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第2.5話「城の住人たち」

お疲れ様です、皆月葵です。

本編の合間に、ちょっと一息つけるサイドエピソードをお届けします。


第2話で描いた「過酷な一日」の裏側で、城の面々がどう動いているのか。鞘の視点から覗き見る、キャットウォーク的な日常回です。

お茶でも飲みながら、のんびり読んでいってくださいね!

転生して、数週間が経った。


鞘生活にも、少しずつ慣れてきた。慣れたくはなかったが、慣れてしまった。人間——いや、鞘——というのは適応能力が高い生き物らしい。


朝はアーサーに装着されて謁見の間へ。昼は会議か執務か訓練の視察。夜は寝室に戻って、アーサーに抱きしめられながら眠る。


ルーティンが確立されてしまった。


元看護師、現エクスカリバーの鞘。転生ものの主人公としてはかなり地味な毎日だが、文句を言える口もないので黙って受け入れている。


ただ、毎日同じというわけでもなかった。


日々を重ねるうちに、城の住人たちの個性が少しずつわかってきた。声で、足音で、気配で——目がはっきりしない分、他の感覚が研ぎ澄まされていく感じがあった。


まずガウェインについて。


あの円卓会議での第一印象は「熱くてうるさい騎士」だったが、実態はもう少し複雑だった。


訓練場では若い騎士たちに向かって、朝から晩まで怒鳴り続けている。


「違う違う違う! 剣は腕で振るもんじゃない、体全体で振るもんだ! もう一回!」


「はい!」


「まだ腕だけ使ってる! 腰から動け腰から! もう一回!」


「はい!」


「声が小さい! 気合いが入ってない証拠だ! もう一回!」


(うるさいな)


でも不思議なことに、若い騎士たちはガウェインを嫌っていない。「もう一回!」と言われるたびに、むしろ顔が明るくなっていく。


熱量が、そのまま伝わるタイプの人間なのだろうと思った。


ケイについては、謁見の間でその存在を知った。


アーサーへの報告が淡々と続く中、一人だけ極端に事務的な声の騎士がいた。


「食糧備蓄の報告です。現在の在庫は——」


数字を読み上げる声だった。感情が一切ない。抑揚もない。ただ正確に、必要なことだけを伝える声だった。


(渋いな)


後でアーサーがリリナに「ケイ卿の報告は毎回完璧ね」と言っているのを聞いて、あの声がケイだとわかった。


華やかさはない。でもこういう人間が城を支えているんだろうな、と思った。看護師でいえば、カルテを完璧に管理するタイプだ。


パーシヴァルについては、城の外で知った。


アーサーが視察のために城外に出たとき、城門のそばで若い騎士が迷子の子供と向き合っているのを感じ取った。


「どこから来たの? 家はわかる?」


穏やかな声だった。子供に合わせて、ゆっくり話している。


「……お母さんが」


「大丈夫。一緒に探そう。怖くないよ」


子供が泣き止む気配がした。


(優しいな)


アーサーが「パーシヴァル、また拾ってきたの?」と声をかけていたので、あの騎士がパーシヴァルだとわかった。「また」ということは、一度や二度の話じゃないらしい。


一番印象的だったのは、侍女のリリナだった。


アーサーの身の回りの世話をする侍女だ。アーサーが「リリナ」と呼ぶのを何度か聞いて、名前を知った。


このリリナという侍女が、なかなか面白い人物だった。


執務室でのある日のこと。アーサーが書類仕事をしながら、ふとリリナに言った。


「ねえリリナ、厨房に蜂蜜ってある?」


「ございます」


「少しだけ、もらえるかな」


「かしこまりました。ただ——」


リリナが少し間を置いた。


「また騎士の方々に見られないようにしないといけませんね」


アーサーの気配が、ぴたりと止まった。


「……それは、どういう意味かな」


「いえ、何も。蜂蜜をお持ちします」


(わかってて言ってるな、絶対)


リリナの足音が遠ざかっていく。軽やかで、どこか楽しそうな足音だった。


アーサーは人前では甘いものを食べない。でもリリナにだけはこっそりねだる。そしてリリナはそれを知った上で、さりげなくからかう。


二人の間に積み重なってきた時間が、その短いやり取りだけで伝わってくる気がした。


(アーサーにも、こういう顔があるんだな)


その夜。


アーサーがリリナを下がらせてから、ベッドに腰かけた。


鎧を脱いで、髪を解いた後のアーサーはいつも少し小さく見える。昼間の王としての気配が抜けて、ただの十六歳の少女に戻っていく。


「……今日も、お疲れ様」


剣に向かって、そう呟いた。


それだけ言って、アーサーは俺を抱えたままベッドに横になった。


しばらく天井を見ていた。


やがて目を閉じた。


寝息が聞こえてくるまで、少し時間がかかった。


でも今夜のアーサーの呼吸は、昨日より少しだけ穏やかだった気がした。


【第2.5話・了】

第2.5話「城の住人たち」までお読みいただき、ありがとうございます!


ガウェイン、ケイ、パーシヴァル、そしてリリナ……。本編だとなかなかじっくり描けないキャラクターたちの日常や、夜のアーサーの素顔を少しだけ書いてみました。


面白いと思っていただけましたら、応援をポチッと押していただけると、次の執筆のめちゃくちゃ大きなエネルギーになります!

次回もよろしくお願いします!

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