8 枕投げ大会
また学校に行くのが楽しみで、憂鬱。美花はそんな不思議な気分だった。
学校自体は楽しみだ。だが、亜美菜に会うのが気まずかったし、亜美菜との関係をそのまま美穂に勘違いさせていたかった。
「みはなちゃんに友達できたみたいで嬉しいな!」
自分のことのようにそう言ってくれた美穂に、本当はそうではないなんて言えなかった。今はもう、亜美菜のことより、その関係を美穂に知られて悲しい思いをさせてしまうかもしれないということが悲しかった。
今日は土曜だった。美花が昼ご飯の準備をしている間、美穂は色々と考えていた。
(あみな⋯⋯なんか聞いたことあるんだけど⋯⋯何だっけ?)
亜美菜という名前を、どこかで聞いたような気がしていた。その人と会う前に、何かの話で聞いたような違和感があった。
「えー⋯⋯」
思わず声に出してしまう。美花には、料理をする音のおかげで聞こえていないようだった。あみな、あみなと心のなかで呟く。
「あーっ!!」
「え、何!?」
大声を出した美穂に、美花はびくっとしながらも即座に反応した。
(あみなって⋯⋯あの時のメッセージを送った人!?)
気づくのが遅いくらいなのに、美穂は大発見をしたような気分になる。なーんだ、と思いかけ、美穂は重要なことを思い出した。
(あれ、でも、あの時のメッセージに書いてあった文章を読む限り、二人はもとから会ってるんだよね? しかもみはなちゃんは怒ってるみたいだったし⋯⋯)
急に察しが良くなった美穂は、完全に気がついてしまった。美花と亜美菜は、この前であったわけでも、仲がいいわけでもないことに。
(秘密にしてるのかな⋯⋯言わないほうが良いかな⋯⋯)
美花のためなら基本は気を遣っていたい美穂は、「気付いたということを言わない」という選択をした。
「お姉ちゃーん、ご飯できたよー」
「は、はーい!」
美穂は思いっきり駆け出す。そして、ずてーんと、お決まりのワンシーンを見せた。その横で、いつも通り美花が呆れた顔を見せていた。
美花はベッドの中で、いつものように亜美菜とのことを思い出す。
今までは「いつも」ではなかったが、亜美菜に会ってからはほぼ毎日そうだ。悩んでいると言うより、なんだかもやもやした気持ちが残った。
亜美菜は気にしていなかった。それはいい意味にも悪い意味にもなる。いい意味では、普通に接することが出来る。悪い意味では、亜美菜にはあの事が深く刻まれていない、ということだ。
関係がこじれてしまったこれを、「いじめ」に例えるとしたら、亜美菜は一生気づかずに美花を傷つけて、美花がそれを引きずり続けるのだろう。
「いじめ」ではない。もしかしたら美花も気づかずに亜美菜を傷つけているかもしれないから、「いじめ」ではないのだ。何年も引きずり続けたケンカ。これが一番近いだろう。
「あ⋯⋯日記書こう」
美花は、さっきまで考えていたことを頭の片隅に置き、日記帳を取り出す。そして、ぱらぱらとめくった。なぐり書きの言葉が、ちらほら見える。今日は、何を書こうか。そう、いつもわくわくしていた頃もあった。だが、途中から、日記帳にはもやもやしたことや嫌だったことが書かれるようになった。最近は楽しかったことを書くことも多いが、めくるたびにその時のことを思い出してしまう。
美花は、一文だけ書くと、そっと日記帳を閉じた。
(なんか、今日はあんまり書く気分じゃないな)
そう思っていても書くのは、未来の自分へ楽しかったことを少しでも多く残したいと思っている、なんて言ったら大げさかもしれないが、そんな理由だった。
「みはなちゃん! 起きてーっ」
突然美穂に起こされて、美花は渋々起き上がった。
「何ー⋯⋯?」
「枕投げしようよ、みはなちゃん!」
美穂の言葉に、「えー」と言いながら足を揺らす。時計の針はまだ二時を指していた。
「⋯⋯それ前も言ってたよね? 家に枕ないから結局布団投げになったやつ」
「えー、そうだっけ?」
(覚えてないの? 結構印象に残ってたんだけどな⋯⋯)
そう心のなかで突っ込む。
「でも大丈夫だよ! だって⋯⋯」
美穂はニコニコしながら、手に持っていたものを出す。
「⋯⋯枕買ったの!」
「買ったの!? お姉ちゃんも!?」
驚きを隠せない美花の言葉で、美穂は「あれ?」と思った。
「え、『も』ってことは⋯⋯?」
「私も買ったんだけど⋯⋯」
気まずそうに後ろから枕を取り出す。それぞれ二人分買っていたので、合計で四つだ。
「え、じゃあ枕投げ大会できるんじゃない!?」
「お姉ちゃんはそういう発想なの? 多く買っちゃったとか思わないの⋯⋯?」
美花は美穂のポジティブな考え方についていけなかった。美花は割とネガティブな方だからというのもあるが、全く気にならないのも普通に考えて不思議だった。
「じゃあ枕投げだー! えいっ」
「いきなり投げないでよー」
お互い色々と気にしていたのも忘れて、枕投げをしばらく続けていた。
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