第68話 二人の明るい未来
(あ・・・もう着いたのか。まずは夏樹に謝らないとな。話はそれからだ。冷静に。そう、冷静になって向き合え、俺)
飛び出して行った時より、拓海の頭はクリアになり、むしろ今は素直に夏樹に謝りたい気持ちでいっぱいだ。残りの日々を二人で笑って過ごせることを、拓海は心から望んでいる。その気持ちは変わらない。
ドアの前で、拓海は自身を落ち着かせるために大きく深呼吸し、思い切ってドアを開け、そのままの勢いで家の中へ飛び込んだ。夏樹が寂しくいるはずの部屋へと。
運悪くと言えばいいのか、モノカミと夏樹が抱き合っている場面に遭遇してしまった。
モノカミと夏樹は共有している体験が存在する。モノカミは生前の記憶がないが、おぼろげに思い出した自身の突然の死から感じる、惨殺された夏樹へのシンパシー。傷を舐め合うように二人は理解し合い、寄り添っていた。
同じ境遇を持つ者同士、お互いが相手を、自分を、幸せにしたい、そう願っていることは間違いない。が、拓海は先ほどのクニヌシの話を聞いていないこともあり、ただ、のっぴきならない様子で抱きしめ合っている二人の姿は凄まじい衝撃を拓海に与えた。
拓海の理性は完全に吹っ飛んだ。狂気にも似た拓海を見て驚く二人。拓海は有無を言わさず、二人を強引に引き離した。片腕を引っ張られた夏樹が背後にあったソファに体をぶつけ、小さく悲鳴をあげて床に転がる。もちろん、痛みではなく、拓海に乱暴に扱われたからだ。
拓海の鬼のような形相を見て、モノカミは夏樹が危ないと察知。恐る恐る起き上がろうとする夏樹に手を伸ばすそうとするが、その腕も拓海に跳ね飛ばされてしまった。
(今、たっくんに話しても信じてはもらえないか・・・。ちょっとは大人になれって話だよ)
モノカミは冷静に拓海と夏樹の様子を見ながら、チャンスをうかがっているが、拓海の動きが読めない。迂闊に夏樹に手を伸ばすことをやめ、モノカミは夏樹に目で合図をした。拓海を刺激するような言動をしないように、と。
「出て行け!ここは俺の家だ!・・・・いちゃつくなら、よそでやってくれ」
正直、モノカミはホッとした。夏樹が大怪我をする事態は避けられそうだと思った。もう夏樹の体は傷つけば癒えることはないだろう。煉獄の炎も残り少なく、元に戻すほどの回復力はないからだ。今は、夏樹の体内で弱火でトロトロと残り火を燃やしているにすぎない。
モノカミはゆっくりと立ち上がると、拓海に怯え座り込んでいる夏樹の手を取り、廊下に連れ出すことに成功した。思いの外、拓海は二人に出て行けと言ったきり、黙ったまま同じ場所に立ちすくんでいた。
部屋で一人、呆然と立っている拓海に向かって、モノカミは抑揚のない声で拓海に言った。
「たっくん。僕たちは白鳥神社に行くよ。落ち着いたら、なっちゃんを迎えに来てあげて。これは君の本意じゃないだろ」
そう言ったものの、さすがにモノカミも息をゴクリと飲み込み、振り返った拓海の動きに注視した。拓海が重い口を開こうとした時、モノカミが拓海の言葉を遮った。
「あ、今はダメだよ。たっくん、鏡で自分の顔を見てみな。人でも殺しそうな顔、してるよ」
「誰のせいでそんな顔してると思ってんだ!お前らのせいだろうが!」
「誤解されそうなシーンではあったろうけどさ。これまでの、なっちゃんのこと思い出してみて。もっと信じようよ。なっちゃんのことも、たっくん自身のことも」
心なしか優しく聞こえるモノカミの拓海を諭すように語りかける声が玄関から廊下に響いた。
「なんだよ・・・俺が悪いのか?何が誤解だよ・・・話してくれなきゃ、分かるはずないだろ!どう信じろっていうんだよ!」
拓海は二人がいる玄関に向かおうとしたが、拓海から逃げるようにモノカミの背後に隠れる夏樹が目に入ると、拓海は歩みを止めた。
「たっくん、さあ・・・話を聞いてくれるようにも見えなかったけど?じゃあ、まあ、あっちで待ってるよ」
モノカミは不安そうな夏樹に大丈夫だと囁くと、夏樹の手を引いて静かに家を立ち去った。一人残された廊下の真ん中で、膝を抱えて臥せっている拓海の姿が虚しい。
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