第32話:瀬尾涼介の、本当の『有能さ』
お読みいただきありがとうございます。
第32話は、仕事での勝利の後に待っていた、真実の愛の形です。
自分の過去の傷を顧みず、志保を守り抜いた瀬尾。
二人の心が、再び強く結びつきます。
嵐のような一日が終わった。
クライアントの役員たちは、最後には笑顔で私と握手を交わした。
会社に戻れば、部長からは謝罪と称賛を受け、失態を演じた宇佐美君は別の部署への異動が内定したという。
けれど、今の私にとって、そんな勝利はどうでもよかった。
二十三時。私は、全速力であの坂を駆け上がっていた。
息を切らしながら『Lumière』の前に立つ。店の看板は消えていたが、中に明かりがついている。
震える指で、預かったままだった合鍵を差し込み、ドアを開けた。
「……瀬尾、さん」
店内に、コーヒーの香りはなかった。
代わりにあったのは、カウンターに広げられた膨大な資料と、何十枚もの計算用紙。
そして、その紙の山に突っ伏すようにして、深い眠りに落ちている瀬尾さんの姿だった。
彼の指先はインクで汚れ、パソコンの画面には、私が今日使ったあのレポートの編集画面がまだ開いたままになっていた。
彼は、かつて自分を壊した「数字の世界」に、私のためにだけ戻ってくれたのだ。
あんなに嫌がっていた証券マンとしてのスキルを、私を守るためだけの剣に変えて。
「……っ、ごめんなさい……バカね、私は……」
こらえきれず、涙が資料の上に落ちた。
私より若い子が似合うなんて、愛される資格がないなんて、なんて傲慢な言葉だったんだろう。
彼は、私の年齢も、立場も、プライドも、その全てを丸ごと抱えて戦ってくれていた。
「……志保、さん……?」
私の泣き声に、瀬尾さんがゆっくりと顔を上げた。
ひどいクマを作り、疲れ果てた顔。けれど私を見た瞬間、彼はいつもの、あの宇宙で一番優しい微笑みを浮かべた。
「……おかえりなさい。プレゼン、うまくいったみたいですね」
その言葉に、私は子供のように泣きじゃくりながら、彼の胸に飛び込んでいた。
第32話、いかがでしたでしょうか。
眠っている瀬尾くんの姿に、全てが詰まっていましたね。
「おかえりなさい」の一言に、志保だけでなく読者の皆様も救われていたら嬉しいです。
二人の和解を祝ってくださる方は、ぜひ評価やブックマークをお願いいたします!




