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スラッガー⚾️  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
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11/29

甦った記憶

診察を受ける前、もう一度体温を計ったけど

まだ四十度近い熱があった。


声もほとんど出せないし、つばが飲み込めないくらいノドが痛かった。


お医者さんは風邪だろうって言ってたけど、他の病気の可能性もあるから、念のために一晩ひとばん入院して様子を見ようってことになっ

たんだ。



入院するのなんて生まれて初めてだった。


でも母さんが、ずっとそばについててくれたから僕は安心だった。


しり注射ちゅうしゃしてもらって、病室のベッドに横になると、看護師かんごしさんが点滴てんてきをしてくれた。


重病人になったみたいで、悲しかったけど、母さんが僕の手をにぎって、


「翔太、大丈夫よ。母さんずっとここにいるから、安心してねむりなさい」


って、笑顔で言ってくれたんだ。


僕は母さんの手を強くにぎかえして、声を出すのにろうしながら、


「ありがとう」


って、言ったんだ。


母さんの手のぬくもりがありがたくて、しょううれしかった。


[やっぱり、母さんは最高だ!]


って、僕は思ったんだ。



◇◇

 


寝てる間に、僕は何度も何度も繰り返し長い夢を見た。


全部緒方コーチの車の中で見た夢にてるんだけど、夢はどれも少しずつ違ってた。



夢の中で、僕は父さんとキャッチボールしてることもあった。


僕は黒のグローブをはめてる。

子供用だから軽い合成ごうせい皮革ひかくのやつ。


父さんは大人おとなようの茶色いかわせいのグローブをしてた。


ボールはバッティングの時と同じ、赤いのあるゴムボール。 


「いいか翔太、右手を耳のうしろに持っていったら、スナップをかせてビュッて投げるんだ。キャッチャーみたいにな。これが投げ方の基本きほんなんだ」


父さんが投げるどうをして見せた。


僕は父さんの言った通り、ようで投げたんだ。


ボールはかなり速いスピードで、父さんのおなかあたりに行った。


父さんが、グラブをサッと動かしてボールを受け止めた。


「おお、いぞ、翔太!  四歳にしては

じょう出来できだ!」


って、父さんがよろこんでる。


僕もうれしくて、またその場でピョンピョン飛びねて喜んでる。



夢の中で、耀がバイオリンをいてることもあった。


耀はなぜかかたを着てた。


前に耀がみんなの前でいた曲。

僕はウットリしていている。


だけど、耀は演奏えんそうが終わると、僕の隣に座ってた聖司君を見て、ニッコリ笑ったんだ。


聖司君も嬉しそうに笑って耀に手を振った。


僕はそれがくやしくて、 体中がカッと熱くなった。冷や汗がダラダラ流れて来た。 


ハッとして、一瞬目が覚めた。



母さんの顔がボンヤリと僕の目にうつった。 


「翔太、大丈夫よ」


って言って、母さんが僕の手を握った。


僕はまた安心して眠ったんだ。



夢はまた、お葬式のシーンになった。


和服わふくを着た母さんが泣いてる。


さいだんの方を見ると、今度はえいみっつ並んでるんだけど、どれもまぶしくてよく見えない。


近づいてひつぎのぞくと、父さんにた人が寝てるんだ。


僕はくびはげしく振って、


「これは、とうさんじゃない!」  


って、さけぶんだ。


またハッとして、めた。



母さんが僕の手を強く握ってる。


僕はかすれ声を上げ、しばらく激しく泣いたんだ。


「翔太、大丈夫よ、大丈夫よ!」


って、母さんが僕をきしめて言ったんだ。


母さんが僕の背中を優しくさすってくれた。


落ち着くと、僕はまた母さんの胸の中で眠ったんだ。



夢の中で父さんが保育園にむかえに来た。


父さんの姿すがたを見たたん、僕は嬉しくて、

その場でピョンピョン飛び跳ねて喜んでる。


「翔太君の父さん、カッコいね」


って、保育園の先生たちが言ってる。


父さんは僕をげてほおずりした。


父さんのヒゲがチクチクして痛いけど、

僕は幸せな気持ちになった。



するとまた、場面が変わった。


耀がサッカーの青いユニフォームを着てる。


耀は僕を見てニッと笑い、


「翔太、スイカ食べて」


って、言ったんだ。


耀が何個も何個もスイカを持って来た。

僕はおなかがパンパンで、もう食べれない。

冷や汗をダラダラ流してる。


僕はまた、ハッとして目を覚ます。



ずっと、こんなことの繰り返しだった。


けっきょく、僕は三十六時間くらい寝てたらしい。


目が覚めると、ボンヤリと母さんの顔が見えた。母さんが僕の手を握って笑ってる。 


「翔太、めたのね?」


って、母さんが言ったんだ。


僕はボンヤリしながら、ゆっくりまわりをまわして、


「うん」


ってうなずいたんだ。


窓の外がくらかったから、夜だと思った。


僕はいつのにかオムツをしてた。


夜中の十二時くらいだって母さんが教えてくれた。



お医者さんが来てしんさつしてくれた。


基本的には風邪とろうだけど、熱は普通ふつうねつざいがあまりかなかったから、ストレスせいの熱もかさなったんじゃないかって言ってた。



診察のあと、おかゆとヨーグルトを食べて、

オレンジジュースを飲んだ。

凄く美味おいしかった。


ノドの痛みはほとんどなくなってた。



だけど、僕は起きてから、ずっと悲しい気分が続いてたんだ。


ひどくゆううつな気分だった。


僕は思い切って、母さんにいてみたんだ。


「母さん、とうさんは死んじゃったの?」


って。


母さんは、ハッといきんだような顔をして少し考えてた。


そして、


「翔太、あなた思い出したのね?」


って言ったんだ。


「夢の中に父さんが何度も出て来た。僕達は野球をやってるんだけど、いつも、お葬式の場面が出て来るんだ。夢を見ながら、これは現実げんじつなんじゃないかって思ってた」



母さんは、静かにフーッって息をいて、

また少し考えてた。


それから、こう言ったんだ。


「やっぱり、精神せいしんのお医者さんが言ったとおりね。あなたの心の準備じゅんびが出来たら、せきてきおくよみがえることもあるって、おっしゃってたわ。子供の頃のこわい記憶はね、一生いっしょう思い出さない人がほとんどらしいの。翔太、これから母さんの話をよく聞いて」


って。


そして母さんは、父さんの話をゆっくり始めたんだ。

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