到着
前回は、正夫が空港に向かうところで終わりましたが、今回はその続き、つまり、目的地への到着です。
これから彼に降り注ぐ災いとはいったいどんなものか、また、どんな新しい発見をするのか。
これからの続編でもたくさん出てきます。
では、ページをめくり、彼がどうなるのか、見ていきましょう!
青い空を隠すかのように灰色に濁った雲で満たされていた。北海道の厳しい冬の中、正夫は降り立った。
「あ゛ぁ・・さぶい・・・」
空港から出た正夫は寒さに震えていた。無理もないだろう。毛皮を頼りに、なにも防寒具を持って来ず、この有様なのだ。
「コート持ってくればよかったなぁ・・・」
白い息を吐きながら、彼はどんよりした空を見上げた。
しばらくは自分の足で歩き、途中からヒッチハイクをする予定らしい。持っている地図だけを頼りに、彼は空港を離れた。
1時間ほど歩き、そろそろヒッチハイクしようとしてた。さすがにずっと歩き続けたので、脚の疲労に耐えかねたのだろう。
ヒッチハイクお決まりのサインを出しながら待っていた。車が1台来た。だがしかし通り過ぎていった・・・。また1台来たが、これも通過・・・。しばらくはこれが続いた。
もう来ないだろう
と思い、
次でやめようか
と諦めかけていた。
そんなふうに考えてるとき、その1台が向こうから走ってきた。もう諦めたかのように、サインをだらしなく出した。
すると、やってきた車はスピードを緩め、やがて止まった。
窓から50代位の男性が正夫に言った。
「おう、あんちゃん。後ろの荷台なら乗っていいぞ。」
言われて彼はホッと安心した。行き先を告げて、車の荷台に乗った。エンジン音の鈍い音がなり、車は発進した。
「ほんとにこんなとこでいいのかい、あんちゃん?ここ辺りはなんにも無いぞ?」
程なくして、目的地に着いた。そこは何も無い、ただの平原である。唯一、この何も無い荒地のような場所に何かあるかといえば、黒い巨大な森が南の方にあった。まるで、平原という広い果ての無い海にぽっかり浮かぶ小島のような深い森であった。
「大丈夫です。ここからは自分の足で行くので。有難うございました。」
「おう、そうかい。気を付けなよ!」
一礼した正夫に親切な男性はそう言い、去っていった。
平原に吹く冷たい風に当たりながら、重いトランクケースを引きずって森に向かった。
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飛行機に乗る前、彼は持っていたチケットとは別の、ある手紙を持っていた。届いたのは3ヶ月前で、送り主は不明だった。だが、中身はこうであった。
『はじめまして。
突然、このような手紙を拝見になって、貴方は驚いてるでしょう。
そこはお詫び申し上げます。
本題でありますが、獣人である貴方が東京にいるとお聞きになり、このような手紙を出させていただきました。獣人が迫害されるこの世の中、私たちは一致団結して立ち向かわなければいけません。そこで、私たちは全国の獣人たちに「獣人による同盟軍結成」を呼びかけ、勇士を募ってます。無論、拒否しても構いません。ただ、これからの我々の未来の安全を確保するためにこの軍に所属するのであれば、私たちは歓迎します。
貴方の勇気ある選択に期待を寄せます。それではまた。
追伸:この手紙は焼き捨ててください。』
手紙の裏には、集合場所らしき地図が描かれていた。場所は北海道のニセコ付近。かつてはそこに大きなリゾートホテルがあったが、今は撤退し、何もない荒地になっている。この不況のせいであろうか・・・。
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2183年に起きた大不況。その名も、「22世紀末大恐慌」。
某大国の経済が破綻し、その波が津波のごとく他の国に襲っていった、1880年代を超える大恐慌である。失業者が多数出て、その日暮しの民が増える一方で、なんとか生き残って金を稼ぐことができた獣人たちであった。それを人間たちは妬み、自分たち人間を汚す邪魔な存在だ、と言って彼らを迫害し始めた。居場所がいなくなった獣人たちは散りじりに別れ、一族としての結束が消滅してしまった。
