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51話 王都までフッ飛ばす


 俺は最低限の準備を終え、クリスタ、リリィ、ヒルベルタ、そしてフェリクスと共に町の門を出る。


「……お、来た来た。 流石行動が早いね、助かるよ」


 悪い予感に頭の中を支配される俺を出迎えたのは、笑顔のサイデリアさんと、鉄仮面の上からでも困惑している様子が伝わってくる紅剣部隊の皆さんだ。

 部隊の人数は30人くらいか、大将が引き連れるにしてはかなり小規模に見える。


「先に訊いときたいんですけど、これだけ居てなぜ誰も期日の問題に気づかなかったので?」

「はっはっは……いやーこれは全部アタシが悪いんだよ」


 頭を抱えて首を横に振るサイデリアさんを庇うように、そこそこベテランらしい騎士が兜のバイザーを上げ、前に出る。


「申し訳ございません。 我々の確認不足です。 なんとお詫びすればよいか――ぐぉッ!?」

「待て待て待て。 勝手に責任被りにいくんじゃないよ」


 ベテラン騎士の首根っこを引っ張り強引に退がらせると、サイデリアさんは幾分真剣な表情を見せる。


「コイツらには24日までに着けばOKだってアタシが伝えちまったんだ。 それでダラダラ遊ばせちまったのもアタシのミス。 全ての責任はアタシにある」


 そう言って紅剣部隊の隊長は、一般人の俺に深々と頭を下げた。


「埋め合わせも後でアタシが責任をもってちゃんとさせてもらう。 すぐにはどうにも出来ないが、今の所はそれで許してほしい」

「……まあ、グチグチ言って何か事態が好転するわけじゃありませんしね。 もう、頭上げてください。 簡単に下げちゃいけない頭でしょ」


 この人に真剣に謝られるとどうにも居心地が悪い。 さっさとその頭を上げてもらう。


「簡単に下げたわけじゃあない、その必要があったから下げたのさ。 埋め合わせについても、何でも言ってくれていいよ」 

「何でも……つまり、エッチなことでもいいと?」

「おいコラ」


 場を和ませる意味でふざけてそう言うと、クリスタに頭を小突かれた。

 ついでに紅剣部隊の何名かの鋭い視線が針のように突き刺さってくるのに気づく。 藪蛇だったか。


「あっははははっ! いいよいいよ、乳でも揉むかい?」

「やめときましょう。 後が怖そうだ」


 色々とね、と付け足して、俺は一つ息を吐き思考を切り替える。


「……で、どういう“手”で俺を王都まで送るんです? 何となく察しはついてますが」

「おーそれな。 やるこたぁシンプルだよ。 まず、アタシ1人なら『転移石』で帰れるからね。 問題はアンタをどうやって王都に送るか。 そこで、だ……」


 言いながら、サイデリアさんは腰の剣を引き抜いた。

 稲妻のように波打った金色の刀身が露わになる。


「それは、もしかして、『天雷剣』……!?」


 今まで控えめに後ろで立っていたリリィが、剣に誘われるように俺の横に出てきて目を見開く。


「ほう? 流石に騎士志望なだけあって知ってるか」


 剣を肩に担いでサイデリアさんは笑う。

 彼女の剣も俺のウンディーネと同じ、古代の技術によって作られたアーティファクトだ。

 この剣でいくつもの武勲を打ち立ててきたことで、『天雷剣』はサイデリアの名に追随して高い知名度を誇る。


 ……まあ、それはいい。 問題は、“なぜここで取り出したのか”だ。


「決まってんだろ。 コイツでアンタを王都までフッ飛ばすのさ!」


 カラッとした笑顔でサイデリアさんは言う。


「はあああっ!? 何よそれ!ムチャクチャだわ!?」


 クリスタが目を丸くして声を荒らげる。

 もちろん、それぞれ程度はあれど皆驚きの表情を浮かべていた。


「ムチャクチャってほどでもない。 アルフレドに限ってはね」

「いや、ムチャクチャですよ?」


 俺を指差すサイデリアさんに手を振り否定する。


「……フッ飛ばすってのはちょっと違ったね。 正確に言うと、アタシが剣でアンタをぶん投げる」

「一緒じゃないっスか……」


 リリィの言う通り。 言い方が変わっただけで一緒である。 俺の人権はどこへやら。


「鳥人間コンテストってあるだろ? それにあれだ、昔の戦術に人間砲弾ってのがあってだな……」


 人間砲弾?鳥人間コンテスト? “人間”つけときゃ人権あるように聞こえると思うなよ?


