夏合宿と高熱と父さんの夢
僕のチームは夏の大会が終わると、
毎年本栖湖の近くに合宿に行くんだ。
そこは、目の前に富士山が見える大きな総合運動場で、野球場やサッカー場、何面ものテニスコートや、陸上競技場まであるとても大きな施設なんだ。
宿泊施設も完備してて、合宿をやるにはうてつけなんだ。
六年生も毎年最後にその合宿に参加して、
監督から「デンジャラス」の卒業証書を
もらって卒業して行くんだ。
もし、県大会に出場する時は、六年生は卒業せずに大会に向けた特訓のための合宿になるはずなんだけど、まだ一度もそうなった事がない。
耀のサッカーチームも同じ場所で、
毎年合宿をやってるけど、
日程が全然違うから耀は来なかった。
保護者も希望すれば参加できるけど、
母さんも仕事が忙しくて来れなかった。
◇◇
合宿は超楽しかった。
練習が終わると、保護者の人達が作ってくれたカレーをみんなでお腹一杯食べたんだ。
僕達も少し手伝ったよ。
人参やジャガイモや玉葱の皮をむいたり、
飯盒炊爨のやり方も教わった。
ご飯が甘い感じがして美味しかった。
名物のホウトウ鍋も食べたよ。
味噌味で山菜や長ネギや豚肉がたくさん入ってて、メッチャ美味しかった。
近くのキャンプ場に行って、バーベキューもやったんだ。スイカ割りや、キャンプファイアもやったよ。
バーベキューは本当に美味しかった。
炭火でお肉や野菜を焼くと、
何であんなに美味しいんだろう。
僕は食べすぎてお腹が苦しくなっちゃった。
スイカ割りは意外と難しかった。
僕はタオルで目隠しをして、みんなの声を聞きながら、思いっ切りスイカを棒で叩いた積もりだったけど、外しちゃって、地面を叩いてた。
キャンプファイアの時は緒方コーチがギターを弾いてくれたんだ。
緒方コーチはギターが凄く上手くて、僕達は緒方コーチの伴奏に合わせて肩を組み、いろんな曲を大声で歌ったんだ。
みんな声を出しすぎてノドが枯れちゃった。
監督と貴史君が振付け入りで、
『女々しくて』
を歌った時は、最高に面白かった。
監督が貴史君の脚にしがみついた時は、
可笑しすぎて、みんなお腹を抱えて笑い
転げてた。
◇◇
二日目の朝は、みんなでレンタル自転車を借りて本栖湖を一周したんだ。
富士山がクッキリと大きく見えて、
とても綺麗だった。
自然の景色って本当に素晴らしい。
青い空と白い雲、山の緑と湖の水と、
富士山のコントラストが抜群なんだ。
湖では大勢の人達がカヌーを漕いでた。
一周して自転車を降り、岸辺まで近づくと、湖の水が透明に澄んでてとても綺麗だった。
◇◇
僕が高熱を出したのは、
三日目の朝だった。
その日は合宿の最終日。
午前中の練習が終わったら、みんなでパノラマ台に登って、富士山を見て、宿舎に戻ったら六年生の卒業式をやって、夕方頃には貸切バスに乗って地元に帰る予定だったんだ。
だけど僕は朝起きた時から、頭がボーッとしちゃって、美味しそうな朝食が食堂のテーブルの上に並んでるんだけど、全然食欲がわいてこなかった。
僕がテーブルについてボーッとしてると、
隣の席に座った聖司君が心配して、
声をかけてくれたんだ。
「翔太、どうしたの? 全然食べてないじゃん。体調悪いの?」
「うん、僕なんだか食欲無い。頭がボーッとして、体がフワフワする」
すると聖司君は、直ぐに別のテーブルに座ってた監督とコーチに伝えてくれた。
緒方コーチが心配そうにやって来て、
僕の額に手を当てた。
