36話 クールぶってるだけだからな
宿を取りに行ったヒルベルタと別れ、クリスタと共に残り少ない帰路を行く。
「しかしなんとも難儀な性格だよなぁ、リリィも、ヒルベルタも」
「……あんたに難儀とか言われてもねぇ」
目を細めるクリスタに、俺はわざとらしくムッとして見せる。 俺のどこが難儀だというんだ?
「自覚あるんだか無いんだか……ま、いいわ。 どういう話?」
「まずリリィだが、あいつは『自分が出来なかった』ことより『ヒルベルタが手伝ってくれたのに』ってところで悔んじゃうところがな」
優し過ぎるというか、自分に厳しいというか、ああいうタイプは与え過ぎると「成果を上げなきゃ」と無意識に重荷を背負うことがある。
「……確かに、ね。 良くしてくれたぶん何とか返さないと! ……ってなる子だもの」
「俺もついつい甘やかすことがあるからどうしたもんか……ま、仮にも師匠だ。 俺が考えるべきだろう」
俺自身リリィに物的見返りを求める気が一切無いのも問題なのだろうが……本当に金も物もいらないから仕方ない。
ヒルベルタもヒルベルタで……まあ押しが強すぎることは置いておいても、報酬くらい要求すりゃいいのにそれはプライドが許さないと言う。
「別に、何か要求したっていいと思うんだけどな……でも――」
「――だから気に入った、でしょ?」
「よく分かってるな」
見透かしていたとばかりにクリスタはニヤリと笑う。
「……まあなんだ、とりあえずリリィが今日いきなり魔術を習得出来なくてよかったよ」
「あら、それはどういう理屈?」
言いにくい話なんだが、と前置きをして、神妙な表情の幼馴染に話し始める。
まず、俺は今の所ヒルベルタのアプローチに応えるつもりは無いということ。
ヒルベルタの中で『俺のことが全て』のままだと、俺が突き放し続けることで、その内あいつは自分がここにいる理由を無くしてしまう。
だから俺以外にも興味を持ってもらいたいし、他に『自分がすべきこと』または『自分がしたいこと』を見つけてほしい。
「大きなお世話かもしれないけど、俺はヒルベルタにもっと楽しい人生を過ごしてほしいと思ってるんだ」
過去の俺の行動が現在のヒルベルタに繋がっているのだからなにかしら責任を取らねばならない。
これが、一応の俺の責任の取り方だ。
「ふ~ん、責任ね……一番簡単に取れる方法あると思うんだけど、やんないの?」
「“そっち”は……今後のヒルベルタ次第、ということで」
クリスタの意地の悪い微笑みを受け流し、俺は家のドアに手をかけた。
◆
それから1週間後。
再び同じメンツで道場に集まり、リリィの成長のお披露目会をする運びとなった。
「じゃあ早速やるか?リリィ」
「……ハイ」
緊張の面持ちでリリィは頷く。
この1週間でどれほど成果があったのか、実は知らない。
今日までに3回稽古をつけたが、俺は剣のことしか教えていない。 本人の要望で魔術のことはリリィ自身にに任せている。
なので知っていることといえば、何やら念じている様子――おそらくイメージトレーニング――のリリィが、おやっさんの酒場で度々目撃されていたことくらいだ。
「あんまり気負わないで、今まで練習を忘れずにやんなさい」
「うっス、ありがとうございます」
優しい口調で力づけるクリスタの言葉に、リリィは少しだけ肩の力をが抜けたようだ。
「さあ、見せてみろ。 今回合格不合格を決める権限は私にある。 中途半端な出来は許さんぞ」
「分かってるっス。 見ててください!」
フンと息を吐いて、リリィは右手を突き出し目を閉じる。
「…………」
リリィの集中がこちらまで伝わるような、しんとした空気が道場内を包む。
ふと隣に立つクリスタを見ると、不安気に口を結び、祈るように両手を組んでいた。
俺はそんな幼馴染の肩をポンと叩いてこちらを向かせ、目と頷きだけで「大丈夫だ」と伝えてやる。
クリスタは頬を赤くして、少しだけこわばっていた体の力を抜き、組んでいた手を解いた。
その直後、リリィ手がピクリと動き、俺達の視線を集める。
――来た。
「――ライト」
唱えた瞬間、リリィの指先に光が灯る。
それが少しだけ大きくなって、指先から離れ、宙に浮かんだ。
「……どうっスか? ここまでどうにか形にしてやりました!」
リリィは自慢気な表情でヒルベルタを見る。
おそらく誰も見ていない所でも相当練習をしたのだろう。
「……ふむ、まあ確かに形にはなっている。 合格ということでいいだろう」
「やったっ!!」
両手を握り締めて喜ぶリリィの目の前に、ビシッと人差し指を突き付ける。
「ただし、“オマケで”だ。 ロスが多すぎて本来の出力を発揮出来ていないし、何よりたかが生活魔術の発動に時間をかけすぎだ」
「むぐっ……」
その他クドクド、と言えばいいかネチネチと言えばいいか、とにかく遠慮なくダメな部分を指摘していくヒルベルタ。
リリィの表情は成功の喜びからどんどん苦いものへと変わっていく。
「まあまあ、そんなもんでいいだろ。 まずは、お疲れさん。 お前はよく頑張ったよ」
「師匠……うぅ~……」
俺の顔を見て、気持ちが溢れ出すように瞳が潤む、がしかし、それを振りきって首をブンブンと振り涙を堪えた。
「まだまだこれから! こんなのでいちいち泣いてちゃいられないっス!」
「良い考えだ。 泣いてる先輩にも言ってやってくれ」
俺はニヤリと笑いながら、ハンカチを目に当てて顔を逸らしている幼馴染を見る。
「グスッ……うっさいわねっ! 別に泣いたっていいでしょうが!」
クリスタは眉をつり上げて鼻をすする。
実際この1週間、俺が剣を教えていた時以外で会っていたのはクリスタくらいだ。 俺が見ていないリリィの努力もよく知っているだけに喜びも大きいのだろう。
「も~……よかったわね、あんたは本当に頑張り屋さんよリリィ……」
「せんぱぁい……」
リリィ、決壊。
2人してわんわん泣きながら、お互いを慰め合う微笑ましい光景が俺の前で繰り広げられる。
「……クリスタ様がこうなるとは……正直意外でした」
「クールぶってるだけだからな。 昔から泣き虫だよクリスタは」
それにしても、友情っていいね。
……とほくそ笑んでいるのを、クリスタが涙目で睨んでくる。 おっと聞こえてたか。