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暗い森の中を一人でとぼとぼ歩いていた。周りは何も見えず、ただ木々ばかりが続いていた。重いトランクケースと、恐怖という重い、暗い荷物を背負いながら歩くこと30分、彼は少し休憩することにした。そばにあった岩に腰掛け、用意していた握り飯1つを食べた。
森の中なので、さすがに風は吹かなかったが、正夫の毛皮につく水滴が多く、体が少し重い気がしていた。森に入るまではしっとりしていた毛並みも、今はごわごわになっている。食べ終わった後にブラシで毛並みをなおしたが、濡れた毛はどうすることもできなかった。タオルで拭いても、またすぐに水滴がついてしまうからである。
この不思議な森で休憩し、再び歩くこと20分、彼は何か違和感を持つようになった。強い「何か」の視線が彼に突き刺さっているのだ。ひとつの丸い粘土にいくつもの針が刺さるかのように、彼の身体を貫いていた。
正夫はそれを感じながらも、先を急ぐために歩き続けた。だが、歩くたびにその視線も付いてくる。
我慢できなくなった正夫は立ち止まった。
すると
「ガサガサッ」
右のほうにある草むらが揺れた。
驚く正夫に追い討ちをかけるかのように、周りのほかの草むらも揺らいだ。
前の草むらが鳴り終わったと思った瞬間、
「ザザッ」
後ろの草むらから急に黒い影が彼に向かって突っ込んできた。
彼は反射的に「それ」を避けた。一瞬であるが、ナイフを持っているのが見えた。それを見た瞬間、彼は認識した。
「敵だ」と。
「その」黒い影がいなくなったと思ったら、また来た。それも2つ。
必死になって避けるが、体力が追いつかない。毛がこんなに濡れていなければ速く避けられただろう。
やっとのことで避けたが、今度は複数の影が円陣を組んで、彼を取り囲んだ。いつ攻撃するかわからない緊張に包まれた彼を、ひとつの影が背後から襲う。避けようとしたが無理だった。足を躓き、転んでしまったのだ。倒れた彼に「それ」は馬乗りした。
殺される!
そう思い、死ぬ覚悟をした。が、彼を襲ったのは水色の煙だった。煙を吸った正夫は動くことができず、そのまま眠ってしまった・・・・。
「・・・はっ!」
目覚めた彼が目にしたのは、ログハウスのような建物の中だった。おそらくあの煙は催眠ガスだったのだろう。ずっと眠っていたらしい。身体が重い。だが重いのはさっきの水滴のせいではなかった。よく見ると、布団に入っていることに気付いた。
誰かが入れたのはわかるが、いったい誰が・・・・
そう思ってるとき、ドアが開く音にびっくりした。
ドアの前に立ってたのは、正夫と同じ、獣人であった。見た目は正夫と同い年のように見える狼の女子だった。両手には桶のような物があった。
「起きた?怪我はない?」
優しい声が彼の耳に響いた。
「は、はい。大丈夫です・・・。」
少しモジモジした声を出して返事をした。
「さっきは乱暴な扱いをしてしまって御免なさいね。せっかくのお客様なのに。」
申し訳なさそうに言ってる彼女は、正夫の隣に座った。
この子がさっき僕を襲った者なのか!?
まだ状況を整理できてない彼であった。混乱する彼を悟ったかのように彼女は言った。
「本当は私たちが貴方を迎えに行く予定でしたが、あいにく、別の小隊が引き受けることになったので、わたしたちは援護にまわることになったんですが、少し手荒な事をしてしまったみたいですね。」
申し訳ない顔であったが、見るととてもきれいだった。今まで見たことの無い、お嬢さんのような狼だった。
「そうだ!言い忘れてたわ。私はここに住んでる、ハンナっていうの。宜しくね。」
ウィンクをした彼女を見て、顔が少し梅干のように赤くなった。
よかった。この子じゃなかったか・・・。
そう思った彼は少しホッとした。
彼は思い切って彼女に聞いてみた。
「あの・・・ここはどこなんですか?」
彼女は微笑んで返事をした。
「ここは私たち獣人達の国『フォーゲル』。その国境付近の地区『ニセコ域第3地区』よ」




