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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第六章
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第69話 戦争ですわね。

「まあ。そんなことが。モノカミにしては上出来じゃない?ねえ、ウララ」


「本当に。あんな男は置いてきて正解ですわ」


モノカミと同じくクニヌシの使いである双子の姉妹は、仁王立ちで二人を待ち構えていた。夏樹はモノカミのように霊体化することが出来ないため、拓海に追い出された夏樹に付き添うように、モノカミは珍しく歩いて白鳥神社までやってきたのだ。


「適当なこと言わないでよね。たっくん・・・マジで大変だったんだから」


現世うつしよでは外を歩くことがないモノカミは、山道を登ってきたせいか既にぐったりとしている。当然、夏樹は疲れを感じる様子もなく、ただ黙っていた。


「そんな顔しないの。可愛いお顔がもったいないわ。夏樹?」


妹のウララからの優しい言葉に夏樹は緊張の糸が切れたように、境内に座り込みポロポロと涙がこぼした。モノカミは離れた夏樹の手を手繰たぐるようにして探し当てると両手で大事そうに夏樹の手を握った。


「ウララ、これですわ」


「これですわね、お姉さま」


モノカミは姉妹の言うことに気も止めず、一緒に座って夏樹が落ち着くのを待っている。


「拓海も浮かばれないわね。そう思わない、ウララ?」


「そうですわね・・・恋のスパイス、としては悪くないと思うのですけど」


巫女装束を着た双子はモノカミと夏樹を見やりながら、独自の考察を始めるのであった。二人の大好物である。


「なんでもいいけどさ。たっくんは、般若みたいな顔で怒りまくってたんだから」


「お前、目が見えないくせに、見えていたかのように話すのはやめなさい」


「そりゃ見えないけどさ、空気がひどく険悪だったんだから間違いないよ」


「合ってる、間違ってるの問題じゃなくてよ、モノカミ。拓海は泣いてたんじゃなくて?」


姉のユリアが呆れた顔で座り込む二人に向かって話していると、晩御飯の途中だった淳之介が母屋から慌てた様子で現れた。文乃もナギがいるはずの岩場に行っていたようで、双子同様に巫女の姿で淳之介の後をゆっくりと付いてきた。


「夏樹ちゃん、大丈夫?クニヌシ様から話は聞いてるよ。残りの日はうちにいるといい」


夏樹は泣き顔を見せないようにキリッとした顔に切り替え、モノカミと手をつないだまま立ち上がった。藍色のモノカミの髪が夜の闇に濃く溶けて、境内の灯篭の光が当たる部分だけが青く浮き上がっている。


文乃は二人の様子を見て、浮かない顔をしてストレートに聞いてきた。


「お二人はお付き合いされているのですか?」


「おい、文乃・・・そういうことは」


夏樹は文乃にゆっくりと頭を横に振ると、隣のモノカミの綺麗な横顔を見つめた。視線に気づいたモノカミ。


「気にすることないよ。僕らにしか分からないことだってあるんだもの。ね、なっちゃん」


「うん・・・」


淳之介も文乃もクニヌシから二人の境遇も今後の生まれ変わりのことを聞かされていたが、目の前の二人を見ると疑わずにはいられない。


「ユリア様とウララ様も中へ入りましょう、さあ」


「そうね。美味しいお茶でも淹れていただこうかしら。ね、ウララ」


「ええ、お姉様」


ユリアは仲睦まじく寄り添うモノカミと夏樹の背中を見ながら、ウララに耳打ちしている。双子の銀色の髪が風になびき、無用にキラキラと光をばらまいていた。


「本当に拓海の勘違いなのかしら?ウララはどう思う?」


隣にいる妹のウララは、モノカミが甲斐甲斐しく夏樹を気遣いながら歩く姿を見ながら、確信を持っているかのように答えた。


「誤解、でしょうね」


「何故そう思うの?わたくしは、甲斐性なしの拓海がテクニシャンのモノカミに夏樹を寝取られた可能性も否定できないと感じているのだけど」


ウララは可愛らしく口をとがらせた。姉ユリアの方へ急に顔を向けたものだから、姉妹は今にもキスをしそうな距離である。母屋の軒先では、姉妹を待つ淳之介が双子のはしゃぐ姿を薄目で見ていた。


「それは違いますわ、ユリアお姉様」


「あら、そうなの?」


「嫌ですわ、お姉様ったら。モノカミが愛しているのはあの可愛らしい男の子です。それに、夏樹がこの現世うつしよを去ると同時に、あの娘はあちらの国へ転生し、いずれはモノカミたちが育てることになるのですよ」


「そうね、そうだったわね。でもモノカミも案外その気になってるやも〜」


ウララは花がほころぶような満面の笑顔で、雲がかった夜空を見上げた。


「もう戦争ですわね。ふふ」

読んでいただきありがとうございます。久しぶりの姉妹で筆が進みました。

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