迷いの森と伝説の老いた冒険者達
今では有名になった老人パーティーの面々。
門兵と軽く挨拶を交わし、温かく見送られながら街を出た。
目指すは、ここから遥か東――人跡未踏の秘境を越えた先にある『世界の端・神々の遺跡』。
「さあ、行くぞ『オールドフェニックス』! 二度目の人生、いや二度目の『冥土の旅』の始まりだ!」
ジョンソンの掛け声とともに、四人は力強く一歩を踏み出した。
……しかし、街を出てからわずか一刻(約二時間)後。
街道の途中で、四人はピタリと足を止めた。
目の前の十字路には、古びた道標がぽつんと立っている。
「……なぁ、ジョンソン」
ジュピターが眉をひそめて道標を見つめた。
「『世界の端』って……どっちに行けばいいの?」
「……知らん」
ジョンソンは即答した。
「「「知らんのかい!!!」」」
三人の怒号が街道に響き渡った。
「当たり前だろ! 五十年ぶりの地上だぞ!? 地形も道の名前も全部変わっとるわ!」
「あのアホ神、地図くらい授けていけよ!!」
「行き先も分からずに飛び出したんか、この愚か者!!」
旅立ちの格好良さはどこへやら、路上で盛大に喧嘩を始める平均年齢(79歳)の伝説たち。
するとそこへ、ガタゴトと音を立てて一台の馬車が通りかかった。
乗っていたのは、街道を行く行商人の青年だ。
「あのー……おじいさんたち、道に迷ったんですか?」
「おお、若者よ! 助かった!」
ジョンソンが声を張り上げた。
「『世界の端』に行きたいんだが、どっちに行けばいいか知っているか!?」
行商人の青年は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「は……? 『世界の端』……? おじいさん、冗談でしょ? あそこは前人未到の魔境ですよ。そこに行くには、まずこの先にある『迷いの森』を抜けなきゃいけませんが……あそこは一度入ったら二度と出られない『帰らずの森』って呼ばれてて――」
青年が説明を言い終わる前に、四人の顔にニヤリと悪党のような笑みが浮かんだ。
「ほう……『帰らずの森』とな?」
「死人にはうってつけの散歩コースじゃな!」
「え……? え……!?」
ドン引きする青年を置き去りにして、四人は迷わず『迷いの森』へと通じる道へ突き進んでいくのだった。
※ ※ ※
「ほほー、なんとも奇妙な! 鬱蒼としてジメッとした空気感、さも幽霊でも出そうな雰囲気じゃのう?」
「って、それ俺たちだろうが! ボケたのかババァー!」
ベネットがジュピターに言い放った、その時――。
一瞬、四人の前を黒い影が掠め取っていった。
ただならぬ殺気に、四人は一斉に身構える。
「どれ、この矢を試してみるか」
ジュピターが、わずか三本しか入らない小ぶりな矢筒から一本を引き抜く。すると不思議なことに、筒の中には瞬時に新しい矢が補充され、再び三本へと戻った。
(……無限に湧き出る矢筒、か!)
ジュピターは長弓を引き絞り、気配のした大体の方角へ向けて放った。
この矢は絶対に標的を外さない【追跡の矢】――さらに神の加護【風神】が付与されている。
矢はまるで意思を持った生き物のように、空中で幾度も軌道を変えながら森の奥深くへと消えていく。
バシュッ!
遠くで風を切り裂く音が響き、直後――グァッシュ! バササッ! と巨体が落ちる重い音が響いた。
「お見事!」
ベネットが感嘆の声を上げた瞬間、すでに清蓮の姿がその場から消えていた。気配すら残さぬ完璧な隠密だ。
残る三人もまた、爆発的な脚力で音がした方向へと一気に駆け出した。
※ ※ ※
現場に辿り着くと、そこには胸を矢で射ち抜かれた体長三メートルを超える巨熊――この森の主とされるランクS魔獣『シャドウベア』が横たわっていた。
「ほう……一撃か。風神の加護、伊達ではないな」
いつの間にか巨熊の背後に立っていた清蓮が、すっと黒装束の袖口から毒塗りの暗器を引き抜く。
「いや待て清蓮、もう息絶えておるぞ。……それより見ろ、この矢筒のからくりじゃ」
ジュピターがニヤリと笑う。
「三本しか入らん安物に見えて、一本引けば即座に生成される。つまり矢切れというものが存在せんのだ」
「ふん、自慢なら後にしておけ。わしのこの『一番でかい魔導石の指輪と杖』も試させろ」
ベネットが指輪を嵌めた手を掲げると、指輪を中心に膨大な魔力が渦を巻き杖へと流れ込む、周囲の鬱蒼とした霧が一瞬で吹き飛んだ。
「……おいおい、ただの安物指輪が、魔力を限界突破させて増幅しておるぞ!?」
指輪で魔力を10倍、それをこの小振りな杖『アンプリス・ペンテ』は更に5倍増幅するんじゃ!
「ハハハ! 格安コーナーに転がっていたガラクタが、全部『神の加護持ち』の伝説級だったとはな!」
ジョンソンが背中の大剣をバシバシと叩いて豪快に笑う。
まてまて、それならこの『黒革の手袋を』
すっと拳を握り締めれば、しなやかな革の節々から途方もない波動が打診するように脈打つ。一突き繰り出せば、その破壊力を幾重にも増幅して叩き込む逸品、詠唱時間と無しだ。
清蓮が胸元へ右拳を打ち出す。
遥か10メートル先の大木がドッカンっ……折れて吹き飛んだ。
「よし! この装備があれば『帰らずの森』どころか、どこへでも行けるぞ!」
「「「おう!!」」」
死角なしの最強装備を手に入れた伝説の老いた冒険者たち。
『迷いの森』の危険などどこ吹く風で、四人は意気揚々と森の奥深く――『世界の端』を目指して突き進んでいくのだった。
つづく




