48話 綺麗事じゃないんだ
「おー居た居た。 サンキューな、男前のお兄さん」
俺が居ることを確かめ、鎧の女性――サイデリアさんは後に続いて店に入って来た男に笑顔で振り返る。
「いえ、お役に立てたようで何よりです」
「フェリクスじゃない? あなた何でこの人を?」
サイデリアさんをここに案内したらしい男は俺もよく知る男――自警団団長のフェリクスだった。
「すぐ近くで、アルフレドという男を探していると言われてな。 身分もハッキリしていたから、この時間ならここに居るだろうと案内させていただいた。 ……まずかったか?」
最後の方はやや小声で、フェリクスはそう言った。
俺は「いや」と答えて椅子から立ち上がり、サイデリアさんに軽くお辞儀をした。
「どうも、お久しぶりです」
「おう、久しぶり。 勇者と魔王討伐の報告に来た時以来だな~」
ニィと笑って俺の肩をバンバンと叩く。
「……痛い痛い。 早速で申し訳ないんですが、俺に何の御用で?」
「ありゃ? おたくの町長さんから話聞いてねぇの?」
サイデリアさんは首を傾げ、そこで町長氏の存在に気づく。
「居るじゃん。 どういうことだい?」
「お言葉ですけど、お手紙を寄越してから来るのが早すぎてねぇ。 昨日の今日じゃないですか」
「あー……流石に直前過ぎたな。 そりゃ悪かった。 ならアタシから話そう」
どうやら来る直前になって手紙を送って来たらしく、説明と到着がカブってしまったらしい。 雑さが彼女らしいというかなんというか。
町長氏から俺の方に向き直り、ポリポリと頭を掻いた。
「しっかしなぁどう説明したもんか……こういうのニガテなんだアタシは」
「大体は聞いたんで、どうして俺の手を借りたいのかだけでも」
俺が言うと、「そういうことなら」と呟くように言って腰の剣の位置を正すように手を添える。
「――それは言えないな。 アンタにはただシュラハトの城に来てもらう。 残念ながら、こっちのお話合いでそう決まってるんでね」
不敵な笑みを浮かべサイデリアさんはそう言いきった。
それを受けて一人事情を知らないフェリクスが一歩前に出る。
「すまない、事情が飲み込めないのだが、どういうことだ?」
「……そこのおっさん達が勝手にアルを出しにして、シュラハトと取引をしたらしいわ」
嫌味のある口調で、クリスタは町長氏とカトリさんを横目で睨む。
「それは……オレも黙っているわけにはいかないな。 すまないアルフレド、知っていれば案内はしなかった」
「ほぉ? 黙ってないってのは、どういうことだい?」
サイデリアさん愉快そうにフェリクスを挑発する。
「アルフレドの意に反する場合、と条件は付きますが……腕ずくでも貴女を止める」
「あっはっはっは! そりゃやめた方がいい。 アンタが100人いてもアタシには勝てないよ」
カラッと笑うサイデリアさんに、フェリクスと、なぜかカトリさんの眉間にピクリと皺が寄る。
「……ハッタリではない、と……」
カトリさんは呟く。 それを言う彼女の眼は確か……
「……ま、アンタも戦力差くらいは分かって言ってるんだろうけどね。 その度胸はイイね、アタシの部下にならないか? アンタの腕と心意気なら上イケるぜ?」
不敵な笑みは絶やさず、あろうことかフェリクスをスカウトまでしてしまう。 これがサイデリアという女性、女傑である。
「丁重にお断りさせていただこう。 オレはこの町から出るつもりは無いのでな」
「……残念。 けどまあしょうがない」
言葉通りの感情で小さな溜息を一つ、俺の方へ向き直る。
「今はそれよりアンタだ。 もちろん、来てくれるよな?」
「……お断る。 って言った場合は?」
ぬるくなったジュースを飲み干し、俺はダメもとで訊いてみた。
サイデリアさんは少し考えて、自分のなかで「うん」と呟く。
「……そうなったら、この町の連中を人質に取ってアンタを脅すしかなくなるね」
「「「――ッ!?」」」
俺と町長氏以外は皆、この発言に驚きを隠せない。
「な、何を言って……!?」
「町の外にはアタシの部下も待機させてある。 アンタ1人じゃこれはどうにもなんないだろ?」
なるほど確かにこれはどうにもならない。 既に“詰み”の状態だったわけだ。
「アルフレド様、彼女は本気で実行するおつもりです。 対応は慎重に……」
微かに振るえる声で俺に話しかけてきたのはカトリさんだった。
それぐらいはしてくると知っていたがなるほど、彼女がそういうのならまったく嘘もハッタリも無く本当なのだろう。
「そんなやり方が許されるとでも!? 国民を傷つけたとあっては反発は免れないぞ!?」
「許されるね。 アンタ達は厳密に言えば“国民”じゃない。 全員死んだって文句言うやつは……まあいるだろうけど、封殺するのは難しくない」
事もなげに言ってみせるサイデリアさん。
実際彼女の言う通りだろう。 大国相手じゃ所詮ウチは小さな町の一つでしかなく、勝負になどならない。
しかしまあ、なんというかこのやり口は……
「……とは言ったものの、言い訳じゃ無いけどさ、アタシだってこんなやり方は好みじゃないんだよねぇ」
「まあ、そうでしょうね。 これはあなたのやり口じゃない」
困ったように肩を竦めて眉をハの字にするサイデリアさん。
らしくない、という感じは最初からあった。 元々この程度の頭は回る人ではあったが、今回はかなりギリギリなやり方だ。
「そうそう。 アタシはこんな形じゃなく、アンタと正々堂々サシで戦りたいんだ。 一方的に潰すなんてもったいない事ゴメンだね」
そう言ってサイデリアさんはニッと笑う。
これこれ、正々堂々真正面から戦いたがるバトルジャンキーがこの人に似合っている。
以前何度もタイマンを申し込まれたのを思い出す。
「でもな、騎士ってのは綺麗事じゃないんだ。 やりたくなくても必要なら手を汚さなきゃなんないのさ」
「……っ!」
その言葉に、リリィが体がピクリと揺れる。
「けどさアルフレド、アンタが黙って付いて来てくれりゃそれで綺麗に収まる話なわけだ。 どうだい?」
「……まあ、そうですね。 ゴネてもいい事ない、か……」
面倒な気持ちを隠さずに肩を竦め、溜息を一つ。
「いいの? あんたこういうの嫌いじゃないの?」
「流石に断る理由が「俺が嫌だから」じゃな。 やるよ、やりますやります」
俺1人なら逃げることはいくらでも出来るが、皆が人質じゃあそれも出来ない。
半分投げやりにそう言うと、サイデリアさんは「おおっ」と不敵なものではない笑顔を浮かべる。
「よぉし、じゃ、決まりだな!」




