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アルディア大陸戦記~空を制する者~  作者: 杉本らあめん


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第6話 押し上げる戦線と忍び寄る影

 今日も空は快晴だった。ルーヴァリア王国空軍による補給線空爆は見事に成功し、ダッツ帝国軍の動脈を断ち切った。輸送路は焼かれ、補給は滞り、前線の敵部隊は急速に弱体化していった。


「301よりコントロール! 敵陣地、抵抗弱し! このまま突破する!」


「303よりコントロール、側面制圧完了。敵部隊が撤退を開始しています!」


「敵補給拠点を制圧。敵は食料・弾薬ともに不足の様子!」


 無線が次々と飛び交う。それは今までのような苦戦を知らせるものではなく、勝利の報告だった。地上部隊は、止まらなかった。これまで血を流し続け、散々押し込まれた前線が、嘘のように崩れていく。


「こちら前衛105部隊! 進軍速度、想定を上回る!」


「敵は統制を失っている模様。散発的な抵抗のみです。」


「よし、全陸軍部隊に告ぐ。このまま北部戦線を一気に押し上げろ。」


 その上空。編隊を率いる戦闘機の中で、レオン・アルヴィスタは静かにその様子を見ていた。


「…よく進んでいるな。」


 小さく呟く。その声には安堵と、わずかな警戒が混じっていた。


「順調すぎますね。」


 後方から通信が入る。本日付けでレオンの下に付くことになったガルド軍曹だ。彼もまたテストパイロットとして訓練をくぐり抜けた数少ない兵士だ。レオンは中尉昇進と同時に、初めてパイロットを部下に持つことになった。


「一方的ですね。」


「帝国に航空戦力はないからな。ここまで上手くいくものだとは思っていなかったが。」


 レオンは淡々と答える。この戦場は、完全に王国のものだった。


「地上は楽そうですね。」


「俺たちがそうしているんだ。」


「…違いありませんね。」


 軽口を交わしながらも、編隊は乱れない。上官と部下としての距離が、そこにはあった。地上での戦況を把握するため、オープンにしていた陸軍と管制との無線が再び割り込む。


「こちら107隊よりコントロール。敵補給部隊の残党を捕捉。 抵抗ほぼありません。」


「了解。撃破後、そのまま前進を継続せよ。」


「了解!107隊前進を継続。前進を止めるな!」


 勢いは、完全に王国側にあった。この勢いのままダッツ帝国南方の主要都市まで前線を押し込めるかもしれない。あれは工業地帯を多く抱えている。もし占領できれば、物資に乏しいルーヴァリアに大きな利益をもたらすに違いない。


 だが――

 順調に進んでいるその裏で、別の動きがあった。順調な時ほど人は油断をするものだ。


 夜。王国軍最北部、空軍飛行場。


「警備が想定より薄い。」


「空爆成功で油断しているのか。」


「前線を押し込むのに必死で出払っているのではないか。」


 ダッツ帝国軍・特務工作部隊が、闇に紛れて侵入していた。足音はなく、影のように動く。数人の警備兵も全く気づいていない。


「今のうちに格納庫に潜入する。」


「機体の確保を――」


 警備兵の目をたやすくかいくぐり、格納庫にて整備中のA-3操縦席を覗き込んだ工作員は眉をひそめる。


「…無理だ。」


「どうした。」


「計器も操作系も、帝国機と全く違う。訓練なしでは扱えない。」


 帝国軍司令部は飛ぶことは叶わずとも、陸を走らせるくらいならば、ぶっつけでもできるのではないかという見立てだった。それは大きな見当違いだったという事が分かった。


「動かすだけでもか。」


「動く前に気づかれる。」


 短い沈黙。


「…鹵獲は断念。」


 指揮官が低く言う。


「破壊に移行する。」


 素早く爆薬が設置される。手で持てる火薬の量は限られている。全壊は無理かもしれないが、数週間飛べなくするくらいならば…。


「設置したか。撤収だ。」


「了解。離脱する。」


 ドーーーーーーーーン!


 ――爆発。

 格納庫の一部が炎に包まれる。慌てて駆け寄る警備兵。


「なんだ!敵襲か!?」


「爆弾だ!応援を呼べ!水もだ!!」


 同時刻、空。


「…基地が見えたな。」


 地上の援護を終え、帰投中のレオンが前方を見据える。だが。


「…なにかがおかしい。」


 違和感。次の瞬間。閃光が走る。そして爆発。


「敵襲!?」


 ガルドの声が跳ねる。


「警戒態勢!」


 レオンの声が即座に飛ぶ。無線が混線する。


「基地内で爆発! 繰り返す、爆発!」


「正体不明の部隊が侵入した模様!動きを捉えました。」


「格納庫がやられた! 火災発生!」


 大混乱だった。


「敵を補足したい…。」


 レオンは即断した。


「ガルド、高度を下げるぞ。」


「了解!」


 戦闘機が急降下する。炎と煙の中、複数の影が動く。


「敵を視認!」


「撃ちますか!?」


 ガルドの声。


「待て!」


 レオンが制止する。


「味方が近すぎる。誤射の危険がある。」


 一瞬の静止。


「敵、煙幕展開! 視界不良!」


「くそ、見失った!」


 影は、闇に消えた。やがて、炎だけが残る。


「…やられましたね。」


 ガルドが低く言う。


「ああ。」


 レオンは答える。


「機体は大丈夫か…。」


「修理はできるのでは。」


「それでも――」


 レオンは燃え上がる格納庫を見下ろした。


「まさかここまで入ってくるとは。」


 その一言に、重みがあった。無線が再び入る。


「前線より報告! 進軍は依然順調! 敵は総崩れです!」


 勝っている。戦線は押し上がっている。

 それでも――


「…戦争は終わらないな。」


 レオンが呟く。


「むしろ、ここからかもしれませんね。」


 ガルドが応じる。空は制した。地上も押している。だが、見えない敵は、すでに内側へと入り込んでいた。若き指揮官は、その現実を静かに受け止める。


「ガルド。」


「はい。」


「警戒を強める。次は来る前に叩くぞ。」


「了解です、隊長。」


 その声に、迷いはなかった。戦線は前へ進む。

 だが同時に――

 戦いはより深く、抵抗は激しいものへと変わっていくのだ。

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