第3話 転生先で就職した俺。就業初日からいきなり魔獣の群れと戦わされた件
人生やり直しには、保険が必要です。
俺、三枝正樹27歳は、2度目の死の覚悟を決めた。
前世では、トラブルが起こったら、上が無能無責任で、同期が無気力で、現場の古株が無駄に頑固で、決定権のない連中だけが泣きながら回していた。
俺は一人で崖っぷちだった。
けれど、ここにはアカリがいる。
講習で3日一緒だっただけの奴らが、武器を構えて走ってくる。
俺の、隣に。
悪くない。
『五体投地スライディングまっ平土下座』が群れの魔物にも効くかは知らんけど。
俺たちは決戦の場に走った。
村へ駆けつけると、すでに地獄だった。
森の奥から大量の魔物が雪崩れ込んできて、村人たちは悲鳴を上げ、右往左往している。荷車がひっくり返り、子どもたちが泣き叫ぶ。
アカリが手当たり次第に魔物を切り捨てながら、いちいち名前をあげていく。
牙猪、灰色狼、毒尾猿、巨大蜂。
小物っぽい奴らまで含めて弱点を教えようとするのだが、情報過多だし早口過ぎて意味がない。
このままでは駄目だ。
「落ち着け!!」
俺は腹の底から怒鳴っていた。
会社で何度も出した声だ。
トラブル発生、納期遅延、クレーム炎上、現場事故。そのたびに叫んだ。
「全員点呼!」
「家族単位で人数確認しろ!」
混乱していた村人たちが、びくりと動きを止める。
「村長! 俺の横に来い!」
白髭の老人が、おろおろしながら前に出た。
「責任者が見えないと全員不安になる!」
指示は吐く息一回で言える長さだ。
「避難誘導! 子どもと老人を西側の石造り倉庫へ! 一番頑丈だ!」
「走れ! 荷物は捨てろ、命が大事ならな!!」
俺の口が勝手に叫ぶ。
高速で、人員配置、動線、優先順位が組み上がっていく。
周辺の状態が鳥瞰図で頭の中に入ってくる。
『発動。エマージェンシー・レスポンス(広域)』
頭上にまた変な文字が浮かんだが、気にしている余裕などない。
「アカリ!」
「なんだ!」
「戦える奴だけ集めろ! 前衛と後衛を分ける!」
「了解!」
アカリが剣を構えて駆ける。反応が早い。仕事ができる女は好きだ。美人だし。
でっかい牙の猪が一頭、村の防御柵をぶち壊して突っ込んできた。
名前、そのままか。研修2日目の奴の同類だ。
「ご隠居!」
「心得た!」
野袴の老人が木刀、いや、いつの間にか本物の刀を抜いていた。どこから出した。
高笑いと共に一閃。
牙猪が輪切りになって地面に転がる。
「おに強ぇえ!?」
「若い頃は少々名を馳せておってな!」
「絶対少々じゃないだろう!」
毒尾猿が屋根へ飛び乗り、物陰の子どもに襲い掛かろうとする。
「騎士!」
エルフ騎士が無言で跳んだ。全身甲冑のくせに、羽みたいに動きが軽い。
猿を叩き落とし、そのまま槍で地面に縫い止める。
「確保しました」
「殺してないの!?」
「後で生態調査しますので」
「真面目か!」
灰色狼の群れが横道から回り込んでくる。
「毛皮パンツ!」
「誰が毛皮パンツだ!」
「じゃあ名前言えよ!」
「ガロンだ!」
「ガロン! 左から来る狼止めろ!」
「任せろ!!」
筋骨隆々の巨人が雄叫びとともに飛び出し、狼を一匹ずつ抱えて地面に叩きつけていく。
戦い方が野生すぎる。見た目から当たり前か。
「スーツ部長!」
「私かね!??」
「そのへんの金物と釘と木材集めろ! 簡易バリケード作れ!」
「私の製造業出身を見抜いたな、若者!」
前職部長が妙に嬉しそうに走り去った。製造業? あのスーツで?
高校生は青ざめて、鉛筆を握りしめて棒立ちだ。あれ、杖の代わりか?
