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67話 ブラオ・シュナーベル


「あ、ちなみに投げ込まれたお金は定期的に回収されてこの噴水や周囲の公園等の整備に充てられておりますので、完全にムダとはならないかと」

「なんか夢の無い話ね……いや、いい使われ方ではあるんだけど」


 ぶっちゃけた話にクリスタは顔を顰め、リリィは苦笑いをした。

 俺としても、「先に言ってくれ」と言いたい。


「皆さんお願いを終えたようなので次に――と言いたいところですが、その前に。 こちらに少しお下がりください」


 俺達のそんな態度を気にも留めていない様子で、エーミールさんは笑っているのかそうでないのか本当に分かりにくい含みのある表情で横に来るように手招きをする。

 そんなエーミールさんを訝しみながらも、俺達は促されるままに彼の横に立ち噴水の方へ向き直る。


「では、5・4・3――」


 すると、謎のカウントダウンを始めるエーミールさん。


「2・1……」


 パチン、と指を鳴らしたその直後。 噴水の至る所からまるで光線のように勢いよく、大量の水が噴き出した。


「うおおおお……っ!?」


 3階建ての建物程まで昇る水柱にリリィ体をのけ反らせて驚きを表す。


「……何これ……」

「……おぉ」


 クリスタとヒルベルタの2人も程度の差はあれ目を丸くしている。

 大体2~3分ほどだろうか、様々な角度やリズムで水が噴き出し、終わった頃には上質なエンターテイメントを見たような気にさせられていた。

 単純に小気味よい連射に見ごたえがあったのもあるが、何より噴き出した水がその上空に虹を作っていたからである。


「ふおおおぉ~……!」

「……なるほど、だから『虹の泉』なわけか」


 キラキラとした瞳で間の抜けた声を上げるリリィの横で、俺は一人納得した。


「そういうことです。 日の出方もあって虹が見られる時間には結構ギリギリだったので、タイミングも合わせて運が良かったですね」

「つまり、これも狙ってたわけね……」


 クリスタはもうエーミールさんへの懐疑的な感情を隠す気もなさそうだ。 今の彼女にはその笑顔がいたく胡散臭く見えていることだろう。


「上手くいくかどうかは言った通り運任せでしたよ? 天候ばかりは操れませんから」


 エーミールさんがそう言って背を向けたその先から、俺達全員が乗れそうなほどの大きさの馬車がこちらに向かって来るのが見えた。


「どうします? もう少し見ていかれますか?」


 馬車と虹とを交互に指差しエーミールさんは俺を見る。 別に決定権を持っているわけではないんだがな。

 しかし委ねられたのなら動かなければいけない。 とりあえずクリスタへ目配せをする。


「“丁度”馬車があるんなら、乗ってってもいいんじゃない? ねぇ?」


 幼馴染は俺の視線からノータイムで察し、エーミールさんをチラリと見て、一番近くに居たヒルベルタに回答権を回す。


「……っ!」


 クリスタの声にヒルベルタは肩をビクッと動かす。 反応も一瞬遅れていたように見えた。

 それもそのはず、体こそエーミールさんの方へ向けられていたものの、首は噴水の方へ向いていたからだ。


「……わ、私はこの程度で心動かされることなどありえませんので。 旦那様がそうしたいのであれば異論はございません」


 澄ました表情を作るが、頬が赤い。 じっと見つめると耳まで赤くなっていく。


「…………おいっ! 貴様、もう行くぞ!」

「――へぇあっ!? は、ハイっス!!」


 耐えきれなくなったか、ヒルベルタは俺から思いきり顔を逸らし、虹を見上げて固まっていたリリィの肩を引く。


「もういいのか?」

「ハ、ハイ。 目に焼き付けたっス」

「……そうか」


 少々名残惜しい様子ではあるが、滞在期間を考えれば見ようと思えばまた見られるだろう。 今回は次に行こうと思う。


「じゃあ、行くってことで」

「……では、御者の方に話を通しておきますね」


