50話 3名様ご案内
「……まあ、アンタが決めたんだ。 アタシにゃ見えない才能があったんだろうね」
自分を無理矢理納得させるように頷き、サイデリアさんはリリィに向き直る。
「なんだ、疑って悪かったね」
「い、いえ……師匠の弟子として自分がふさわしくないのは分かってるっスから」
なら良かったとサイデリアさんは息を吐く。
「で? アンタ、武術大会に興味あるんだって?」
「は、ハイ……自分は騎士を目指しているので、色んな人の戦いを観れる機会があるのなら無駄にしたくないと……」
確かに、戦争中につき休止されていたが、国王杯は昔から行われていた伝統ある大会だ。
故に、それなり以上の使い手が沢山居るはず……リリィにとって良い学びの場になることは間違いない。
……いや、いっそのこと――
「ほー? やる気があるのはイイ事だ。 なら一緒に王都に行くか?」
「で、出来れば……」
リリィはチラリとおやっさんの方を見る。
「……ん? 何だ、休暇が欲しいってか? いいぞいいぞ、行ってこい!」
「あ、ありがとうございますっ! もちろん給料はいらないし、帰ってきたら休んだ分働くので……!」
視線を察して豪快に笑うおやっさんに、リリィは深々と頭を下げた。
「おおっと、これはアンタ達に迷惑かけた詫びでもあるんだ。 金は出すから、有給休暇ってことにしときな」
2人に割り込む形でサイデリアさんは言う。
「もちろん送迎だけじゃなく、宿泊費やら諸々の面倒も見る。 ほかに行きたいやつはいないのかい? 何人でも構わないよ」
サイデリアさんが皆の顔を見渡すと、1人手を挙げる人物が居た。
「……あたし、行くわ。 アルが仕事してる間リリィ1人はちょっと心配だもの」
クリスタだ。 なんとも彼女らしい理由だが、正直言うと立候補しなくても付いて来てもらうつもりだったので、俺にとっては都合がいい。
「……ねぇ、ヒルベルタはいいの? てっきり「アルが行くならどこへでも」ってばかりに付いてくかと思ったんだけど」
クリスタはいつもと違い、完全に存在感を失っているヒルベルタに問う。
「……っ! そ、そうですね、もちろんご一緒いたしますとも!」
見れば、彼女はサイデリアさんから距離を取るように、部屋の隅に少し怯えるように立っていた。
エルフというのは森で生きる種族。 危険な相手に対する本能のようなものが反応しているのだろう。
実際、その気になれば一瞬で殺される相手だし、過敏とも臆病とも思わない。
「了解、3名様ご案内ってね! もう、ほかにはいないのかい?」
1人くらい男が付いてきてくれないものかと思ったが、どうやらほかの皆はそれぞれ行かない理由、行きたくない理由があるようだ。
「長いこと空けたらディアナに小言を言われそうだし、ちょっと残念だけどパスだ」
「アルフレドが町を離れるというのなら、せめてオレが残らなければ戦力が手薄になってしまうからな」
「馬車はおじさんには堪えるよ……俺はもうしばらくお休みしたいね」
「町長から目を離すわけにはいきませんので」
といったように、各々の都合で今回王都へ行くのはクリスタ、リリィ、ヒルベルタ、そして俺の4人となった。
「ところで、俺はともかく3人面倒を見る金ってちゃんと出してもらえるんですか?」
俺を王都に連れてくるまでは当然シュラハト王も想定して準備済みだろうが、おそらくは国王杯に招待だのはサイデリアさんの独断だろう。
言ってしまえば“無関係”な3人に対し、しっかり金を出してもらえるのか……そこまでケチを言うとは思えないが、一応確認をしておきたい。
「大丈夫大丈夫。 なぁに、出してもらえなきゃアタシが自腹で出すさ」
サイデリアさんは笑顔でそう言いきる。 こういう所は流石一国の将だと思う。
