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41話 そりゃ合格だ


「とりあえず、少し離れて休憩するか。 話はそれからだ」

「ハイ」


 珍しくこちらを見ずに、どこか遠くに視線を向けてリリィは頷く。

 俺はそんな彼女を伴ってウンディーネの壁の近くまで移動する。


「うわっ!? なんスかこれ!?」


 心ここにあらずといった様子のリリィもこれには驚き、我に返る。


「ウンディーネをこう……グルグルさせて壁を作った」

「こ、これで邪魔が入らないようにしてくれてたんですね……本当に自由自在っス。 ……これ、どれぐらい伸びてるんです?」


 リリィは少しだけ目を輝かせ、青い壁を見上げる。


「どうだろうなぁ……直径が80メートルそこそことして……大体10キロくらいか?」

「じゅっきろ……?」


 まるでピンと来ていないようだが、細かく言っても余計に混乱させてしまうだろう。

 「とにかくたくさんだ」とはぐらかして、近くの手頃な岩にリリィを座らせる。


「伸ばすほど脆くなるけど、ここらの魔物なら破れないだろ。 安心して休憩していい。 まずは傷をどうにかしてやろうか」

「あ、ハイ……すみません」


 申し訳なさそうにするリリィには一旦触れずに、俺は精神を集中させる。

 この魔術はあんまり使ったことがないからな……


「――アンチドーテ」


 俺の指先からパッと放たれた泡のような光の粒が、リリィの腕や肩についた傷口を包んでいく。


「わっ! わわっ!?」


 泡は驚くリリィを気にもせず、数秒傷口に触れただけで離れ、空中で弾けて消えていく。


「解毒魔術だ。 一応消毒はしとかないと後が怖いからな。 俺の魔術だけじゃ不安があるから、これも食っとけ」

「ふぁぐっ!?」


 開けっぱなしの口に毒消し効果のある薬草を突っ込んで、すかさずヒールで傷を塞いでいく。


「処置完了、俺がどうにかできる軽傷で良かったな」

「モグモグ……ありがとうございまふ…………ニガい……」


 文字通り苦い顔で礼を言うリリィに少し笑って、俺は近くの木の根に腰掛ける。

 水筒の水を口に含むと、それに倣うようにリリィも水を飲み、一息つく。


「しかし魔術……治癒術?って便利っスねぇ……あっという間に治っちゃったっス」

「ヒールは光属性だから、お前にも使えるかもしれないぞ? 今度ヒルベルタに手伝ってもらって練習してみてもいいかもな」

「難しそうですけど……あればすごく助かりますから、やってみたいっス」


 フンと息を吐き、リリィは両手を握り締める。


「余裕があれば、な」


 それからしばらく、体と心を休めるためにと黙っていると、チラチラとこちらを窺うような視線を感じる

 見ると、ビクッと体を跳ねさせてリリィは目を丸くし、少しの逡巡の後、意を決したように口を開く。


「あ、の……自分は合格だったんでしょうか?不合格だったんでしょうか?」


 小柄な体を更に小さくして零した言葉は当然の疑問だった。

 そういえば、ハッキリとは言っていないな。


「そりゃ合格だ。 お前1人の力で勝ったんだからな」

「――っ!」


 パァっとリリィの表情が明るくなる――が、ハッとして自分の頬を叩き、すぐに表情を引き締め直す。


「自分の力なんかじゃ全然ないっス。 師匠のお力添えがあってのこと。 ありがとうございます!」


 わざわざ立ち上がってまで頭を下げるリリィ。


「教えたのは俺でも、実際に使って勝ったのはお前だ。 だからお前の力なんだよ」

「そう……っスかね……うーん……」


 リリィはなおも納得がいかないようだ。 先ほどまでの表情からもそれはにじみ出ていた。


「どうやら、あんまり満足はしてない感じだな」

「……はい。 ミスもありましたし、運が良かっただけで、かなり追い詰められました。 なにより、前に戦った時より苦戦した感じが……」


 聞いてみるとなるほど、しっかりと考え、反省をしているのが分かる。

 しかし苦戦したことにはちゃんと理由があるのだ。


「前にも言ったと思うけど今のお前のスタイルは難しい。 習熟するまで前より弱くなってたとしても、なんらおかしくはないくらいにな」


 盾を持つよりよほど安定性に欠けるスタイルを、一対一なら実戦レベルで使いこなしていた。 これだけでも大したものである。


「というか、こっちの問題が少しな。 さっきの個体は通常よりデカくて強いやつだった。 本来想定されてたものより試験の難度が高くなちゃったんだ」


 イケると思ってやらせたわけだが、やはりというか苦戦を強いられた。

 それが自信を削いでしまったのなら俺のミスだろう。


「あ……やっぱりさっきのやつは大きかったっスよね……見間違いかなと」

「多分リーダー的なやつだと思う。 スピードもパワーも普通のより少し上だった」


 ミスをしようが苦戦しようが、それをクリアしたのだから俺が文句のつけられるはずもない。 ということを伝えてやる。


「う~ん……師匠がそこまで言うなら、今回はこれでよかったと思うことにするっス」


 半分納得、という感じでリリィは腕を組みうんうんと頷く。


「そうそう、それでいい。 もう少し剣に慣れればもっと楽に斬れるようになるし、何より一番重要なことを教えていないしな」

「一番重要なこと……?」


 リリィは目をぱちくりさせて首を傾げる。

 答えてもいいが、そこそこ時間を取られるし、敵地で余計な知識が邪魔して判断を鈍らせるのもよくない。


「それは……まあ後日だな。 今日は今日の事を考えよう」

「そうっスね……よぅしっ! じゃあ歩きましょうか!」

「おーやる気満々だな」


 先ほどまでの調子と打って変わってやる気に満ちたリリィ。

 おそらく肉体的な疲れはあまりなく、精神的なものが原因だったのだろう。

 俺が認めたのと、新たな目標が見えたことで回復したようだ。 流石の体力である。


「もう大丈夫そうだな。 じゃあ――」


 俺は立ち上がり、背中の剣を引き抜く。

 剣の先を青い壁に当てると、壁が剣先へ一気に引き込まれていく。

 そうしてウンディーネ中に刀身を全て戻し、張ってあった壁を除去する。


「解除完了。 さ、行くか」

「すごぉ……」


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