第34話:もう一度、あなたを信じる
お読みいただきありがとうございます。
第34話は、キャリアと恋の「両立」への挑戦です。
大きな決断を下す二人の、新しい一歩を描きました。
プロジェクトの大逆転劇から一週間。会社は私を「救世主」として扱い、部長からは異例の速さで統括部長への昇進が打診された。
それは、三十八歳の私にとって、これ以上ないキャリアの到達点だ。
けれど、内示を受けた私の心に真っ先に浮かんだのは、喜びではなく、ルミエールで過ごす時間がさらに減ってしまうのではないかという、身を切るような不安だった。
「……志保さん、昇進、おめでとうございます」
夜、ルミエールのカウンター。
私の報告を聞いた瀬尾さんは、一点の曇りもない笑顔で祝福してくれた。その手の温もりが、迷う私の背中を優しく押す。
「ありがとうございます。でも、瀬尾さん……。責任が重くなれば、もっと帰りが遅くなる。あなたと過ごす時間が、また削られてしまうのが怖いの」
一度は自分の手で壊しかけた幸せだ。
仕事の成功と引き換えに、彼との日々を失うことだけは、今の私には耐えがたい。
すると、瀬尾さんは私の手を握り、いたずらっぽく目を細めた。
「それなら、いっそ一緒に住みませんか?」
「……え?」
唐突な提案に、私は思考が止まった。
「僕の店の上が、ちょうど空室になったんです。志保さんが今のマンションから移ってきてくれれば、あなたがどんなに遅く帰ってきても、一分でも早く僕が温かいスープを出せる。……僕が志保さんの『ホーム』になります」
驚きで目を見開く私に、彼は真剣な眼差しを向けた。
「仕事のあなたは僕が守る。だから、あなたは安心して、その翼を広げてください。もう一度、僕を、そして僕たちの未来を信じてくれませんか」
昇進という「社会的な成功」と、同棲という「私的な幸福」。
かつての私なら、どちらかを捨てるべきだと悩んだだろう。
けれど、瀬尾さんのまっすぐな瞳を見ていると、欲張りな私でいてもいいのだと、心の底から思えた。
「……信じるわ。あなたの隣で、もっと遠くまで飛んでみる」
私は彼の手を強く握り返した。
綻びかけた二人の糸は、今、より太く、しなやかな絆へと編み直されていた。
第34話、いかがでしたでしょうか。
ついに「一緒に住む」という言葉が飛び出しました!
38歳と34歳。大人だからこそ、自分の足で立ちつつ、互いを支え合う形を模索していきます。
いよいよ次話、第2部完結です。応援よろしくお願いします!




