81話 自業自得、因果応報、身から出た錆
「アッハハハハっ!! いやぁ~……まだおっかしいよ……くくくっ」
城に滞在するらしいゴリアテと別れ、城を出る道すがら思い出したようケラケラ笑うのはサイデリアさんだ。
「いい加減になさい、サイデリア。 アルフレド様に失礼よ?」
「だってさぁ……アルフレドのヤツがあんなに感情出してんの中々見れないぜ? しかもあの絶望的な顔、面白くてしゃあないよ」
イザベラさんに諭されてなおサイデリアさんは喉の奥でくっくっと笑う。
「アンタ感情隠さないで普段からああいう感じでいなよ。 きっともっとモテるよ?」
「別に変えてるつもりは無いんですけどね」
ただ勝手に隠れてしまうだけで、俺は感情を隠す気は無い。 隠れきれないほど大きいものだとみんなにも見えるらしいが。
「して、これからいかがいたしましょうか。 まだ夕暮れ時には早いくらいですし、予定通りいたしますか? 色々あったので本日はお休みになられる、というのも選択肢の1つですが」
エーミールさんは話題を切り替えるように軽くパンと手を打って糸目で俺を見る。
「帰るには早いし、他に予定は無いのでさっきの店にまた行くのでいいと思いますけど……どうだ?」
訊くと、3人はそれぞれ頷いたり返事をしたりで肯定の意を示す。
「……それでいいみたいです」
「承りました。 馬車はご用意してありますのでこちらに」
エーミールさんの誘導に従って丁度差し掛かった曲がり角を曲がる。
ここはたしか出口に直通している道のはずだ。 やはり計算されたタイミングに感じてしまう。
「ならここでお別れね。 またいつでもいらっしゃい?」
イザベラさんは笑顔で小さく手を振る。 彼女らが付いて来るのはここまでのようだ。
「えぇ~? もうちょい遊んでけよ~。 この際本気じゃなくてもいいからアタシとバトろうぜ?」
しかしサイデリアさん不満そうに唇を尖らせる。
「……なら、ゴリアテとやったらどうです? そこらの騎士よりずっと楽しい戦いが出来ると思いますよ。 あいつ武者修行の最中らしいし、いい経験として受けてくれるでしょ」
本気でやらなくてもいい、となると別に俺でなくてもいいだろう。
そう思った俺は仲間に猛獣を押し付けることに決めた。
「……それだ。 いいじゃねぇーか! 前は貧弱勇者の御供その2って感じだったけど今ならイイ勝負できそうだぜ!」
サイデリアさんは目を見開き俺の顔を指差す。
「いやーアンタがあまりに魅力的だったから忘れてたよ! じゃ、アタシ行くわ、またな~!!」
そして居ても立っても居られないという感じで雑に手を振って駆けて行ってしまう。
骨は拾うぜ、ゴリアテ。
「嵐のような女だな……」
サイデリアさんが去って行った廊下をしかめっ面で見つめ、ヒルベルタは呟いた。
「もう、あの子は本当に……」
イザベラさんは巨大な三つ編みを揺らし、小さく溜息を吐く。
「俺に絡んでこないぶんには面白いですけどね。 それじゃあまた」
「ええ、またね」
イザベラさんと別れ、エーミールさんに連れられて城を出る。
そのまま用意されていた馬車に乗り、再び服屋に戻った。
◆
「二度手間になってしまいましたが、今度こそショッピングをお楽しみいただければと思います」
エーミールさんはどこか安心したようにも見える笑顔で扉を押す。
一度通ったからか、はたまた城に向かう時より速度がゆっくりだからか。 妙に長く、退屈に感じた道程を馬車に揺られて辿り着いたガラス張りの服屋。
その中に俺達は「ようやっと」という気持ちで入る。
「はえぇ~……いろんな色の服がいっぱい……」
目と首を忙しなく動かすリリィ。
彼女の言う通り、店内には様々な色や形の衣類が取り揃えられているが、ざっと見た感じだと、全体の比率としては落ち着いたものが多いような気がする。
「……いらっしゃいませ。 ご来店いただきありがとうございます」
奥に進もうとしたところで店員と思われる男性が現れ、頭を下げた。
背が高く品のある黒髪の中年男性で、かっちりとした紳士服が良く似合っている。
「こんにちは。 お久しぶりです、店長」
エーミールさんが中年男性――この店の店長に人好きのしそうな笑顔で手を振る。
「やはりエーミールさんでしたか。 本日は何をご所望で?」
