49話 オフィシャルで
「……本当に、引き受けちゃうのね……」
渋々ながら引き受けた俺に対し、クリスタは随分と不服そうだった。
理由は察せるが、今はケアをしてやれる余裕が俺には無い。
「いやーアタシとしちゃ仕事云々より、アンタと戦えるチャンスが出来る方がテンション上がるねぇ! どうだい、表で軽く打ち合いでも……」
ダークブロンドのくせっ毛結ぶ紐をギュッと縛り直し、やる気満々といった様子のサイデリアさん。
俺はそんなことまで引き受けるつもりは無いので丁重にお断りさせていただく。
「そんなことより、詳細ってまだ一切話してもらえないんでしょうかね」
「ああ、どこで誰が聞いてるか知れねーからな。 ただ、アンタにもメリットのある話だ。 ……って、言えば分かるってクロードが言ってた」
クロードさんが……ということは、つまりそういうことなのだろう。 俺の中で一つ推測が出来たと共にコーヒーカップ一杯分程度のやる気が湧いてきた。
しかしそれはそれとして――
「それ、先に言ってくれればもっと話が早かったと思うんですが」
「あぁ~そういやそうだな、確かに」
手をポンと打ってサイデリアさんはうんうんと頷く。
「はっはっはっ! 言ったろ? ニガテなんだよこういうお仕事は」
「あたしが言うことじゃないのかもしれませんけど、何でシュラハト王はあなたを遣わしたのか疑問だわ……」
当てこするような言葉遣いでクリスタは言うが、サイデリアさんはまるで気にした様子もなく不敵に笑う。
「そりゃ万一暴れられたら他の誰も止められないからさ。 シュラハト広しといえども正面切ってコイツと戦り合えるのはアタシくらいだからね」
最初から腕ずくで引っ張ってくることも向こうは想定のうちだったらしい。
俺を何だと思っているのか……と言いたいところだが、万が一億が一、中途半端な戦力を送って壊滅させられたとしたらそれこそ色々と痛手になる。 国家として取って当然の手段だろう。
「しかし何とも、お嬢さんは当の本人より不服そうじゃないか? もしかして、アルフレドの“コレ”かい?」
「ただの幼馴染です」
“コレ”と言いながら小指を立てるサイデリアさんに、俺が何か言う間も無くクリスタがぴしゃりと否定する。
「あたしは、もう充分戦ったアルに……アルフレドに、無理矢理何かさせようってのが気に食わないだけです」
サイデリアさんと町長氏、そしてカトリさんを交互に見つめる。
言い方はこうでも、クリスタは自分のことではこれほど怒ったり食ってかかるようなことはしない。
いつだって誰かの為だ。今回は、俺の為。 俺がただただ自分勝手に生きたいってことを、クリスタはよく知っている。
「アルフレド自身がやるって言ったから、あたしは止めない。 けど、あたし自身の個人的感情は別です。 勝手に恨みますから、そのつもりで」
言いきって、小さく息を吐く。 スカートを握り締める拳は微かに震えていた。
「……なるほどなるほど、中々イイ度胸してんじゃん。 でもな、誤解無きように言っておきたい、交渉の席でアンタの名前を出したのはこっちが先だ」
サイデリアさんの説明によればこうだ
この町に俺が居ることは当然知っていて、たまたま手を借りたい時に町長氏が交渉にやってきたため、これ幸いと交換条件として名前を出した。 それを承諾したのがカトリさん、というわけらしい。
「だからまあ、恨むんならアタシだけにしときな。 自分んトコの町長さんとモメるのは後で気まずいだろ」
カラッと笑ってそう言うサイデリアさんには、大勢騎士の上に立つ者としての器量のようなものを感じた。
クリスタも同じらしく、少し拍子抜けしたように表情が崩れる。
「ま、恨まれようがアタシはアタシの仕事をこなすけどね。 アンタみたいなイイ女に恨まれんのは残念だけど、そこと仕事は別だ」
「……こんな形じゃなければ、あなたとは仲良くなれたかもね」
クリスタは負けたとばかりに肩を竦めた。
「なんだ、まだまだ仲良くなれるチャンスはあるだろ? そのお近づきの印として、アンタ達にもイイ話があるんだぜ?」
そう言ってサイデリアさんは一枚の紙を取り出した。 紙には大きく『国王杯』と書かれている。
「実は近日中に王都でデカい武術大会があってね。 要は王国で一番強いヤツを決める大会だ。 武器防具は一定の基準を満たせば何でもアリ! 魔術剣術体術スタイル問わないガチンコ勝負さ!」
ワクワクを抑えられないといった様子の笑顔で語るバトルジャンキー。
「本当はチケット買わなきゃ観戦出来ねーんだが、アルフレド連れてくついでの送迎付きで、アタシの権限でタダで招待してやるよ! どうだい?」
サイデリアさんはパッと見れば無邪気、よく見れば狂気を感じる笑顔で見回すが、皆の反応は芳しくない。
「……あれ? 何だ何だ? ハズした感じ?」
それもそのはず。 彼女の基準ではそうではないかもしれないが、武術大会なぞ誰もが興味のあるようなことじゃないし、ここに居るのは半数が女性だ。
「……言っちゃわりぃけどよ、それ自信満々に持ち出すことじゃねェだろ」
「招待すると言われても、オレが町を空けるわけにはいきませんしね」
「野蛮でムサイ男達が集まる武術大会とか、見てて面白い?」
しかも男性陣おやっさん、フェリクス、町長氏ですらこれである。
「はあぁぁっ!? お前ら男だろ!? 血沸き肉躍るバトルに興味無いって!?」
「いや、俺は結構あるけど、コイツらに「イイ話」として出すには弱すぎるって」
サイデリアさんはどうしても信じられないようだが、俺も興味が無い。 どうせ優勝するのはサイデリアさんだし。
「ハァ~……あんたらも冷めてんねぇ」
もちろん、女性陣の反応も悪い。 目に見えて無関心。
――ただ1人を除いて。
「あ、の……自分、興味あるっス!」
「お?」
リリィは意を決したという感じでサイデリアさんへ一歩近づく。
「……えーっと、誰だっけ? 最初から居た?」
「い、居ましたっ 自分、リリィっていいます! アルフレドさんの弟子をやらせていただいています! よろしくお願いいたします!」
腰を悪くしそうなあのお辞儀にサイデリアさんも少々ばかり面食らった様子だ。
「元気がよくてイイね。 でも勝手に弟子名乗るのはよくないな。 アンタみたいな一般人がコイツの弟子なはずがない」
「うっ……それは……」
何の悪意も無く放たれた言葉にリリィはショックを隠せない。
その様子でサイデリアさんも何かを察したようで、俺の方に振り返る。
「……あれ? なあ、アルフレド、マジで弟子なの?」
「そうですよ」
「オフィシャルで?」
「オフィシャルで」
今日一番の驚きが「マジか……」という一言に詰まっていた。