「おい、七三!」
「ぼ、僕ですか!?」
「火は出せるか!」
「小さいのなら、研修で」
「十分だ! 蜂を炙れ!」
「は、はい!」
震える手から飛んだ幾つもの火球が蜂の群れを消し飛ばした。できるじゃないか。
俺は村の中央広場に立ち、怒鳴り続けた。
「チビドワーフは水を汲め! 怪我人の洗浄に使う!」
「割烹着は子どもの側にいろ! 一緒に泣いていても構わん! だが恐怖で走らせるな!!」
「扉に鍵をかけるな! 救出が遅れる!」
「火の始末確認! 延焼したら詰むぞ!」
指示が届く。目的と手段を明確にされた村人の混乱が秩序に変わっていく。
アカリが血振りをしながら戻ってきた。
そこの熊を唐竹切りにしたよね、美人だけど。
「便利な男だな、お前」
「褒めてる?」
「使いやすい」
「それ評価面談で言うやつ!」
地鳴りがした。今までよりはるかに大きい。
森の奥から、とんでもなく大きな魔物が現れる。
漆黒の牙猪。
丸太みたいに太い牙を振りたて、目が敵意と怒りに真っ赤に燃えている。
奴の肩までの高さが俺の頭を越えていた。サイズがバグり過ぎてるだろう。
「親玉か……!」
村人たちが怯んで前線が下がる。
巨大牙猪は真っ直ぐ、俺を見た。
「なんで俺なんだよ!」
あんな巨体の猛突進、避けきれない。異世界2トン、いや4トントラックだ。
終わった。
そう思った瞬間、身体がまた勝手に動いた。
「このたびは!! 誠に!! 申し訳!! ございませんでしたぁぁぁ!!」
滑舌良く雄叫びながら地面を滑り、両手両膝と額までつける完璧な謝罪姿勢。
『進化。五体投地スライディングまっ平土下座・特大』
頭上に輝くスキル名。蛍光色フチ文字になっている。
巨大牙猪が急停止した。
「効くのかよ!?」
身体の自由を奪われた魔物は困惑したように鼻を鳴らす。台風並みだ。それに、臭い。土下座の俺はまともに浴びて、涙が出た。
「今だ!!」
アカリの号令でご隠居の斬撃、騎士の槍、ガロンの投石、七三の火球が一斉に炸裂する。
ラスボス牙猪は白目をむいて倒れた。
静寂。
数秒後、村中から歓声が上がる。
「勝ったぁぁぁ!!! 土下座男がやったぞおおおお!!!」
俺は地面に突っ伏したまま呟いた。
「異世界でも謝罪が最強とか、夢がなさすぎ」
アカリが圧し殺す笑いに肩を震わせていた。美人だ。
三枝正樹
職業適性:コンサルタント
属性:永遠の中間管理職(土下座男)
・営業
・交渉
・精神耐性MAX
・謝罪会見フォームLv9
・徹夜耐性Lv8
・理不尽耐性MAX
属性が悪い方に進化した。
ブラック企業の元社畜、異世界再出発ハードモードである。
【第3話・完】
《参考資料》
『異世界転生保険株式会社』第一営業部 新人研修資料
営業マニュアル & 苦情文テンプレート集
社外秘資料
無断転載、異世界持込、勇者への開示禁止。
第一部 営業マニュアル
第一声テンプレート (自然な抑揚を心掛ける)
社会人向け「お疲れのところ失礼します。 死後の人生設計にご興味はございますか?」
中二病の学生向け「今の世界を捨てて、冒険しませんか」
高齢者向け「第二の老後、少し若めにご案内できます」
クレーマー気質向け「本日は特別にご不満の申立先をご用意しました。」
面白いと思われたら、ブックマーク、☆で応援して頂けると励みになります。
X(Twitter)でも更新情報や執筆の裏話をつぶやく予定です。よろしければフォローお願いします。ID:@OhashiS202604
4/28から投稿を始めましたが、おかげさまで日間ランキングトップ300に入ることができました!お読みいただき、本当にありがとうございます。これからも頑張ります!




