだ。世界でも有名なおお自動車メーカーなんだよ。


そして就職して三年後に母さんと結婚して、その二年後に僕が生まれたんだ。


だけどその四年後に、会社の工場で事故が起きて、父さんはその事故にまれてんじゃったんだ。



だから父さんは、三十一歳でくなったことになる。

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