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38話 魔導弓



 カンカンと木の剣がぶつかり合う音が道場の中に響く。 

 一方が攻め、もう一方がそれをどうにか捌き、受け止める。


「よしよし、良い感じだリリィ」

「くっ……ふんっ……!」


 現在、俺とリリィは実戦形式の訓練をしている。

 始めてから2週間足らずだが、今までの基礎訓練が活きて受けの型はそれなりに様になってきたようだ。


「隙があったら攻めていいからな。 ほいほいっと」

「くぅっ……! そうは言っても……!」


 多角的に繰り出される俺の剣に反撃のチャンスを見出せないでいるリリィ。

 そこで俺はわざと大振りの一閃を見舞う――構えを見せた。


「――っ!」


 ピクリと反応しかけたものの、リリィは動かず、俺の剣を待つ。

 良い判断だ――俺は振りかぶったそのまま、リリィの首を横薙ぎにする。


「っ! フンッ!」


 ――それだ。


 俺の剣はリリィの剣の上を滑って空を斬る。

 直後、肩にドンッとリリィの剣が押し付けられた。


「やっ……た……」


 自分でも驚いているようで、リリィは軽い放心状態で呟く。

 俺はその肩をポンと叩いて微笑みかけてやる。


「お見事、一本だな」

「……あ。 す、すいません! 寸止めするつもりが……」


 リリィはハッと我に返って俺から飛び退き、頭を下げる。


「いや、大丈夫大丈夫。 お前だったら思い切りブチ当てられても平気だよ」

「それはそうでしょうけど……」


 申し訳なさそうにペコペコするリリィの肩を掴んで頭を上げさせ、親指て立てて見せる。


「そんなことより、今のは良かったぞ。 そろそろほんの少し遊びを入れても対応できるだろうと思ってたけど、完璧と言っていい対応だった」

「……そ、そうっスか?」


 リリィは「えへへ」ともじもじ照れ臭そうにする。


「そうそう。 最初の大振りの隙を狙わなかったのは好判断だ。 あのスカせてからの反撃するやつは自分と同等かちょい上の相手にも通用するから、実戦でもあんな感じで使えると良い」


