第31話:見えない場所からの、救いの手
お読みいただきありがとうございます。
第31話は、ビジネスの戦場での逆転劇です。
かつてのスキルを志保のために使い、陰から支える瀬尾。
二人の絆が、仕事という形を通じて再び繋がり始めます。
クライアント先の会議室。
冷房の効きすぎた空間で、私は三時間以上も頭を下げ続けていた。
相手方の役員たちの怒りは凄まじく、宇佐美君が犯した「数字の誤魔化し」は、長年築いてきた信頼を灰にするのに十分な毒だった。
「一ノ瀬さん、君を信頼して任せてきたが、今回の件はあまりに誠意に欠ける。契約は破棄、損害賠償の手続きに入らせてもらうよ」
決定的な宣告。指先が冷たく震える。
何か、彼らを納得させる「論理的な逆転劇」が必要だった。けれど、宇佐美君が隠蔽したデータの全貌が掴めない限り、これ以上の反論はできない。
その時、私のタブレットに一通のメールが届いた。
差出人は不明。件名もない。
けれど、添付されていたPDFを開いた瞬間、私は息を呑んだ。
そこにあったのは、今回のプロジェクトにおける財務リスクの完璧な再計算と、クライアント側にもメリットが生じる驚異的な「代案」のシュミレーションだった。
この緻密な数字の羅列。市場の動きを数手先まで読み切った、冷徹なまでの正確さ。
(……瀬尾、さん?)
確信があった。
かつて証券業界でエリートと呼ばれた男の、これが「本気」だ。
彼は店を閉めた後、寝る間も惜しんで、私のためにこの武器を作り上げてくれたのだ。
「……あと五分だけ、お時間をください」
私は顔を上げた。
先ほどまでの消え入りそうな声ではない。
瀬尾さんから届いた「最強の武器」を手に、私は再び一ノ瀬志保としての牙を剥いた。
「損害賠償をお支払いするより、御社にとって数倍の利益をもたらす『本当の数字』を、今ここでお見せします」
会議室の空気が、一瞬で変わった。
見えない場所で私を支えてくれる彼のために。そして、自分で自分を諦めないために。
私は猛然と、逆転のプレゼンを開始した。
第31話、いかがでしたでしょうか。
瀬尾くんの「本気」、かっこよすぎますね。
自分の過去のスキルを、大切な人を守るためだけに使う……。
そんな大人の愛の形に共感していただけたら嬉しいです。
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