55話 答える必要は無い
「……これって、俺も犯罪者みたいじゃないですか?」
暴行の現行犯と共に罪人連行用の馬車に揺られる中で黒衣部隊の2人に、俺はふと疑問を口にする。
「…………」
しかし2人は小さく頭を下げるだけで何も言ってくれなかった。
一応この馬車の御者とは小声で会話していたし、声を出せないとかではないはずだが、否定なのか肯定なのか、これではそれすらも分からない。
普段俺の無表情に困っている人もこんな気分なのだろうか。 だとしたらこれ以上どうこう言えない。
そんなこんなで約15分後、馬車は巨大な石造りの城の前に着いた。
御者の合図からほどなくして、これまた巨大な木の城門が大袈裟な音を立てて開き、馬は早足でその中に入る。
少し進んで、沢山の馬車が並ぶ広い空間に出たところで、クロードさんがこちらに歩いて来るのが見えた。
「おう、アルフレド。 どうやら釣れたみてェーだな」
「ちょっと拍子抜けするくらいでしたが……運の良いことにね」
チラリと反勇者派の男を見ると、ギロリと睨み返される。
「お前らはもう下がっていいぞ。 ご苦労だった」
「…………」
黒衣の騎士達はクロードさんに腰を曲げて敬礼をし、静かにどこかへ歩いて行った。
結局声は聞けずじまいだったな。
「さあ、テメーは俺と来てもらうぜ。 アルフレド、お前もな」
クロードさんは眼鏡をクイと上げてレンズをキラリと光らせる。
俺は頷き、男の腕を引いて行く彼の後ろに付いていく。
「……ここだ、入れ」
赤いフカフカの絨毯の廊下をしばらく歩き、片隅にある一室に通される。
開かれた扉をくぐると、中には既に2人の男女が居た。
別々のソファーに座っていた2人の男女は、部屋に入った俺に反応してこちらを見てくる。
この2人はやはり――
「……これは、随分豪華なメンツですね」
俺が肩を竦めると2人のうち男性の方が立ち上がり、俺の方へ歩み寄って来る。
「いやぁ~お久しぶりです、アルフレドさん。 お変わりないようで何より」
先ほどまで一緒に居た騎士達と少し違う襟の高い黒い衣に身を包んだ糸目の若い男は、胡散臭い程にこやかにそう言って両手を差し出す。
彼の名はエーミール。 シュラハト騎士団黒衣部隊の隊長『霞刃』のエーミールだ。
俺はその手を取って握手をしながら軽く頭を下げる。
「お久しぶりです、エーミールさん。 あなたもお変わりないようで。 その様子だと、正式に隊長になったんですね」
確か、前任者が人魔戦争の途中で戦死し、彼は隊長代理として部隊を率いていたはずだ。
今も隊長の証である特殊な黒衣を着ているということは、そのまま隊長に就任したということだろう。
「未熟者には大変ですがね。 ほら、見てください心労からの寝不足で目が赤くなってる」
とは言うものの糸目なので分からない。 ちゃんと前が見えているのかそれは。
「あまりアルフレド様を困らせてはいけませんよ、エーミール」
先に部屋に居た女性の方が、ゆったりとした動作で純白のローブを揺らし立ち上がる。
ボリュームのあるピンクの髪を巨大な三つ編みでまとめており、見た目は中々に派手だ。
「どうも、イザベラさん。 相変わらずピンク色ですね」
「うふふふっ、こんにちは。 怪我も無いようで良かったわ」
イザベラさんは強烈なビジュアルとは裏腹の柔らかい笑顔を見せる。
おっとりとしてどこか神聖というか、俗世から遠い、アンリアルとでも言うべきか――不思議な存在感がある。
そんな彼女も、四天将の1人――シュラハト騎士団の中でも最精鋭部隊と名高い銀盾部隊の隊長だ。
つまり、この場には四天将のうち3人が揃っているということになる。
一般人が一度に彼らを見れる機会など、それこそ大きな催し物の時に遠くから、という程度だろう。 ファンにはたまらない空間と言える。
出来ればリリィも連れて来たかったが……まあこれ以外の機会もあるだろう。
「サイデリアさんは……やっぱり居ませんか」
「ええ、彼女は自室に閉じ込められて始末書と大嫌いな書類仕事に追われていますよ。 まあ、方々に迷惑をかけたので仕方なし、ですね」
エーミールさんは口元で辛うじて笑顔だと分かる表情で頭を振る。
正直やらかしに対して見合う罰ではないが、サイデリアさんには一番効くだろう。
「和やかにすんのもそこまでだ。 わざわざ希望したからにゃあキッチリ尋問を手伝ってもらうぜ」
「おっと、怒られてしまいましたね」
大袈裟に肩を竦めるエーミールさんをクロードさんは諌めるように睨む。
「おお怖い怖い……と冗談はさておき――」
エーミールさんは血のように赤い髪を指で弄びながらほんの少しだけ目を開け、クロードさんの傍らに立つ来た反勇者派の男の方へ鋭い視線を向ける。
「彼が、反勇者派の手先ですか……思ったより普通ですね」
「そりゃそうだ。 アルフレドを殺ろうとした時も“視てた”がコイツはまったくの素人だからな」
言いながら、クロードさんは男を近くの椅子に座らせる。
「視てた……ってことはやっぱり千里眼使ってたんですね」
「その劣化版、な。 俺のは“眼”になる魔力を飛ばさねェーと遠くを見られない出来損ないだ」
彼の眼も、カトリさんと同じ魔眼だ。 能力は言った通りのもの。
この眼を用いてまるで天から戦場が見えているかのような(事実見えているのだが)部隊指揮をすることから『天眼』の異名を持っている。
「完全な単独犯なんですか? 捕まらなかっただけで、他に仲間が居たとか」
「いや、アルフレドの周囲も視たが、他に怪しいヤツは居なかった。 コイツの独断先行だろう」
クロードさんは眼鏡を上げて、反勇者派の男を見る。
能力の特性故か視線などまったく感じなかったが、どうやら俺はじっくり見られていたらしい。 まあ見られて困ることはしていないので問題無いが。
「なるほどなるほど、仮に拷問するにしても1人じゃ意味が無いですからね。 出来れば複数人捕まえられればと思ったんですが……居なかったのなら仕方無い」
表情を一切崩さず、それどころか口角を微かに上げて、エーミールさんは頬杖をつく。
物騒ながら彼の言っていることはもっともだ。
拷問は苦痛から抜け出したくて適当な情報を吐く可能性がある。 そのため何人も同じように拷問にかけ、情報のすり合わせをしなければならないのだ。
「チィッ……やはり勇者などを崇めている集団は卑劣極まりないな!」
「否定はしねェ。 聖人君子じゃあないんでな」
少し皮肉っぽい笑みでクロードさんは襟を正す。
「……ねぇ、わたしから一つ聞いていいかしら? どうしてあなたは勇者達を殺したいほど憎んでいるの?」
イザベラさんは寄り添うような優しい声色で男に尋ねる。
「貴様らに答える必要は無い」
しかし、男はそれを突っぱねて目を瞑り黙り込んでしまう。
「取り付く島もないですねぇ……ここまで来て黙秘したところであなたに得は無いでしょう?」
「……損得など、どうでもいい!! 貴様らに話すことなど何も無い!!」
男は自分の腿をバンと叩き、声を荒げる。
その目には黒い炎が燃えているようで、有無を言わせない雰囲気があった。
「うーん、これは、厳しそうですね……」