「太っ腹ですね。 太っ腹ついでに、俺が王都に行ってる間、サイデリアさんの部下を一部ここに置いてくってこと出来ません?」
「ん? んー……流石に全員は無理だが、10人くれーなら平気だぜ。 もちろん、紅剣部隊の連中だ」
顎に手を当てて少し考え込み、サイデリアさんは頷く。
紅剣部隊10名も居れば大抵の相手には何とかなるだろう。
「アンタの居ない間の防衛を頼みたいってこったろ? 任せな、選りすぐりの10人を残してやるよ」
「ありがたいです」
話が早くて助かるとサイデリアさんにお辞儀をした。
「……オレ達だけでは、不足ということか。 それは悲しいな」
「お前のことは信頼してるけど、用心に越したことは無いからな」
わざとらしく肩を竦めるフェリクスに、俺は肩を竦め返してやる。
「ははは、冗談だ。 オレ達自警団はプロでも何でもないし、お前に指導してもらっているとはいえ、まだまだ心もとないのはオレにも分かる」
「実際ここに来るまでもそこそこアブねー魔物もいたし、やり過ぎってほどではないな。 あちこちでまだ事件のタネが燻ってる感じだ」
俺の予想通り、依然外は危険な状態が続いているようだ。 防衛力の強化を提案しておいて正解だった。
「残してく騎士達の面倒はお任せしますよ町長」
「えぇ~メンドくさ――」
「町長?」
「……分かったから、ナイフより鋭い目をやめてよカトリン」
カトリさんが睨みを利かせてくれるのなら大丈夫だろう。 後の町のことはお任せだ。
「色々決定したところで、早速行こうか! 付いてきな!」
「ちょっと、ちょっと待って! 準備とか色々あるんだから、せめて1日待ってください!」
すぐに出発しようとするサイデリアさんをクリスタは慌てて呼び止める。
「えーまあいいけどさ、期日があるんだからなるだけ早くしてくれよ?」
「ちなみに、期日ってのはいつなんです?」
アクシデント等も考えられるので余裕は欲しい。 それによって準備時間が決まってくる。
「えーっと、ね……今月の24日までだね。 色々あって、その日あたりがアルフレドを待てる上限だそうだ」
なるほど、24日か……だとすると――ん?
気づいたのは俺だけではなく、その場のサイデリアさん除いた全員の表情が変わる。
「……すいません、それ『明日』じゃないですか?」
「ん? …………あっ」
とても嫌な「あ」だ。 まるで予想外のことが起こったような、まるで思いがけない事態に直面したような。
「…………あー……あれだ、帰るまでの日数を計算に入れてなかった」
やっちゃったぜと言わんばかりに舌を出すサイデリアさん。 年齢を考えろ可愛くないぞ。
「ふぅ~~~~…………」
俺は思いのままに肺の空気を出し切る。 人生でも一番長い溜息が出た気がする。
「え? じゃあもう間に合わないってこと?」
「……俺の馬――ベイルを走らせても王都までは早くて6日はかかる。 間に合うわけがないな」
頭を抱える俺だったが、俺以上に頭を悩ませている人物がいた。
「ヤベーよヤベーよ……このままじゃあクロードにどやされる……」
「それは俺にはどうでもいいですけど、どうするんです? 俺自身が走っても今からじゃ明日中は体力的にも厳しいですよ」
不可能、とまでは言わないが、そこまで全力で走るのはやったことがないし、正直面倒くささが勝つ。
どうするのかと思っていると、サイデリアさんが意を決したように顔を上げる。
「しょうがねぇ……これしかアタシが始末書を逃れる方法……もとい王国を救うが無い」
絶対に前者がメインというか、王国の危機という言い方は明らかに大袈裟だ。
「……アルフレド、悪いけど、最低限の準備を急いでやって、門の前に来てくれ」
サイデリアさんが思いついたもの、それは悪魔的な解決方法だった――