「……やるよ、やりますよ。 もう方法無いし。 そのかわりマジで何でも言うこと聞いてもらいますからね」


 もうどうにでもなれだ。

 わざわざ俺を呼びつけた意味のある話だと、こんなことをしてでも行く価値のある話だと、そう祈るしかない。


「ああ、もちろんさ! さあ、早速やろうか!」


 何故そんなにノリノリなのか。 俺は促されるままサイデリアさんの剣の上に乗る。


「え……? 本気でやるつもりなの……?」

「……まあ、俺だからイケるイケる」


 まだ信じられないという様子で見上げるクリスタ。 彼女をこれ以上心配させないよう俺は努めて軽く言ってみせる。

 怪我くらいするかもしれないが、俺が上手くやれば大丈夫だと信じたい。


「師匠なら、きっと、大丈夫……だと思うっス、ファイトっス!」

「お、お気を付けて……」

「うん、ありがとう」


 雑に2人に返事をして、フェリクスの方を振り返る。


「町の事は頼む」

「ああ、任せろ。 お前も、気を付けてな」


 確かな決意を感じさせる瞳でフェリクスは頷く。 最後に苦笑いをしたのは、俺のシュールな状態のせいだ。


「着くころにはアタシが話通しとくから、門番に……そうだな、クロードの名前と「サイデリアに連れてこられた」って伝えな」

「了解しました。 無事ならそうします」


 少々の皮肉を込めて答え、俺は空を見上げる。 悲しいくらい青空だ。


「そうそう、流石にアタシがぶん投げるだけじゃ届かないだろうから、アンタもタイミング合わせて跳んで、魔力を噴射して加速を維持するんだ。 後はその剣広げて滑空するとかで調整しな」


 俺の武器を計算に入れて考えられる頭がありながら、どうしてこのような状況に陥ってしまったのか。 ボヤいても仕方がないので無言で頷いた。

 3カウントでいく、という提案にも黙って大人しく頷き、安全の為皆を退がらせてその時を待つ。


「天雷剣……」


 持ち主の呼びかけに応えるように、天雷剣がバチバチと電気を帯びて輝きだす。

 感電しないのかと少し心配になったが、そこは気を使っているらしくほんのりと足下が温かい程度だ。


 剣から発せられた電気がサイデリアさんの腕を伝って全身に移る、まるで雷の衣を纏ったように。


「……射角よぉし! いくよォッ!! 3、2、1――オッラァァッ!!!!!」


 気合と共に剣が振り上げられる。 同時に俺も全力で跳躍をする。


 誠に遺憾ながら、呼吸はピッタリと合った。

 普通の人間ならこれだけで確実に死ねる加速度を感じながら、俺は矢のように風を切り、文字通りフッ飛んだ。



 時間して数分程度だろうか。 優雅とは言い難い空の旅をしていたところ、真正面に王都らしき石壁が小さく見えた。

 魔力の噴射を止め、ウンディーネを鳥の羽のように広げて速度を調節しつつ空を滑るように前進する。


「……本当に着いちゃったな」


 勢いが失われてきたあたりで徐々に高度を落とし、安全な着地をしながら俺は独りごちた。

 まだ1キロ以上はあるだろうが、王都自体が大きいのでまるで目の前にあるようだ。


 結果的には15分かそこらで、それも無傷で、王都の近くまで来ることが出来たわけか。 画期的で素晴らしい輸送方法である。

 なんとも腹立たしい話だが、サイデリアさんはそろそろ転移石で先回りしているだろう。 一つ溜息を吐いて、俺は王都に向かい歩き出した。

 伝達時間も考えゆったりと歩いていくことにする。


 近づいてくる久しぶりの王都は、勇者と――ロイ達と別れた時そのままだった。


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