第18話:鉄の女の、可愛い独占欲
お読みいただきありがとうございます。
第18話は、幸せの裏側にある「バレるかもしれない」というスリル。
そして、部下・宇佐美の鋭い観察眼が志保を追い詰めます。
オフィスのデスクに座り、パソコンを起動させる。
画面に映る数字の列は昨日と同じはずなのに、視界の端で揺れる自分の髪から、微かにいつもと違うシャンプーの香りがした。
(……落ち着かない)
瀬尾さんの部屋で借りた、シトラス系の爽やかな香り。
それが、私が昨夜「完璧な一ノ瀬志保」を捨てて、彼の隣で眠った何よりの証拠だった。
「一ノ瀬さん。おはようございます」
不意に横から声をかけられ、肩が跳ねそうになった。
見上げれば、宇佐美君がコーヒーカップを手に、品定めをするような目で私を見下ろしていた。
「……おはよう、宇佐美君。今日の定例会議の資料、もう共有できているわね?」
「ええ。……ただ、少し気になりまして。今日の一ノ瀬さん、なんだか雰囲気が柔らかいというか。……何か、いいことでもありましたか?」
彼の視線が、私の首筋や、いつもより少しだけ念入りに整えられたリップに向けられる。
宇佐美君は有能だ。だからこそ、私のわずかな「綻び」を見逃さない。
「別に、何もないわ。ただ少し、よく眠れただけよ」
「そうですか。……そのシャンプー、新調したんですか? いつものフローラル系じゃないみたいですけど」
心臓がドクンと鳴った。
踏み込みすぎだ、と一蹴すればいい。けれど、彼の言葉の裏にある「あなたの変化を知っている」という無言の圧力が、私を沈黙させる。
「……プライベートな質問は、控えてもらえるかしら。仕事に戻りなさい」
冷たく言い放ち、彼を追い払う。
けれど、彼が背を向けた瞬間、私は自分のデスクの下でギュッと拳を握りしめていた。
誰にも見せたくない。私を「可愛い」と言ってくれた瀬尾さんの温度も、二人だけの秘密も。
宇佐美君の鋭い視線に晒されることで、私は自分の中に、これまでにないほど強烈な「独占欲」が芽生えていることに気づいてしまった。
この秘密を、誰にも、一ミリだって触れさせたくない。
三十八歳の私は、仕事の成功を守る時と同じ——いえ、それ以上の必死さで、彼からもらった温もりを必死に隠し通そうとしていた。
第18話、いかがでしたでしょうか。
シャンプーの香りの変化に気づく部下……宇佐美くん、なかなかの強敵です。
志保の中に芽生えた「独占欲」が、今後どう物語を動かすのか。
続きが気になる!という方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いいたします!




