53話 “釈放”だ
「やることは一つ。 反勇者派を1人、現行犯でとっ捕まえる、その手伝いをしてほしい。 具体的には……」
クロードさんはクイっと眼鏡を上げる。
「街を適当に歩いてもらう。 なるべく無防備にな」
飛び出した作戦はなんとも単純なものだった。
彼の説明によれば、反勇者派のボス……ゲオルクは俺のことも『勇者の協力者』という認識程度ではあるが知っている。 反勇者派のメンバーにはそれも周知されている可能性は高い。
そうなると反勇者派としてはおそらく俺も憎悪の対象……それを利用した作戦らしい。
「町の人間を捕まえるとなっちゃあ捕まえんのも正当な理由がいる。 勇者の悪い噂を流しているから逮捕、っつーわけにはいかねェ」
「だから俺に無防備に出歩いてもらって、反勇者派に襲い掛かってきてもらおうってことですか? それで現行犯逮捕しようと」
やりたいことは理解出来るが、クロードさんにしては雑というか、効果的だとは言い難い。
「確率の高い作戦じゃねェことは分かってる。 だが、取れる手を取らない理由にはならん」
「まあ、表立って動く“前”の相手を潰そうと思ったらこういうのになりますか……カラ振ってもリスクはほぼ無い」
成功したら俺にリスクがあるわけだが、そこは目をつぶろう。
「今やろうとしてんのは芽を摘むどころか種を回収する作業だ。 土を無理矢理ガバッと掘り起こすんでもなけりゃこういうジミ~な作戦になっちまうのさ」
「他にも細々と動いちゃいるが、雑な囮作戦でもこれをやれんのはごく僅かな人間しか居ねェ」
確かに、と俺は頷く。
本物の勇者パーティー……世間的に知られているロイ、アイリス、ゴリアテのうち誰でもこの作戦は可能だが、まかり間違って暗殺を成功されては一大事だ。 その点、俺なら殺されても問題は無い。
「少し違うな。 お前ならまかり間違っても殺られねェーからだ」
「いやー物事に、特に戦闘において100パーセントは無いですからね」
「そりゃまあそうだが……反勇者派ごときにお前を殺せるヤツが居るんなら、むしろ取り込みてェーくらいだぜ」
皮肉っぽく笑ってクロードさんは肩を竦めた。
「というか、今理解しましたよ。 俺が顔隠されて牢にブチ込まれた理由」
「ああ、話してなかったな。 お察しの通り、反勇者派にお前が町に入って来たのがバレるわけにはいかなかったからな。 その前に隠して引っ張ってくる必要があったんだ」
やっぱりそうかと俺は頭を振った。 しかしこんなふうに手錠までかける必要はあったのだろうか。
「回りくどいだろ? 反勇者派にバレたくなけりゃアンタんトコで話せば良かったのにって思わないかい?」
「それはそれで……管理出来ない人間に知られたくないのは分かりますしね」
外で直接会うってことをせずに牢に入れたのも、「四天将の名前を出して押し入ろうとした不審者を捕縛。 国王杯の直前とあって警戒した四天将が自ら不審者を尋問」とかそういう感じの名目だろう。
「まさしくそういうことだ。 説明の手間が無くて助かるぜ」
「出来れば最初に言ってほしかったんですが……まあいいでしょう。 それよりこの作戦が上手くいくかの心配がどうしてもありますね」
成功率がお世辞にも高いとはいえない作戦だが、成功しなければここに危険を冒してまで来た意味が無いし、何より反勇者派なんてふざけた集団は俺の手で潰したい。
「運任せ、というか相手の気分任せではあるが……当たり前の話ヤツらにも温度差がある」
「どうやら熱心に噂をバラまいてるヤツが1人2人いるらしい。 そういう熱の入ったヤツなら引っ掛かってくれるんじゃないかい?」
ボスは妬み嫉みで嫌がらせをしたいだけのようだが、本気で勇者達を恨んでいるだとか憎んでいるような者も居る、らしい。
俺には理解出来そうもないが、別にする必要も無いと思い直す。
「ま、引っ掛かってくれることを祈って町歩きしましょうか」
「そうしてくれ。 ただ、明日1日だけでいい。 明後日にゃあゲオルクが“外”の仕事から帰ってきちまうからな」
クロードさんがそう言うと、サイデリアさんが気まずそうに目を逸らす。
「どっかの『バカ』がフザケたことをしやがったせいで作戦に使える時間が無くなっちまったもんでなァ……」
「ど、どっちにしろ3日も4日もただ町歩かせるわけにはいかねぇだろ? 1日くれーが丁度いいって!」
ギロリと睨まれサイデリアさん早口で弁解をするが、クロードさんの怒りは収まらない。
「黙れ。 スケジュールに余裕が無くなったのは言い訳のしようもねェーだろが。 その上緊急用の転移石まで使いやがって……テメーのせいで城に溜め込んだ魔力が目に見えて減ってんだよ」
「それは、そのー……ほら、ちゃんとアタシの魔力で補充しとくからさ? な? 許してくれよぅ……」
両手の人差し指を合わせてクロードさんを窺う視線を向ける。
舌を出したのもそうだが、案外仕草は少女っぽいところがあるなこの人は。
「……んなモンは当たり前だ。 キッチリ始末書も書かせっから覚悟しとけや」
「うげぇっ!? マ、マジかよ~!?」
サイデリアさんは冷徹な宣告に頭を抱え、ガックリとうなだれた。
まあ当然の報いであると思うので、俺は助けない。
「さあ、“釈放”だ。 ワリィが今日は一晩野営してくれ」
「分かりました、そんでしれっと別の門から入りますね」
頷いて、クロードさんは俺の服のポケットにそこそこの金を突っ込んだ。
「時々路地にでも入りつつ、ソイツを使って観光でもしな。 黒衣部隊のヤツらにお前を見張らせるから、気は休まらねェだろうけどな」
少し申し訳なさそうにそう言って、牢の外に待機していた騎士を呼びつける。
「失礼します。 恐縮ですが、また顔を隠させていただきます」
「はいはい、優しくしてね」
麻袋を被せられる直前、最後に見たのは、肩を掴まれこの世の終わりのような顔で連れて行かれるサイデリアさんだった。




