37話 悔しいけど、結構あるわ
「ともかくこれで次のステップに進めるってもんだ」
「おおっ! ってことはあの魔術を斬るアレを?」
くしゃくしゃの泣き顔から一転して笑顔に戻るリリィ。
「いや、その前に、第一の試験をしようかと思ってる」
「試験……っス?」
首を傾げ、頭の上に疑問符を浮かべるリリィ。
「ああ、実戦試験だ。 内容は……その時に伝える。 これから1、2週間くらいは模擬戦形式で鍛えていこう」
「模擬戦……もしかして師匠と戦うってことっスか!?」
もちろん加減はする、と伝えるとリリィは安心してホッと息を吐いた。
流石に本気で弟子を潰すような大人げない俺ではない。
「ともかく本格的な話はまた後日だな。 今後もヒルベルタにはリリィの魔術部分の指導を頼むことがあるかもしれない。 そん時はよろしく」
「……旦那様からの頼みとあらば」
ヒルベルタは頷く。
しかし多分、俺から言わなくてもリリィが頼めばこいつは受けるだろうと思う。
「スンっ……その試験とやらはすぐには出来ないものなの?」
鼻をすすりながら、クリスタは首を傾ける。
「そうだな。 今すぐクリアできないレベルじゃないと思うけど……実の所、ヒルベルタが来たことで想定より早く段階が進んでしまったからな。 もう少しだけ訓練をさせたい」
「ふぅん、あんたなりのプランがあるわけね」
俺から微妙に顔を逸らしながら言うが、涙の痕も真っ赤な目も隠せていない。
「あと、今日は俺も予定があるからな。 これ以上見てやることが出来ない。 悪いけど、今日はこれでお開きな」
「あ、ハイ。 お忙しい中ありがとうございました」
リリィは申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
俺が望んでやっているから気にするな。
「っていうかあんた何するつもりなの? 今日は自警団への指導も無いんじゃなかった?」
「ちょっとしたビジネスでな、そろそろ――おっ」
言いかけたところで、道場の扉がノックされた。
俺以外の3人は驚いたり怪訝そうな顔で扉の方を見る。
「来た来た。 どうぞ~」
俺が向こうに呼びかけると、扉は勢いよく、しかし無遠慮というほどでもなく開かれる。
そこから顔を出してきたのは――
「アルく~ん、来たわよ~」
ディアナおばさんだ。 笑顔で俺に手を振っている。
そんなおばさんに、クリスタは目を丸くして歩み寄っていく。
「母さん!? 何でここに……」
「あら、クリスタ。 あなたも来てたの? あーちょっと待ってね。 入って来ていいわよみんな~!」
外に向かってディアナおばさんが手招きをすると、4~50代くらいの女性達が数人、ぞろぞろと道場の中に入ってきた。
「お邪魔しま~す」
「アルフレドく~ん、こんにちは」
「お世話になります~」
「あらあら、こんな若くてカッコイイ男の子に教えてもらうだなんて緊張しちゃうわねぇ」
俺の知ってる人だったり知らない人だったりするこの集団は、ディアナおばさんの友人の皆さんだ。
「どうもどうも、今日はよろしくおねがいします」
「ちょっとちょっと、これどういうこと!?」
おばさんの友人の方達に軽く頭を下げている所を、クリスタに引っ張り上げられる。
「ビジネスだよ。 具体的に言うと、エクササイズってやつだな」
「エクササイズぅ……?」
わけが分からないといった表情のクリスタに、俺は懐から紙を一枚取り出して見せる。
眉間にシワを寄せ、クリスタはその紙に書いてある文字を読む。
「なになに……『世界中を旅した冒険者が教える! 美しい体を作る簡単エクササイズ』……なにこれ?」
「見たままだが?」
さらりと返すと、クリスタは溜息を吐いて「いやいや」と頭を振る。
「すごい胡散臭いんだけど……」
「確かにそれだけじゃ胡散臭い。 だからこそ顔の広いディアナおばさんに頼んでまず知り合いの皆さんに来てもらって効果の程を広めてもらおうと思ったんだ」
俺の考えはこうだ。
1人が3人に伝え、その3人が更に3人に伝え……
「より胡散臭くなったわね……」
「ま、それは冗談として。 実際旅して色々見てきてかなり効果が望めるエクササイズだ。 クリスタも興味無いか?」
「……悔しいけど、結構あるわ」
目頭を押さえながらクリスタは顔を逸らす。
「あー……自分は帰らせていただきますね。 自主訓練でもするッス」
「おう、お疲れさん。 無理はするなよ」
分かっているのか分かっていないのか、元気に返事をしてリリィは駆け足で道場を出ていった。
それに続くようにヒルベルタも俺とクリスタにだけ挨拶をしてそそくさと退出。 彼女曰く――
「この町での職を探さねばならないので」
とのことだ。
そう言われては止められない。 もし見つからなかった時には今回の報酬としてコネをフル活用してでもサポートしてやろう。
――さて、人間は普通に生活……例えば掃除洗濯、料理なんかをしているだけでも意外といい運動にはなっている。
しかしなぜ痩せないのか? 答えは簡単、普通の生活では使えない、使っていない筋肉があるからだ。 満遍なく体を動かせば自ずと体は引き締まっていく。
そしてそこにはキツイ運動などはいらない。 プラスアルファを与えてやればそれで充分だ。
「俺が今日提供するのはそのプラスアルファ。 つまり、ちょっとした簡単な運動だけ。 それだけで体形を整えられるわけです」
そんな話をディアナおばさんらに身振り手振りを交えて説明をする。
「さてはかなり準備して臨んでるわねあんた……」
後ろでクリスタも複雑な表情で聞いている。
そんなこと言って、結局参加する気になったみたいじゃないか。
「では、まず皆さんにマットをお配りします。 やってもらうのはこの上でいくつかの動きをしていただくだけです」
全員にマットを配ってそれぞれ足下に敷いてもらい、その上に靴を脱いで上がるよう指示を出す。
「軽くストレッチから始めましょう。 俺の動きを真似て――」