 剣の刃で相手の剣を滑らすアレ(名前は決めていない)をあそこでやろうと思ったのも良いし、今のレベルでは言うこと無しだ。

 褒めてやると、リリィは頬を緩めふにゃふにゃと笑う。


「ふへへへ……褒め過ぎっス……――ハっ! いやいや、自分はまだまだっス!」 


 自制して表情を引き締めると、少し考えてから俺の方に向き直る。


「……さっきのは師匠が上手く誘導してくれたって感じだったので、今度は自力で隙を作れるように自分から動くのも出来るようにしたいっス」

「おお、そこまで考えられるんなら大したもんだ」


 俺の意図に気づけているだけでなく、その“先”も見据えている。

 おそらく俺との訓練以外の所でも常に自分なりに考え、次に活かそうとしているのだろう。

 毎回、少しずつでも、改善してゆく様は師として誇らしく、そして楽しい。


「相当加減されてるのは最初から分かってるスから……わざと隙を作ってくれなきゃ受けるだけでしたし、あれだけ色んな方向からの攻撃は防ぐだけで精一杯っス」

「人じゃあんまり狙わない所狙ったりとか、やらないような動きもしてるからな。 実際防ぐだけでもそれなりに難しいぞ」


 騎士になるとして、戦うのは人間だけではない。 暴漢や賊なんかとの戦いもあるだろうが、主な敵は魔物だ。

 人に近い形の魔物もいるが、多くは異形。 普通の人間だけを想定していては実戦ではまともに戦えない。


「前も言ったけど、お前と模擬戦する時はかなり変な剣で戦ってるから、俺の動きは参考にしないようにな」

「ハイ。 ……というかマネ出来ないっス」


 リリィは苦笑いで首を振る。


「ま、予備動作で動きを読まれにくいように戦ってるからな。 これは初めて見る魔物と戦ってる感覚に近いから、そこそこ実戦に近い訓練にはなってると思う」

「師匠は色々考えてくれてるんすねぇ……」


 しみじみとありがたがるリリィに、大袈裟だと言って俺は一つ息を吐く。


「……そろそろいい時間だ。 今日はここまでにしとこう」

「あ、今日は昼までって言ってたっスね」


 今日で実際に剣を合わせての訓練を始めてから2週間ちょっと。 そろそろ第一の試験を実施してもいい頃合いだ。

 お互いのスケジュールを考えると、1日がっつり時間が取れるのは明日くらい。

 この機にやっておかないと1週間程度ズレこむことになってしまうため、出来れば明日試験をしたいという考えがある。


「明日は試験だからな。 今日ハードにトレーニングしたら明日に響く」

「うー……でもやっぱりちょっと動き足りないっス……」


 名残惜しそうにリリィが言うのとほぼ同時に、道場の扉がコンコンと叩かれる。


「お邪魔~」


 返事を待たずに扉が開かれ、気の抜けた声と共にクセのある金髪頭がひょこりと顔を出す。 クリスタだ。


「はい、お昼持ってきたわよ」

「サンキュ」

「先輩、ありがとうございます――ん?」


 弁当を持って中に入ってくるクリスタの後ろから、人影が現れる。

 あの銀色の長い髪は――


「ヒルベルタ、あんたも来たっスか?」

「チッ……やはり貴様も居たのか……」


 一瞬だけリリィがムッとした顔をして、険悪な空気が流れかけたが、飲み込んで目線を逸らすことで事なきをを得た。

 案外リリィの方が大人なのかもしれない。


「はいはい、仲良く食べましょうね。 アル、広げるの手伝って」

「了解」





「ごちそうさま。 ……なあヒルベルタ、この後ちょっと時間あるか?」


 全員が食べ終わった後、俺は手を合わせたままヒルベルタをチラリと見る。


「――ハイっ! 貴方の為なら1日だろうと一生だろうと……」

「いや、ほんの30分足らずでいいんだが」


 グイグイと距離を詰めてくるセクシーエルフ。

 それをクリスタの手も借りてどうにか抑えながら、今度はリリィに視線を移す。


「ヒルベルタが付き合ってくれるそうだから、ちょっと遊んでくか」

「遊ぶ……とは?」

「飛び道具を使う相手との戦いを想定した訓練もしたいからな。 今日触りだけでもと思って」


 弓や投擲等の、魔術でない物理的な遠距離攻撃を使ってくる相手も珍しくない。

 俺も似たような攻撃は出来なくもないが専門家からの方が学ぶことも多いはずだ。


「……あ。 そういえば今魔導弓は持ってるよな?」

「無論です」


 ヒルベルタは革のカバンから波のような美しい彫刻が施された木製と思しき棒を取り出す。

 長さは15センチくらい、細い手によく馴染むくらいの太さで、それだけ見てもどういう道具か推測が難しい。


「あれは……?」

「見ていれば分かる」


 突き放すように言うと、ヒルベルタは棒を握って魔力を込める。

 すると棒の両端から青白い光が弧を描いて噴き出し、その全貌が明らかとなる。 この形は――


「……弓、っスか?」

「魔導弓っていう魔力で矢を撃ち出すエルフの武器だよ」


 弓柄しか存在しないため軽く、持ち運びやすい。 更に、“矢じりだけ”で撃ち出せるという特徴がある。


「矢じりだけで……それすごい便利じゃないっスか?」

「相当な。 普通の矢よりずっと省スペースで持ち運べるし、何ならその分弾数も増やせるし他の物を持つこともできる」


 そのぶん取り扱いが難しいんだが……その話はとりあえず置いておこう。


「適当に何発か撃ってやってくれ。 当たりそうなら俺がカバーする」

「指示が雑ね……大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。 さ、やろう」


 20メートルほど離れてリリィとヒルベルタが向かい合う。

 リリィは木剣を構えて緊張の面持ちだ。


「では行くぞ――」


 ヒルベルタが矢――矢じりだけが実体であとは魔力の塊だ――を弓につがえ、放つ。

 矢はヒュウと音を立てて真っ直ぐにリリィの脳天へ――容赦無いなオイ。


「――ッ!!」


 リリィは飛んでくる矢に反応し何とか防御を試みるが、矢は剣をすり抜けリリィの髪をかすめて壁に――突き刺さることは無く、俺の剣に阻まれカランと床に転がる。


「うへぇ……」


 床に転がる矢じりを見ながらリリィは冷や汗を流す。


「……リリィじゃなくて壁を庇うの?」

「ギリギリ反応出来てたから、軌道的には当たらないのは分かってたし」


 睨むクリスタの視線を躱し、床に落ちた矢じりを拾う。

 それくらいヒヤッとさせた方がリリィには良い訓練になる、というのは何度も手合わせした俺の感想だ。


「で、どうだリリィ。 “線”ならともかく“点”をとらえるのは結構難しいだろ」

「あれだけ早いと中々……もう一回、お願いします!」


 当たっていたら大怪我してたところであるにも関わらず、それを理解出来ているにも関わらず、物怖じしないのがリリィというやつだ。


「あと何回かだけな。 頼む、ヒルベルタ」

「了解しました」


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