表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

自切③

 半年前――。

 泉は悲鳴をあげながら目を覚ました。

「泉ッ!」

 顔を横に向けると、明が豆球の灯りのもと、眉間に皺を寄せて泉をみつめていた。

「ごめんなさい……」

「……ッたくびっくりさせるなよ」

 明はカラダの向きを変え、泉に背を向けた。泉は申し訳ない気持ちで一杯になりながら、首元の汗を拭った。

 嫌な夢だった。

 泉は天井をぼんやりと眺めながら思い返す。

 夢の中で泉は夜の公園を歩いていた。

 突然、前方の桜の木の陰から男が現れ、泉に襲いかかってきた。

――助けて。

 泉は懸命に逃げたが、男の足のほうが勝っていた。腕を掴まれると、足を掛けられ、抵抗する間もなく地面に転がされた。

――嫌ッ。

 泉は必死に逃げようとしたが、男は馬乗りになり、泉の両手首を押さえた。泉は激しく首を振って抵抗したが、男の力になす術もなかった。

「死にたくなければ静かにしろ」

 男はポケットから小型の刃物を取り出し、泉の首元に刃先を当てて脅かした。刃物のひんやりとした感触が泉の身を更に縮ませた。

――お願い、やめて。

 懇願する泉を嘲笑うかのように男は口角を吊り上げて、刃物の背を首から顔に滑らせた。そしてポケットから布テープを取り出し、慣れた手つきで泉の口を塞ぐと、うつ伏せにし、後ろ手に両手首を布テープで固め、再び仰向けにした。

「少しの我慢だ」

 男はそう言って、刃物を持つ手を泉のスカートの内側にゆっくりと忍ばせた。

 泉は恐怖に身を震わせて全身を硬直させた。

 その刹那、下腹部あたりに激しい痛みが走った。身を捩じらせると、カラダが急に軽くなったような気がした。

 すると、男が意味不明の言葉を口走りながら泉から後退った。男の手から離れた刃物が泉の顔面に向かって落下する。泉は咄嗟に身を回転させ、かろうじてそれを避けた。

 その時、泉は我が身の異変に気づいた。泉には腰から下の感覚がまるでなかった。恐る恐る下半身に目をやると、信じられないことに腰から下の部分がなくなっていた。

 そして少し離れた場所で上半身を失った下半身が、それがひとつの個体であるかのように、激しく足をバタつかせていた。

――嫌ァ~~ッ!

 泉はもう一度首元の汗を拭った。

 時計を見る。

 午前五時半。

 いつもより三十分程早いが、泉はベッドを出て朝の準備に取り掛かった。

 朝食の調理中、悪夢が頭から離れなかった。

 豆腐を掌の上で切ると、指先に痛みが走った。

 白い豆腐に向かって、赤い血が流れた。

 泉は豆腐を三角コーナーに捨て、戸棚から薬箱を取り出しながら、包丁の怖さを改めて知った。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