第46話:瀬尾の帰郷と、語られなかった父の言葉
お読みいただきありがとうございます。
第46話。今度は瀬尾の実家の問題です。
親世代の価値観と、自分たちの生き方。
志保が瀬尾の「誇り」を守るために、勇気を出して対峙します。
志保の母が退院し、日常が戻るかと思われた矢先。ルミエールの閉店後、瀬尾さんのスマートフォンに一通の着信があった。
画面に表示された『父』の二文字を見た瞬間、彼の指先がわずかに強張るのを、私は見逃さなかった。
「……はい。……分かっています。近いうちに顔を出します」
電話を切った瀬尾さんは、いつもの穏やかな表情を消し、ひどく疲れ切った顔でカウンターに手をついた。
「志保さん、すみません。週末、実家に行ってきます。父が……僕の今の生活について、話があるそうで」
瀬尾さんの実家は、厳格な教育者の一家だと聞いていた。一流証券マンのキャリアを捨てて、小さなカフェの店主になった彼を、父親は今も「ドロップアウトした失敗作」と見なしているのだ。
週末。私は彼に付き添い、神奈川にある彼の実家を訪れた。
出迎えた父親の視線は、瀬尾さんを通り越し、横に立つ私に向けられた。その目は、私の年齢と肩書きを値踏みするような、冷ややかな知性に満ちていた。
「涼介。いつまでこんな、ままごとのような店を続けるつもりだ。……隣にいる女性も、お前がその年でふらふらしていることを、何も言わないのか?」
父の言葉は、瀬尾さんの存在そのものを否定する刃だった。
瀬尾さんは拳を握りしめ、黙って耐えている。かつての彼なら、ここで言い返したかもしれない。けれど今の彼は、自分の選択に誇りを持っているからこそ、父の古い価値観に絶望していた。
「お父様。瀬尾さんは、ままごとをしているわけではありません」
気づけば、私は一歩前に出ていた。
「彼は、多くの人の心を救う場所を守っています。それは、数字を動かすことよりもずっと難しく、尊い仕事です。私は……そんな彼を心から尊敬しています」
父の眉が不快げに動く。
瀬尾さんが驚いたように私を見た。その瞳に、微かな光が戻る。
親の期待、世間の目。
私たちはそれぞれ、違う形の呪縛に縛られてきた。
けれど、彼が私の母のために走ってくれたように、今度は私が、彼の誇りを守るための盾になりたかった。
第46話、いかがでしたでしょうか。
瀬尾くんのお父さん、なかなかに手強いキャラクターです。
志保の凛とした反論に、瀬尾くんも救われたはず。
大人の恋は、二人の絆で「親」という壁をどう乗り越えるかが鍵になります。
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