12:魔飼者
■魔飼者
ある大富豪の邸宅から逃げ出した家政婦が、遠く離れた町の警察に保護された。
彼女はずっと口を閉ざしていたが、身の安全を確信できたのか、面会に来た警官にようやく口を開いた。
それは彼女が働いていた邸の地下に大勢の男女が監禁されており、どうやら人体実験や拷問をされているという衝撃的なものだった。
現場を目撃してしまった彼女は命からがら逃げだしたが、地元の警察も抱き込まれているのではないかとの不安から、遠く離れたこの町まで逃げてきたのだと言う。
すぐに大富豪の屋敷の捜索が行われた。
そこで見つかったのは、十九名もの男女の無残な遺体と、手術室のような設備、多くの実験器具、そして巨大な焼却炉だった。
どうやら誘拐してきたハイカーなどを監禁し、臓器を取り出して闇に流していたようだ。
この屋敷の主である大富豪とその妻、そしてお抱え医師が逮捕された。
地元の新聞では「地獄の内臓市場」「恐怖の腑分け屋敷」などのおどろおどろしい見出しが一面を飾り、大富豪は裁判の決着を待たずに病死している。
また別の話しでは、屋敷の主は不治の病に冒されており、助かるには臓器移植を受けるしかない状態だった。
ところが、彼の欲する臓器というのが「常人にはない臓器」だった。
そこで彼は手当たり次第に人を攫っては医師に腹を開かせ、ハズレなら闇に流すを繰り返していたのだという。
しかし、いくつか妙なことがある。
ここで発見された遺体のすべてが、身元不明のままなのだ。
そして地下には、報道された恐ろしげな設備のほか、多数が生活するのに十分な施設が整っていたという。
大勢の犠牲者たちは、いったいどこからきたのだろう。
もし地下での生活を強いられていたなら、逃げ出すチャンスは無かったのだろうか。
犠牲者たちに直接手を下したとみられるお抱え医師は、殺人については認めているものの、臓器摘出その他の違法な外科行為については容疑を否認し続けた。
面会を許された記者の話しでは、医師の主張は「無原罪の人間を創るため」だったという。
≪出典≫ 「隣の流行り神.net 怪事件板」 より転載