「翔太君、大丈夫か? 熱いな、やっぱり熱があるな」
って言ったんだ。
体温計で計ってみると、三十九・七度も
あった。
すると今度は監督が来て、僕のオデコに手を当てた。
「やれやれ、翔太も知恵熱か。お前も、もう直ぐ大人だな。あっ、こりゃヤバイな。翔太お前、今から直ぐ帰れ。さっき、お前の母さんには電話しといたから、母さんの病院で診てもらえ。たぶん風邪だと思うけどな」
って言ったんだ。
僕は登山もしたかったし、凄く残念だったけど、緒方コーチの車で、みんなより一足先に帰ることになったんだ。
自分が病気だと思った途端、急に体の力が抜けちゃって、立っているのも辛かった。
緒方コーチの車に乗り込んでシートベルトを締めると、助手席を倒してもらって、直ぐに横になったんだ。
「翔太君、病院に着くまで寝てな。たぶん疲れが出たんだよ。君は大会前からずっと頑張ってたからな」
緒方コーチが運転しながら言ったんだ。
◇◇
僕は車の中で不思議な夢を見た。
夢の中に父さんが出て来て、
僕と野球をやってるんだ。
夢の中の僕は三歳か四歳くらい。
暑い真夏の小学校のグラウンド、セミがたくさん鳴いている。
僕は子供用のプラスチックのバットを持ってる。父さんは赤い縫い目のあるゴムボールを僕に向かって投げてた。僕がまだ小さいから父さんは下から投げてた。
「いいか翔太、ファーストストライクを狙うんだ。ボールをよく見てバットを振れよ。良い球が来たら迷わず振るんだ」
って、父さんが言った。
僕は父さんが投げたボールを、思いっ切り打ち返したんだ。
そしたら、ゴムボールは父さんの頭の上を勢いよく越えて行った。
「翔太、凄いぞ、ホームランだ!」
って、父さんが大声で言った。
僕は嬉しくて、靴をパッタンパッタンいわせながら、その場で飛び跳ねて喜んでる。
そしたら急に場面が変わって、
夢の中に耀が出て来た。
耀は紺色の浴衣を着て花火をしてた。
すると突然、僕の方をキッと睨んで、
「私が作ったチョコ返して!」
って、僕に言ったんだ。
僕は冷や汗をダラダラ流してる。
すると、また急に場面が変わって、
今度は僕は大きなホールみたいな所に
いるんだ。
黒い服を着た人達が大勢いる。
白や紫の花がたくさん飾られて、お線香の匂いがする。
誰かのお葬式みたい。
母さんが黒い和服を着て、
白いハンカチを目に当てて泣いてる。
祭壇の方を見ると、四角い額縁に入った誰かの遺影があるんだけど、光がガラスに反射してるし、眩しくてよく見えない。
近づいて行って、白い棺を覗いてみると、
知らない男の人が目を閉じて寝てた。
肌の色が浅黒くて健康的な感じ、とても死んでるようには見えない。
[待てよ、この人どこかで見た覚えあるぞ]
って僕は思うんだけど、誰だかなかなか思い出せない。
すると僕の頭の中に、最悪の予感が閃いた。
[もしかして、これは父さん?]
僕は、
「ウーッ!」
って呻き声を上げて、そこでハッと目が覚めたんだ。
「翔太君、大丈夫かい?」
緒方コーチが運転しながら僕を振り返った。
体中に冷や汗をかいてて、気持ち悪かった。
車は高速道路を走ってるみたい。
僕は夢だと分かってホッとしたんだ。
「うん、大丈夫です」
って言って、僕はまた寝ちゃったみたい。
母さんが勤めてる病院に着くと、
緒方コーチが肩を揺すって起こし
てくれた。
「翔太君、着いたよ。君の母さんの病院だ」
まだお昼前だった。
母さんが病院の玄関の車寄せで、
心配そうに僕を待ってた。




