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自切②

 一年前――。

 葬儀場。

 祭壇。

 遺影には柔らかに微笑む夫の(あきら)の顔。

 たくさんの弔問客が神妙な面持ちで、次々と喪服姿で泣き崩れる自分に慰めの言葉をかけてくれる。

 泉は近頃、そんな妄想に耽るようになっていた。

 明の死を願っているのかしら――。

 我に返って苦笑した。

 結婚して三年。

 泉は明の希望どおり結婚を機に仕事を辞めて専業主婦として毎日を過ごしていた。

 明に不満はない。

 一流大学を卒業して一流企業に入社した夫。若くしてマンションを購入できる収入もある。

 友人たちも口を揃えて泉は幸せだよね、と言ってくれる。

 泉もそう思う。どちらかといえば、自分のほうが妻として至らない部分が多い。

 明は学生時代から一人暮らしをしており家事全般をそつなくこなしてきた。それだけに料理、洗濯、掃除に至るまで口を挟むことが多い。

 それでも泉は明の言葉を不甲斐ない自分へのアドバイスだと受け入れることができた。

 もっと内助の功としてがんばらなければ――。

 そう思っているはずなのに、ふとした瞬間に明が死んでしまう妄想に耽ってしまう。

 なぜだろう?

 不安なのかもしれない。

 明がいなくなってしまったら自分はどうなってしまうだろう?

 独りで生きていけるだろうか?

 今の生活に満足すればするほど、明あっての自分だとの認識が強くなる。

 私ってこんなにも弱い人間だったのね。

 そう考えている泉の鼻に、魚の焦げる臭いが飛び込んできた。

 いけないッ! と慌ててグリルを開くと、サバの切り身が真っ黒になっていた。

 また明に怒られる。泉は情けない思いで、煙と臭いを追い出そうと窓を開けた。沈みゆく夕日のオレンジの陽射しが差し込んできて、まな板の上の包丁がキラリと光った。


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