店長氏は甘い響きの低音でエーミールさんに問う。
「僕のかけがえのない友人の方々に水着をと」
「あ、俺以外のやつをお願いします」
俺は女性陣を指差し、エーミールさんの要求を捕捉する。
「……承りました」
店長氏は頷き、青い瞳で俺達を1人1人を見る。
その視線は値踏みをしているという感じではなく、丁寧な性格が現れた行動に思える。
「こちら、この店の店長のエドガーさんです」
エーミールさんに紹介され、店長のエドガーさんは長身を折り深々と頭を下げた。
「水着をご所望でしたね。 それではこちらへ」
エドガーさんは淡々とした口調で向かって右の方を手で指す。
物腰は丁寧だが、彼はどうにも接客に慣れている感じではないように思う。
「彼は基本“作る“専門ですから」
察したエーミールさんに無駄に近い距離から囁かれ、一人納得しながらエドガーさんに付いて移動する。
広い店内を歩いて数十秒、連れて行かれた場所はこの店にしてはかなりカラフルな空間となっていた。
「女性用水着はこちらにあります。 御用がありましたらあちらの……」
エドガーさんはそこで言葉を切って、俺達とは違う方を見る。
「――ヴェラ! こちらへ来てください!」
よく通る太い声で誰かを呼ぶ。
呼んだ方の棚の影から、ひょっこり顔を出したのは、翠と赤が入り交じった派手な髪をした若い女性だった。
「はぁ~い、ただいま~!」
ヴェラというらしい女性は整理の最中だったらしく、高い声で返事をした後持っていた服をテキパキと畳んで棚に置き、早足でこちらに向かって来る。
「こちらの方々が女性用の水着をご所望です。 ご相談にのって差し上げなさい」
「はぁい、かしこまり~」
エドガー店長の低音で丁寧な物言いに対して、ヴェラ店員は高い声で軽~く頷く。
「では、私はこれで。 あとの事は彼女にお尋ねください」
深々とお辞儀をし、エドガーさんは去っていく。
接客が得意でないということもあるだろうが、女性の水着を選ぶということに対して気を使ったのかもしれない。
「ウチの店長ブアイソでごめんなさ~い。 ここらへんはアタシの担当ですんで何でも訊いてくださいねぇ。 好きに手に取っていただいて結構ですよ~」
ヴェラさんは笑顔で俺達の方へ向き直ると、ハイテンションなのかローテンションなのか分かりにくいぽわぽわした早口でそう言って再び仕事に戻ってしまう。
「とは言っても……何を選んでいいのやら分からないっス……」
「確かに、早速で悪い気がするけど相談乗ってもらおうかしら」
色とりどりの水着の海に取り残され途方に暮れた様子のリリィとクリスタ。
そこで俺はふと、傍らに“とてもイイもの”が置いてあることに気づく。
ふむ……
「……いや、その必要は無い。 俺が選んでやる」
「えっ? あんたこういうセンス大丈夫な人だっけ?」
明らかに訝しむクリスタに「当然だ」と返し、横の棚から“それ”を取り上げる。
「まず、リリィがこれ」
俺はリリィに対して、紐に辛うじて布が付いただけのセクシーを3周回ったようなやつ取り上げ、見せつけた。
「っ……!?」
リリィは真っ赤な顔であんぐりと口を開けて絶句している。
想像通りのリアクションである。 満足満足。
「……そういえばアンタの“お宝”に巨乳エルフものがあったわね」
「待て俺が悪かった冗談だ」
俺は水着なのかどうかすら分からない物体を置き、信じられないほど冷たい目をした幼馴染に縋り寄る。
「なんと……!? や、やはり旦那様は私のことが……っ!?」
リリィに負けないほど真っ赤な顔を両手で押さえ、ヒルベルタは俺に熱い視線を向けてくる。
自業自得、因果応報、身から出た錆とはこのことだ。 この件に関しては100パーセント俺が悪い。
クリスタに大変な秘密を……急所を思い切り握られているのをつい忘れていた。
「こ、これは……紐?布……? し、しかし師匠が言うのであれば自分は……!」
そうこうしているうちにリリィの覚悟が完了してしまっている。
いや、混乱しているだけか? 何はともあれ……
「店員さーん! 早く来てくださーい!」
「あっはっはっはっはっ!」
腹を抱えて笑うエーミールさんをほんの少し憎らしく思いつつ、俺は今日何度目かの大声でヴェラさんを呼んだ。




