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スラッガー⚾️  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
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9/29

耀とサッカーとバイオリン

耀《よう》はサッカーが凄く上《う》手《ま》いんだよ。


リフティングなんか、ヘディングで千回くらい出来るんだ。足でやった時は三千回以上出来るんだって。 


僕はサッカーのこと、あまり詳《くわ》しくないけど

耀のポジションはミッドフィルダーなんだ。


地《じ》元《もと》の「アストラル」って言うチームに所属《しょぞく》してる。


アストラルっていうのは、

「星」とか「星の世界」

とかいう意味なんだって。


ユニフォームは、

ビジター(敵地で戦う時)が青、

ホ ー ム (地元で戦う時)が赤。


背番号は「11」番なんだ。



耀がポニーテールの髪をなびかせて、グラウンドを走ると、本当にカッコ良《い》いんだよ。

もう惚《ほ》れ惚《ぼ》れしちゃうくらい。


僕は耀の試合を何度も見に行ったことがあるんだ。いまだにオフサイドの意味が、よく分からないけどね。 


耀は思いっきりが良《よ》くてね、 ゴールを狙《ねら》えそうな時は、積《せっ》極《きょく》的《てき》に、がんがんシュートを打つんだ。


だから見てて、とても気持ちが良《い》いんだ。


枠《わく》を大きく外《はず》れても全然《ぜんぜん》気《き》にしないでいつも楽しそうに笑ってるんだ。


耀は本当にサッカーが好きみたい。

 

サッカーしてる時の耀は、いつも嬉しそうに

ニコニコ笑ってて、輝《かがや》いて見えるんだ。 


耀はアイデアのヒラメキが優《すぐ》れててね、意外《いがい》なところからシュートを打ったり、パスしたりするんだよ。


だから試合の時、県大会でよく優勝する

チームの監督が、


「あの11番良(い)いねー! ウチのチームに入れたいよ」


って、言ったんだって。



それは小四の秋に、耀達が県大会でベスト8(エイト)まで行った時の話なんだ。


耀はその試合で二《に》ゴールも決める大《だい》活《かつ》躍《やく》。


一点目はゴール前の混《こん》戦《せん》からヘディングで、二点目はペナルティエリアの外から豪《ごう》快《かい》な

ミドルシュートを決めたんだ。


観《かん》客《きゃく》席《せき》からは、


「あの子《こ》スゲー!」


「あの子《こ》超《ちょう》ヤベー!」


とか、声が上がってた。


僕も嬉《うれ》しくて誇《ほこ》らしい気持ちになったんだ。


僕の幼馴染みだって、観客の一人一人に説明

して回りたいくらいだった。



でも結《けっ》局《きょく》、試合は二対二の同点のまま延長戦までもつれ込んで、 延長後半に一点取られて負けちゃったんだ。


もう少しでベスト4(フォー)だったから、

耀も凄く悔《くや》しがってた。



耀達のチームは地区での歴史も古いし、

かなり強いんだ。


その上、女子サッカーチームが元々(もともと)少ないこともあって、県大会には毎年出てる。


耀達の時代じゃないけど、昔《むかし》、県大会で優勝したこともあるんだって。


だから僕達の野球チームと比《くら》べたら、

耀達の方が全然実績(じっせき)が上《うえ》なんだ。


サッカーチームの女子からは、


「翔太達、また県大会出れなかったの?

まったく弱いよねー、君《きみ》達《たち》は」


とかって、からかわれたりするんだ。

でもそういう時、耀はね、


「違うよ! デンジャラスは強いんだよ。でも

ブラックホークスが強すぎて、県大会出られ

ないだけ」


って、かばってくれるんだ。


だから僕はそういう時、耀のためにも、


[来年こそはブラックホークスに勝ちたい]


って、いつも思ってた。



◇◇



僕、市営《しえい》住宅《じゅうたく》で母さんと二人暮らしだって、前に話したよね。


これから少し、団地での生活の話もして

おくね。



僕と母さんは団地の四階に住んでる。


今《いま》通《かよ》ってる「若《わか》竹《たけ》小学校」から、歩いて十分くらいのところにある大きな団地なんだ。


二十棟(とう)くらい同じような建《たて》物《もの》が並《なら》んでて、

僕達はAの二号棟(とう)。


耀達も同じ団地で、Bの八号棟(とう)の二階。


団地のすぐ側《そば》に「若《わか》竹《たけ》保育園」があって、

僕も耀もそこの出身《しゅっしん》なんだ。


部《へ》屋《や》の広さは三LDKだから、親子二人暮らしには十分な広さなんだ。


建物もわりと新しくて築《ちく》十年くらいかな。

僕が生まれる前、新築《しんちく》の時に入《にゅう》居《きょ》したん

だって。



僕の母さんは隣《となり》町《まち》の大きな病院で、医《い》療《りょう》事《じ》務《む》の仕事をしてる。


忙《いそが》しい時は夜遅(おそ)くなることもあるけど、大体《だいたい》は夜七時頃家に帰ってくる。朝は僕を送り出してから八時頃家を出るんだ。



耀の母さんはバイオリニストで、日本でも有名《ゆうめい》な交響《こうきょう》楽団《がくだん》の奏者《そうしゃ》なんだ。


だから全国を飛び回ってることが多いけど、

耀の家にはお祖母《ばあ》ちゃんがいるから大丈夫。


銀《ぎん》髪《ぱつ》で上品《じょうひん》な感じのお祖母《ばあ》ちゃん。


僕は耀のお祖母《ばあ》ちゃんが大好きなんだ。僕のことを本当の孫《まご》みたいに可《か》愛《わい》がってくれる。


僕が遊びに行くと、いつも笑って、


「翔《しょう》ちゃん、いらっしゃい」


って、言ってくれるんだ。



家も近いし、耀のお祖母《ばあ》ちゃんが僕の面《めん》倒《どう》も一緒にみてくれたから、僕は学童《がくどう》クラブには入らなくてすんだんだ。


二年生の頃までは、学校から帰るといつも耀の家に遊びに行ってた。


三年生からは耀がサッカーを始めたんで、

ほとんど遊びに行かなくなった。


僕も秋から野球を始めたしね。



耀は母さんがバイオリニストなのに、

バイオリンはほとんど弾《ひ》かないんだ。


僕の前でも数《すう》回《かい》しか弾《ひ》いた事がない。


母さんの稽《けい》古《こ》が厳《きび》しすぎるんだって。


耀の母さんは綺《き》麗《れい》で優《やさ》しい人だけど、

バイオリンのことになると、

人が変わったように厳《きび》しくなるんだって。


「バイオリンに関《かん》しては、私、あの人に

ついて行けないわ」


って、耀は言ってた。



だけど、やっぱりバイオリニストの娘《むすめ》だから

耀もバイオリンは上《う》手《ま》いよ。


四年生の時に一度だけ、学校の七《たな》夕《ばた》音楽祭で

耀がみんなの前で演奏《えんそう》したことがあるんだけど、メッチャ上手かったもん。


『亡《な》き王《おう》女《じょ》のためのパヴァーヌ』


って曲《きょく》を弾《ひ》いたんだけど、上《う》手《ま》すぎて、

生徒も先生も保護者達もビックリしてた。



耀は淡《あわ》い黄色のワンピースを着てた。


背《せ》筋《すじ》がピンと伸《の》びて、弾《ひ》き方《かた》も凄く

カッコ良《い》いんだ。


いつも見てる耀とは、まるで別《べつ》人《じん》みたい

だった。

 

僕はボーッと口《くち》を開けて、曲を聴《き》きながら

ウットリしちゃったんだ。

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