 エーミールさんはくっくと含み笑いをして、もう目前まで近づいていた馬車へ駆け足で近づいて行った。


「お前、(オモチャとして)相当気に入られたみたいだぞ」

「……? よく分かりませんが、私は旦那様一筋ですのでご安心を」


 ヒルベルタは小首を傾げ、さりげない動作でスルリと俺の手を取る。

 何を安心しろと言うのか。





 エーミールさんの語る建物や施設などの蘊蓄を聴いたり聴かなかったりしつつ虹の泉から馬車に揺られて約20分、馬車が何の建物も無い開けた道の端で止まる。

 馬車から出てみれば、そこは町の広い範囲を見渡せる高台であることが分かった。 ここから見えるのは建築様式の建物が雑然と並んだ町並み――いわゆる一般市民の暮らす区画のようだ。


「へぇー結構眺めいいじゃない」

「なるほど、この下はこうなってるのか」


 胸くらいの高さの柵から下を見てみると、大きな建築物の屋上がそのまま歩道に繋がる変わった造りをしているのが分かった。


「――師匠、先輩! こっちこっち!」


 声の方を振り向くと、リリィが瞳を輝かせてこちらに手招きしている。

 彼女が指差す先を見ると、地面から生えた巨大な青い水晶があった。


 水晶は直径10メートル、高さは20メートル以上もあろう巨大さで、先端にかけて緩やかに曲がり、太陽の光を受けて強い輝きを放っている。


「『ブラオ・シュナーベル』……やはり王都を案内するのであれば、“ここ”は外せないと思いましてね」


 巨大水晶を見つめ、エーミールさん腕を組む。

 彼の解説によると、あれは内部で膨大な魔力を生み出し続ける天然の鉱石で、町で使われる生活用の魔力の4割を賄っているそうだ。


「以前は生活のほとんどをあの水晶に頼っていましたが……近年内部の魔力量の大幅な低下が問題視され、現国王――ラントの命によって改革が行われることで、7年程前からかつての輝きを取り戻すにいたりました。 ただ無計画に使用量を削減するのではなく、水晶自身の自然回復量を見極めることによって……」


「綺麗……」

「そうね、あれだけ大きいのにあれだけ透き通ってるなんて……」


 エーミールさんが長々語るものの、聴いている者はほとんどおらず、皆その美しさに見入っていた。


「おっと、あの美しさの前には僕ごときの言葉など耳に入りませんね」


 しかしやはり気にした様子もなく、俺に向けて大袈裟に肩を竦めてみせる。


「俺は結構面白く聴いてましたけどね」

「おや、そうですか?」

「綺麗な物とかよりかは興味ありますね。 遠目とはいえ、アレは何度も見たことあるんで」

「なるほど、それではもう少しだけ」


 人差し指をピンと立ててエーミールさんは再び語り出す。


「そもそも、魔力を生み出す鉱石というのはさほど珍しくありません。 しかしあれほどの大きさで、更に地表に露出しているものとなると世界でもあのブラオ・シュナーベルだけと言われています」


 確かに似たようなものなら何度か見たことがある。

 しかし、どんどんエンジンがかかってきている感じからしてさては根っからのおしゃべりだなこの人。


「そのため、先の大戦で魔物の軍勢が何度も王都に攻め入ろうとしたのはあれを狙ってのことだ、という推測もあったようですよ」

「なるほど、そういう考えもあったかもですね」


 だた、聴いていてつまらないというわけでも無い。 綺麗な景色とか宝石とか、そういうものよりよっぽど面白みがある、と個人的には思う。


「2人して色気の無い話ねぇ……リリィが近くに行きたがってるんですけど、連れて行っても?」


 男の会話を溜息で遮り、クリスタは巨大水晶とそれに近づきたくてうずうずしている様子のリリィを指差す。


「もちろんです。 全貌を見るにはこの位置がベストではありますが、近くに行けばより迫力が感じられますからね」


 エーミールさんは笑顔で頷き、やはりどこかで見た観光ガイドのような言動でリリィ達を先導して歩いて行く。


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